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輸出された中古車は日本の山の匂い

ぼくたちは山を散歩していた。同行したバイキング氏(仮名)が唐突に、日本の匂いというものがあると思うか、あるとしたらどんな匂いかと聞くので、よく聞く、成田で魚の匂いがするとか醤油の匂いがするとかそういう話かと思ったらそうではなかった。

バイキング氏はJDMマニアといわれる類の日本の旧車マニアで、20年ほど前に初めて祖国で憧れの日本車を手に入れた。手に入れた愛車に初めて乗った時、今まで嗅いだことのない匂いがしたそうである。

バイキング氏はその後何台かの日本車を手に入れたが、日本車はいつも良いコンディションで、走行マイルは信じられないほど少なく(シャケンで車を手放す人が多いせいだということを今シャケンに苦しんでいる彼は身をもって理解している)、いつも同じ匂いがした。

時は流れ、バイキング氏はある日観光で日本を訪れた。成田に着いた彼に衝撃が走った。

「おれの車の匂いがする!!!」

初夏の山は独特の強い緑の匂いがする。緑のにおいというか、土壌と、樹木の幹と、小川の水とか、石に張り付いた苔とか、木道に使われている木材とか、もろもろの濃いにおい。日本育ちの自分には山に行って、山の匂いだなあと気づくが、彼によると日本ではどこに行ってもこの強い緑の匂いがするそうだ。

日本の中古車は今日も世界に日本の夏山の匂いをお届けしている。



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