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57. 再会・その3 〜花束〜

食事が終わり駅まで歩いていると可奈が「公園にいきたい!」と言ったので、可奈を真ん中にして3人で手を繋ぎ、近くの公園に向かった。  

家族連れが数組いた。祝日なのでわりと人が多く、子どもの年齢も様々だった。ボール遊びやお弁当を食べている、仲睦まじい姿が目に入る。    

私たちも端から見たら仲良し家族に見えるんだろう。まさか心療内科帰りで、1年3か月振りに再開した親子だなんて誰も思わないだろう。

道の脇にかわいい野草が生えていたので花束を作ろうと言うと、可奈は喜んで花を選び出した。花束を作るのは初めてのようで、ニコニコしていた。 

私は可奈からずっと、目が離せないでいた。
なんて可愛いんだろう。なんて愛らしいんだろう。出来ることならずっと一緒にいたい。もう二度と離れたくない。。 

だけど残酷にも時間は過ぎていった。陽が沈み始め、オレンジ色のまばゆい光が、可奈の頬を染めた。  

裕太の「もう帰ろうか」という一声で、私たちは駅まで歩き始めた。 

「なにか飲みたい!」と可奈が言うのでコンビニに寄り、可奈が好きな動物がたくさん出てくる絵本を一緒に選んで買ってあげた。

ほどなくして駅に着いた。あっという間だったけど、7時間近く一緒に居れたので、「試行面会」だと思えば、長く居れたほうだろう。

 「じゃあ、今日はここでお別れだね。これあげるね。」 
そう言って絵本を渡すと、可奈は 「ここでママに読んでほしい!パパ、いいでしょ?」とせがんだ。  

涙腺が緩みかけたけど、我慢だ。  
前もって、可奈を不安にさせないように、すんなり別れるように、と裕太から釘を刺されていたから。  
  
裕太は予想に反してあっさりと「いいよ」と言った。駅前のベンチに3人並んで腰かけ、読み聞かせた。可奈の隣で裕太がスマホを触っている。 

「ある森の奥に、くまの親子が住んでいました…。」

可奈が私の腕に頭をのせ、甘えてきた。  
  
肩越しに、柔らかい感触と体温を感じた。懐かしい感触だ。絵本を読んであげるのも久しぶりだった。家裁で、調停員さんに毎回渡していた絵本は、可奈の元に渡っているのだろうか。

 読み終わった頃、裕太が「もう帰ろうか。」と切り出すと、可奈は  
「え〜、もう帰っちゃうの?」と、むくれた。 

 私も、ずっとずっと、こうしていたかった。だけど、望んでもいないのに、別々の家に帰らなくてはいけない。実の母親なのに、次会える保証もない。 

「また会えるから、大丈夫だよ。」

裕太がそう諭すと可奈は不服そうに  
「分かった〜。」と言い、押し黙った。 

 名残惜しいけど、私はなるべく可奈を傷付けないように、裕太に迷惑がかからないようにと、笑顔でまたね、と、その場を離れた。 

可奈は裕太に手を引かれて駐車場へ向かった。何度もこちらを振り返り、手を振る。

私も立ち止まり、手を振り、見えなくなるまで見送った。 

今日が次につながりますように。 

可奈の後ろ姿を見送りながら、そう祈った。

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