映画パンフレット感想#25 『システム・クラッシャー』
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感想
A5サイズで、背のあるくるみ製本。表紙には光沢の加工が施され……って、これ、前にも見たことがあるような……と思い、本作を配給したクレプスキュールフィルムの過去配給作のパンフレットを我が家の押入れから引っ張りだしたところ……
というわけで、クレプスキュールフィルムがパンフレットの装丁や基本的なデザインを全て統一していることに今更気づいたのだった。全てのパンフレットに言えることだが、写真はふんだんに収録され、テキスト量もたっぷりで、デザインも洗練されているので、どれも満足度が高い。ひょっとするとパンフレット目当てでクレプスキュールフィルム作品を追いかける、なんてファンもいるのかもしれない。
本作の大きな魅力は、やはり主人公の少女ベニーだろう。制御不能の喜怒哀楽の爆発っぷりは、見るものを強く惹きつける力がある。パンフには写真が大量に掲載されているが、そのほぼ全てにベニーが写っている。写真を眺めると、改めてベニーの表情の多彩さに驚くとともにその魅力を再発見することができる。そしてベニーを演じたヘレナ・ツェンゲルの規格外の演技力にもまた感嘆させられる。
私は本作を鑑賞して、「監督がなぜ“システム・クラッシャー”という題材を選択したのか」、「観客に安易にカタルシスを与えない作劇にしたのはなぜか」、「ドキュメンタリーと見紛うほどの演技を見せたヘレナ・ツェンゲルという天才子役について」など、気になることが複数頭をもたげていた。パンフに掲載された監督へのインタビュー記事では、これらが余すことなく言及されていてたいへん有り難かった。興味深いエピソードが盛りだくさんの記事だが、私もやや疲労感が残った125分という上映時間について語られた内容にも思わず唸った。
映画評論家の秦早穂子氏の寄稿は、主にドイツという国、国民性、歴史などを引き合いに出しながら、本作の内容を分析、解説している。私は鑑賞中、作品からドイツを舞台としている文脈を読み取れず(たぶん地名や歴史に触れるようなセリフもそれほどなかったと思う)、その点を見過ごしていたことに気づけた。また、前述の監督インタビュー記事でもドイツの歴史について触れる箇所があり、監督がそれを前提として作品に込めたねらいについても、学びとなった。
個人的に最も衝撃を受けたのは、映画執筆者の児玉美月氏の寄稿だ。児玉氏ならではの、映画の登場人物に寄り添い、心の痛みを引き受けて分かち合うような文章に、いつものようにその視点もあるのかと発見を得つつ胸を打たれたのだが、特筆すべきは冒頭部。児玉氏のごく私的な深刻なエピソードが赤裸々に綴られていたのだった。私はつい先日、児玉氏の私的な日記を読んだばかりで、それも「母との関係」が語られていたものだった。思えば「母と子」が重要なテーマである『サントメール ある被告』のパンフレットにも児玉氏の寄稿が掲載され、並々ならぬ想いが文章に滲んでいたように記憶している。児玉氏の「映画の登場人物に寄り添い、心の痛みを分かち合うような文章」の源泉が朧げながら見えてきたような気がした。そういえば、本作も『サントメール』も、ラストにはニーナ・シモンの楽曲が流れるのだった。
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