映画パンフレット感想#33 『美しき仕事 4Kレストア版』
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感想
青に緑が混じったような波状に揺らぐグラデーションが強い印象を残す表紙。奥付部には、発行元がJAIHOとグッチーズ・フリースクール、デザインが佐川まりの氏と記されており、この顔ぶれが本作公開日の同月頭に公開された『ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版』のパンフレットと同一であるとすぐに気づいた。表紙だけでなく中頁のデザイン、表面の質感、サイズ、紙の厚みや手触りなど、あらゆる点に大きな違いが見られる。同時期に発行され、同一のデザイナーが手掛けた印刷物であることを思えば、その違いが楽しめるし、見事な仕事に感嘆させられる。
恥を忍ばず白状すれば、私は本作を十分に楽しむことができなかった。35mmフィルムで撮影された映像、そこに躍動する肉体、圧倒されるほどの自然の景色などを美しく感じはしたものの、刺激を受けず引き込まれず、眠気を催し何度も意識を飛ばしてしまった。それは、明確な上下関係と権力勾配が存在する兵隊という組織において、ある種のハラスメントが美しく撮られていることに欺瞞性を感じ、白けて興味が持てなかったのかもしれない。あるいは、ただ単にショットやシーンが淡々と繋がれるうち、ガルーがぼそぼそと語るモノローグに心地よくなったのかもしれない(ガルーも気持ちよさそうにデスクに突っ伏して寝てたし)。そうした“つかえ”を掘り下げたり、見落とした点を探るため、パンフレットを購入した。
私が抱いた「兵隊という組織に関する違和感」と同義かは断定できないが、クレール・ドゥニ監督へのインタビュー記事においてそれに近しいことが言及されていた。これは、上記に引用した公式の紹介にもあるとおり、本作の先行上映イベントでのトークショーでの談話である。聞き手の須藤健太郎氏とのものだけでなく、観客との質疑応答も収録されており、対話のようなより有機的な交流が生まれている。そして、そのどちらともで、監督は「戦争が現実になった現状で本作をどう考えるのか」について語っている。その内容に、私が抱いた違和感のヒントを見出せたような気がする。このインタビュー記事ではこの他、製作に至った経緯や、映画のベースになった監督自身の体験、製作裏話など、あらゆるカテゴリーのエピソードが語られているので一読をおすすめしたい。
また、私はクレール・ドゥニ監督の作品を観るのは本作が初めてだった。監督にはかねてより興味を持っていたものの、映画館で鑑賞できる機会に出会えなかったのだ。パンフ掲載の、パリ在住ジャーナリストのと魚住桜子氏の寄稿では、クレール・ドゥニの来歴を、映画作家としてのキャリアだけでなく、創作活動の原点である私生活も明らかにしながら紹介している。そこから生ずる作家性、特徴など、丁寧に解説されており、クレール・ドゥニ初心者の私にはたいへん学びになった。いつか役に立つこともあるだろうと、ほぼ全文を自前のメモに控えたほどだ。
そのほか、いくつかの記事で明らかにされていたミシェル・シュボールのキャスティング理由と、それに付随する“ある映画作品”との連続性についても興味深く読んだ。“ある映画作品”も観られる好機があれば必ず観たい。そのうえで、パンフレットで知り得た情報を念頭に置きつつ本作をもう一度観たら、また印象が変わるかもしれない。それがいつになるかわからないが、その日が来るのが楽しみなる、有益なパンフレットだった。