見出し画像

カバー屋の妻

カバーホイールを作り始めて10年。いろいろと苦労話を書いてきたけれど、そんな僕とは比較にならないくらい苦労している人がいる。子育てのこと、お金のこと、その他、面倒なことを文句ひとつ言わずに頑張ってくれている、僕の妻だ。

ミヤノカバーワークス(旧ミヤノサイクルワークス)を開業する少し前、店の入り口にレンガを敷いたほうがいいな、という話になった。業者に頼む余裕なんてないので、セメントとレンガを買ってきて、見様見真似で敷いていった。季節はたしか12月頃。ともかく寒かったことを覚えている。土を掘り、セメントを捏ねて流し込み、そこにレンガを置いていくという地味な作業。夕方腰が痛くなってギブアップした僕。そんな僕の分まで、妻は黙々と作業を続け、辺りが真っ暗になる頃、レンガを最後まで敷き詰めてくれた。僕は暖かい部屋の中から、「でかしたぞ!」とふざけていた。

画像1

上の写真右側は、プロの左官屋さんが敷いてくださった部分、左側が二人で敷いた部分になるけれど、10年経っても、凸凹することもない。

画像2

こちらの写真は、カバーの精度が出ない時期に、いっそのことディスクホイールを作ろうとなった時の試作品だ。僕のアイデアとしては、普通のスポークホイールを板で覆い、ガムテープで固定しておく。板の内側に霧吹きで水を吹き込んで、最後に発泡ウレタンスプレーを吹き込むと、発泡ウレタンが水と反応して膨らみ、板の内側をみたしてくれる。エアバルブ箇所だけ穴を開けておけば、ディスクホイールの完成という訳だ。一人では、難しいので、妻に助っ人を頼んだ。ホイールを板で覆い、ガムテープで仮固定、さらに霧吹きで内部を湿らすところまで順調に進み、いよいよ発泡ウレタンスプレーを吹き込む時に事件は起きた。「ホイールちゃんと持っとけよ!」と妻に命令し、スプレーを適当に吹き込んでいった。次の瞬間、猛烈な勢いで発泡ウレタンがカバーの内側に充満していく。そして、カバーの隙間という隙間から恐ろしい勢いでウレタンが噴出してきた。危険回避の為に逃げた僕が振り返ったとき、服が泡まみれになりながら、必死にカバーを抑え込んでいる妻がいた。

精度が出なくてイライラする僕が集中できるように、子供たちに静かにするよう、あれこれと工夫してくれる妻。

「もうカバーなんて作るのやめや!」と弱音を吐く僕に、「こんなカバーを作れるのはあなただけや」と励ましてくれる妻。

よく考えると、ミヤノカバーワークスの歴史を舞台脚本にすると、自分勝手で最低なカバー職人と、それを粘り強くサポートする太陽のような女性の悲劇の物語になってしまう。

そういえば、妻と映画をよく見るけれど、昔はサスペンスなんかを好んだ彼女が「笑える作品が良い」とリクエストするようになった。もしかすると、現実世界で笑えない状況が続きすぎているから、せめて仮想世界だけでも笑いたいのかもしれない。

あとどれだけカバーを作り続けられるかわからないけれど、いつの日か、悲劇を喜劇に変えて、彼女を心から笑わせれたらと心から思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?