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“気づき”の羅列|映画『夜明けのすべて』(2024)

鑑賞しながら得た“気づき”を羅列します。そして、“気づき”は「正解」ではなく、「私なりの思考/解釈」です。皆さんの鑑賞後の振り返りに役に立つかもしれません。もしよろしければお読みいただき、「自分ならこう考える」と改めて作品の世界に浸ってみてください。なお、当然ながらネタバレづくしです。ご注意ください。


(1)「夜」と「星」

「夜」は、人が辛い苦しみや困難の中に置かれ、進むべき道がわからずもがいている状態を示す。しかし「夜」は、「闇」だからこそ「星」が見える。その「星」は、進むべき道を示したり、後押ししてくれる「光」であり、それは周囲の「人」である。やがて夜は明ける。

(2)「夜」と「星」、その2

「夜」は映画館の上映中の劇場の「闇」であり、「星」はスクリーンに投影される映像の「光」でもある。移動式プラネタリウムのドーム内の状況ともリンクする。私たちは、時に生きる気力や目指すべき方向を見失うことがある。そんな時に映画館の闇に身を投じ、映画から活力を受け取る。映画館の暗がりを出たときに、朝を迎えたような晴れ晴れした気持ちでまた歩き出せる。本作は、映画へ愛を捧げた映画と読み取ることもできそうだ。

(3)山添くんが少しずつ回復していく

序盤に、パニック障害の症状として、「ものごとを面白いと思えない(笑えない?)」「食べ物を美味しく感じられない」「徒歩で行ける範囲でしか行動できない」(うろ覚え)と解説される。山添くんは、面白いと思えないはずだったはずが、藤沢さんに切られた自分の髪型を見て、心の底から大爆笑する。味をノイズに感じる山添くんは、無味で刺激だけある炭酸水を飲んでいるが、気づけば藤沢さんと歩きながら食べる肉まんを「美味しい」と言っている。エアロバイクを漕いでもその場に止まることしかできない山添くんは、藤沢さんから譲り受けた自転車に最初こそ乗らないが、気づけば乗れるようになっていて藤沢さんの家に忘れ物を届けにいく。こうして少しずつ回復していく。その変化をみる度、嬉しさで涙が滲む。渋川清彦演じる辻本も同じように泣いていたが、私はそれを見てさらに泣いた。

(4)栗田科学の社長兄弟のツーショット写真

二人の顔のみ光に照らされ、その周りは暗闇だ。まるで二人の顔が、夜空に浮かぶ星のようだ。

(5)栗田弟のナレーションが録音されたテープ

20年を経て山添くんたちに届く。それはまるで、星の光が長い長い年月を経て私たちに届くように。

(6)「星の光」と「映画」

(2)の補強的な話。「星の光」は長い年月を経て私たちに届くが、「映画」もまた同様。新作は1年前くらいに撮影されたものであろうし、旧作ならば何十年も前に撮影されたもの。過去から発せられたその光は確実に私たちに届いている。

(7)「地上の星」

「地上の星」と言わんばかりに、街の夜景ショットが度々挿入される。一人一人の人は生きながらにして星。

(8)Hi'Specの劇伴

ポワンポワンと柔らかい音質の、宇宙を連想させるような不思議な劇伴。作品に温かみと柔らかみを与えているように感じた。

(9)栗田弟が語る「星」

「星には様々な個性や役割がある。その役割が時の経過とともに変わることがある」(うろ覚え)。そして誰かの、何かの役に立っている。人間もまた同じ、と感じた。

(10)「自分の体はどうにもできないけど、人を助けることはできる」

(9)の続きでもあるが、人は互いに相手にとっての星になることができる。この「反転」は、栗田社長が山添くんの自転車ヘルメットを逆にかぶって反転させたり、藤沢さんが栗田弟の遺したメモを上下反転させたのと関連しているのかも。栗田弟が語った「太陽が西に落ちるのでない、私たちが立っている地球が回転しているだけ。自分が太陽だったら『西に落ちる』なんて言われたらたまったもんじゃない」(うろ覚え)という話も見方の「反転」。ちなみに藤沢さんがメモを開いた時、彼女の顔が一瞬光で照らされるのは、栗田弟が20年越しに放ったこの後(ナレーションの終わらせ方)の道筋を示す「星の光」を浴びたから?と考えた。

(11)序盤で藤沢さんが前の職場で起こした騒動

藤沢さんが勤務中に事務所で取り乱した様子が撮影されていて、その動画を上司や当事者と一緒に確認するシーン。めちゃくちゃ酷だった。あれを撮影した人がいて、それを一緒に確認しようと判断する上司、怖い。

(12)藤沢さんが山添くんに語る映画の話

月に親指をかざしてみる映画はトム・ハンクス主演『アポロ13』。おじいちゃんたちが宇宙に行く映画はクリント・イーストウッド主演・監督『スペース カウボーイ』。

以上です。いい映画はいくら反芻してもいい映画ですね。

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