見出し画像

映画パンフレット感想#34 『マッドマックス:フュリオサ』

公式サイト

感想

横長&横開きで、サイズは縦180×横297mm。A4サイズの短辺を30mm短くした寸法。寸法設定の根拠は不明だが、前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と、そのバージョン違いの『マッドマックス 怒りのデス・ロード ブラック&クロームエディション』のパンフレットと同サイズのようだ。60ページ強で情報量も充実していることから、SNS上でも賞賛の声が多く見られた。

前作『怒りのデス・ロード』には、作中の暴力的な世界や荒々しい雰囲気からは想像がつかないほどフェミニズム要素が多分に含まれており、その意外性が作品の評価を高めるなど度々話題になっていた。続く本作では女性が単独の主人公となり、フェミニズムの文脈を引き継ぎつつさらに前景化させたように思える。また、内紛を描いた前作に対し、本作では主に二つの勢力が武力衝突し、人類が歴史上繰り返してきた戦争について長ゼリフで言及されるなど、「戦争」を強く意識した作品であると感じた。この「フェミニズム」と「戦争」についてジョージ・ミラー監督をはじめとしたスタッフ・キャストがどのような思考をし、どのように作品に反映したのかヒントを探るべく、パンフレットを購入した。

パンフレットの記事は、キャラクターや車両、固有名詞などの解説が大部分を占め、それと同程度のボリュームで、スタッフ・キャストのインタビューもあるといったバランスだ。映画批評家や専門家による寄稿記事は収録されていない。先にも述べたように作品のテーマやメッセージ性について深掘りする目的があったが、その参考となる記事や情報は物足りなかったように思う。ちなみに私は、虚構の細かい設定やトリビアを知ってもすぐに忘却してしまうため、はなから真剣に向き合わないことにしがちだったりする。一方で、パンフレットに批評家の寄稿を不要と考え、設定資料集的に楽しみたい人も多いと聞くので、そうした方には嬉しいパンフレットなのだとも思う。

ただ、インタビュー記事が充実しているのは私も有り難かった。ジョージ・ミラー監督へのインタビューはもちろん、アニメーション監督の前田真宏氏へのインタビュー(元々本作は前田氏が監督するアニメ映画として公開されるはずだった)でもミラー監督の発言や人物像を知ることができた。そして、これはあくまで私の個人的主観ではあるが、ミラー監督やクリス・ヘムズワースの談話を読むに、ミラー監督はディメンタスの人物造形に最も力を入れ、思い入れも持っている印象を受けた。

それは上述の「戦争」がやはり重要なテーマとして存在するからだろう。ミラー監督へのインタビュー記事で、監督は今まさに現実で起きている戦争について、仄めかすようなトーンではあるが触れている。そしてさらに読み進めると、ディメンタスのモデルも「戦争」に関係しているとわかる。本作のWikipediaの記事を見ると、主な撮影が2022年の6月から開始したとあり、これはロシアによるウクライナ侵攻が開始した後のことだ。となれば、本作を撮るにあたりミラー監督が、我々が生きるこの現代新たに勃発した侵略戦争に強い影響を受けたことは想像に難くない。だからこそ、戦争を描く上で、支配者であるディメンタスへの入れ込み具合が強くなっても全く不思議ではないのだ。

私が着目したもう一つのポイントであるフェミニズム的文脈については、これといって直接的に触れる箇所は見当たらなかった(見過ごしていたらスミマセン)。パンフレットから離れてしまうが、本作に登場するフェミニズム的文脈の表現を取り上げた記事がWeb上にあり、大変面白かったので紹介する(下記リンク参照)。

その他にもインタビュー記事には興味深い話が盛りだくさんだ。クリス・ヘムズワースが明かした「ディメンタスの声づくり」のエピソードや、音楽を手掛けたトム・ホルケンボルフが解説する劇中音楽で使用したある2つの特別な楽器など、改めて映画を観て確認したくなる。ちなみに「ディメンタスの声づくり」の話はWebメディアで記事を見つけたので、おまけとして記事の最後にリンクを掲載する。

正直にいえば、私好みのパンフレットではなかったが、読んだことで得られた発見も確かにあった。本作は現在進行形の戦争/侵略が背景にあり、資源や世界的地位をめぐった組織同士の衝突が起こる中で、フュリオサがその対立にからめとられず、“誰のものでもない”ひとりの人間として私的な復讐を果たす映画でもあると。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?