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大谷翔平とソクラテスの問答

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が世界一になった。(2023年3月22日)普段全く野球に興味のない私も夢中でテレビ観戦し日本中が大盛り上がりした嬉しいニュースであった。

特にアメリカで活躍している大谷翔平選手の人格的素晴らしさは世界中で話題となっているようだ。

アメリカのインタビューでは、大谷選手の返答が「感謝しかない。」に対して「あなたはどこの惑星から来たのですか?」という質問を返した。人間を超越したような返答の崇高さに、尊敬の念を感じたからこその質問だろう。

今回は、ソクラテスの「問答法」について大谷翔平と関連付けながら考えてみたい。

モテモテだった?ソクラテスってどんな人?

ソクラテスは、紀元前469年、アテナイ(ギリシア)に生まれる。父は石工、母は産婆であった。兵役に行った後、政治に携わったようだ。

父が亡くなった後、働かなくても暮らしていけるだけの遺産が手に入る。そのためかアテナイの街中で仲間たちと哲学論議をしていたようだ。

問答法と呼ばれる対話を通して、ものごとの本質を考えていこうとする思考方法を確立した。問答法に魅了される若いファン(少年)も多かったそうだ。

しかし、プライドの高い権威者に対しても問答法を行ったことで恥をかかせたとして次第に反感を買っていく。最終的には、難癖をつけて危険な思想家で若者を堕落させたという罪で告訴されてしまう。

弟子からは脱獄の機会を提供されたにもかかわらず、有罪の判決(死刑)を受け入れ自ら毒ニンジンをあおって紀元前399年亡くなったそうだ。(ウィル・バッキンガム、2019)

シビレる!問答法って何?

問答法とは、ソクラテスが対話によって哲学の実践をした手法のことである。簡単に言うと、あなたの能力を引き出すための対話術だ。

提示されたお題に対して質問を繰り返す。相手の矛盾を指摘する。相手が混乱しつつも考え続ける。最後には自分ではたどり着かないような答えを考え付くように仕向ける。教えるというよりは、相手がそうなるように気づかせる。

ソクラテスの問答法で大切なのは、まずは質問者も含め、自分の無知を自覚すること。そこから知りたくなり、人間が本来持っている素晴らしい性質(註1)を発揮したくなるようにさせること。そのために相手を混乱させる(註2)。混乱させられた状態は、「シビレエイ」のようだと例えられたそうだ。

前回のブログでも触れた、「チコちゃんに叱られる」というNHKの番組。
質問攻めにされていくと、知っていると思ったことが分からなくなり困惑する。その状態がシビレエイの状態だ。

それでも半ばムキになって答えたくなるように仕向ける。
ここが重要で、「答えたくなる」ということは「もっと知りたくなる、探究したくなる」ということ。ソクラテスは、「探究する態度」を引き出そうとしていた。この態度こそが、ソクラテスの信じる「人間が本来持っている能力(註1)」を引き出すのだ。

プライドが高い権力者がシビレエイにさせられると反感を買うだろう。しかし、これに刺激を受けて探究したくなった人からは魅力的に感じたようだ。現に若い信奉者からモテモテだったという。

ソクラテスが一番やりたかったことは、「人間本来が持っている能力」を引き出すこと。人間の能力を信じていた。それを手助けする手段が問答法なのだ。

自問自答の問答法?大谷翔平のマンダラチャート

大谷翔平は、高校一年生の時にマンダラチャートを書いたそうだ。

マンダラチャートとは、9マスの中央に目標を書き、その達成に必要なことを周囲8マスに書く。そして、中央の9マスの周囲に書いた8マスに対してさらに9マスを広げて思考を展開していくチャートだ。

大谷選手が実際に書いたマンダラチャートの内容がインターネットで公開されている。

大谷翔平が作成したマンダラチャートの内容

その中で哲学的なのは、「人間性」の9マス部分だ。人間性に必要なことを周囲8マスに書いている。「感性、愛される人間、計画性、感謝、継続力、信頼される人間、礼儀、思いやり」である。

