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迷信

香川県丸亀市のふるさと納税返礼品、生ニンニク。笑っちゃうほど大きなニンニクがごろごろ届くのが楽しくて、ほとんど毎年申し込んでいる。大きさ比較のつもりでもち江さんに入ってもらったら、ニンニクのほうが大きかった。

noteを見返してみたところ、この前の胚移植で7回目になるらしい。記録はつけてみるものだ。この回数にどのくらい意味があるかは分からないが、将来誰かに自慢できる機会もあるかもしれない。

さて、判定日である。わたしはメンタルがおぼろ豆腐なので、判定日が近づくと毎回緊張で眠れなくなる。今回も寝不足のまま待合でうとうとしていると、黒文字で表示された検査結果画面がまぶたの裏に浮かんできた。血中hCG基準値以下、つまり陰性。いつもそうだもんなぁ、と夢うつつで考えていると診察に呼ばれ、慌てて診察室に飛び込んだ。

画面に表示されているhCGの値は赤文字。基準値を超える値、陽性だ。前に陽性になった時の3倍くらいの値だが、これはいいんだろうか。hCGが異常高値を示す疾患があったはずだが、基準値はいくらだったか。国試でやったのにまったく思い出せない。

ぐるぐる考えていると代診の、前回と同じ医師が説明してくれた。正常妊娠におけるhCG値は1日ごとに基準値があるそうで、この日4週2日のわたしの検査値は基準値ほぼぴったり、つまりは「順調と考えていいです」とのことだった。そういえば前回陽性になった時は「ちょっと低いですね」と言われた気がする。

一瞬めでたい気持ちになったが、ここで調子に乗ると大体ろくなことがない。紫の四男と黄色の五男が脳内で仲良く殴り合っている。戒め!戒め!わたしもそこに入れてほしい。

翌週の勤務日に合わせて胎嚢確認の予約を取り、ついでにずっと気になっていたことを聞いてみた。

「合気道行っていいですか?」

採卵周期から数ヶ月、ずっと稽古に行けていない。採卵周期は卵巣茎捻転のリスクがあると言われていたし、胚移植前の説明書にも「激しい運動はお控えください」と書かれていたので、素直に稽古を休んでいたのだ。

代診の先生によると、初期流産のほとんどは染色体異常が原因ということが分かっていて、1960年代には既に『運動は関係ない』というエビデンスが示されているのだそうだ。「中期以降は別ですが」と付け加えた上で「お腹に打撃が入ったり、お腹を強く圧迫する寝技などはやめた方がいいかもしれませんが、基本的には、この時期の運動は流産に関係ありません」と、ばっさり言い切ってくれた。

お気持ちや経験則ではない、理屈とエビデンスに全振りのお答え。これぞ大学病院。

科学が迷信をばっさり切り捨てる瞬間は、いつだってゾクゾクするほど気持ちがいい。自分の科の話題はもちろん、他科の話題でも。日々勉強し続けていれば、世界中で科学が迷信をばっさばっさと薙ぎ倒していく光景を最前列で見られる、この仕事の好きなところだ。

それにしても、1960年代とは。わたしが生まれるよりだいぶ前じゃないか。うちの母はわたしの前に妊娠した子を初期流産しているのだが、母はその時期にママチャリを愛用していたことを後悔していて「身体に余計な衝撃を与えず静かに動くよう、日頃から気をつけなさい」とわたしたち姉妹に繰り返し話していた。ママチャリのサドルから伝わる揺れが流産の原因になったと信じているようだった。この話を聞かされるたびに、なんとなく「ほんまかいな」と思っていたが、やはり迷信だったのだ。母は医療従事者ではあるが周産期医療にはあまり関わったことがないそうで、それなら仕方ないと取るべきか、そうはいっても医療従事者なんだからと言うべきか。しばらく会うつもりもないしギリギリまで報告する気もないので今のところはどうでもいいが、どこかのタイミングで迷信を掲げて突撃してきたら嫌だなぁと、今からげんなりしている。

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