大谷翔平の作成した「人間性」マンダラチャート

これはまさに哲学的思考により導き出した大谷翔平の人間性に対する本質的な答えだ。これを導き出したのが高校一年生だというから驚愕だ。

ソクラテスは、対話により本質を見出すように相手の力を引き出した。大谷翔平は、自らマンダラチャートを使って行っていることになる。そもそも「人間性とは何か?」なんて聞いてくれる人はいないだろうから、ここで自問自答したことは、彼の人生にとって明らかに有意義だったと考える。

この8つの本質を見出すのは簡単ではなかっただろう。このマンダラチャートを作成するにあたっては、シビレエイのようになりながらも、深く考えたのではないだろうか。
自ら導き出した本質に従って努力を重ねた結果、世界中から技術だけでなく人格的な側面までも称賛される選手になった。同じ日本人として本当に誇らしい。

大谷翔平をめざそう

ソクラテスの問答を日常に生かす方法を3つ考えてみた。

①マンダラチャートに挑戦してみる。
大谷翔平を例にとっても、問答法は自分自身で出来るということが分かる。まずは9マスから始めてみると言葉について深く考えることができる。

②相手の探究的態度を引き出そう
教育する立場にある場合にも応用できる。教えたいことを上手に小出しにするのだ。

教え過ぎ注意!

例えば、子供から「お人形のソファーがほしい。買って!」と言われたら。「ここに(資源ごみ)色々な材料になりそうなものがあるから、作ってみたら?きれいな布もあるよ。」と言ってみてはどうだろうか。一緒に途中まで作ってあげれば、やる気を引き出せるかもしれない。

部下に対しても、事細かく教え過ぎるのを控えてみる。本人が経験から学ぶ機会(シビレエイのような混乱)を奪いすぎていないか確認してみる。

③自分の探究的態度を引き出す
大谷翔平は「体づくり」に必要な食事を「朝3杯、夜7杯」と自分が必要な量をアレンジしている。

自分自身は、教えられたことをそのまま実行しているだけではないか?と考え直してみる。
日常の些細なことでも探究心を持って取り組む。それはもうソクラテスの引き出したかった探究的態度になる。

応用するのは、面倒だし正直言って大変だ。途中シビレエイのように辛い局面が訪れるかもしれない。しかしそれも含めて大谷翔平が行なったような哲学の実践かもしれないと思えば乗り越えられるだろう。学びもずっと深くなるはずだ。

哲学を身近に

今回、ソクラテスの問答法から大谷翔平さんの素晴らしさに気づいた。それは高校一年生の時に行った目標達成シートを基に努力を続けたことだ。技術だけでなく人格までも磨かれた。

私自身も見習って自分を磨きたい。そして、シビレエイになることを恐れずに、探究的態度を持ち続けたい。
私たちの中には、素晴らしい能力があるのだから!


註1:哲学用語では「エロス」という。白石(2022)によると「エロスというのは、およそ人間が自分に欠けているものを満たそうとする愛である。人を愛し、徳や美や知恵を求め、利益や名誉を欲するのは、このエロスの現れである。「善きもの」への愛と言ってもよい。(p.40)」
註2:哲学用語では「アポリア」という。

【参考文献】
・「マンダラチャート」は一般社団法人マンダラチャート協会の登録商標です。
https://mandalachart.jp/
・クラウドサーカス株式会社「【目標計画】大谷翔平が高校時代に立てた目標達成シート(マンダラチャート)がビジネスでも使える!」『エムタメ!』(2023年3月26日確認)
https://mtame.jp/column/Ohtani_Shohei/
・ウィル・バッキンガムほか『哲学大辞典』三省堂 2019年
・白石克己 俵木浩太郎『教育哲学』玉川大学教育学部教育学科通信教育課程 2022年
・ソクラテス、藤沢令夫訳『メノン』岩波文庫 1994年
・NHK「チコちゃんに叱られる!」『番組概要』(2023年3月19日確認)
https://www.nhk.jp/p/chicochan/ts/R12Z9955V3/
・株式会社PR TIMES「【テンプレート付き】大谷翔平も実践した「マンダラチャート」の使い方・書き方3ステップ」『U-NOTE』(2023年3月26日確認)


・みふねたかし『かわいいフリー素材集いらすとや』いらすとや(2023年3月26日確認)
https://www.irasutoya.com/


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