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ピンチはチャンス

なんとか10年間続けてこれたカバー屋(MCW)も、コロナ禍の影響は甚大で、(もうこれでお終いや)というところまで追い込まれた。カバーホイールは、他には無い特殊な製品ということもあり、簡単に販売できるものではない。十分にカバーホイールの特性、そして扱い方を理解してもらう必要があるし、その為には、お客さんと一緒にカバーホイールの試走をして、メンテナンスなどの実演をする必要がある。

コロナ禍以前は、MCW主催のイベントを企画し、イベント会場で試乗用のカバーホイールをレンタルしながら新規顧客の開拓をしてきた。しかし、コロナ禍による非常事態宣言が発令され、イベントの開催が難しくなった。オーダーのきっかけとなるイベントの開催が困難となったことは、言い換えれば、カバーホイールの新規注文がなくなることを意味する。

正直、店を閉じようとも考えたけれど、自転車について一から教えてくださった師匠に言われた言葉が、僕を踏みとどまらせた。カバー屋を開いて間もない頃、満足なクオリティが出せず、悩んでいる時期があった。思わず、「辞めようと思います」と師匠に弱音を吐いた。師匠は「看板を下ろすのは簡単や。でも、いったん看板を下ろしたら、再び出すのは難しいで。考えてみいや。そんなに簡単に看板を上げ下げするような奴を、誰が信用するねん」と厳しめの口調で諭された。冷え冷えとした工房に座りこむ僕の頭の中を、師匠の言葉が何度も何度もリピートされていた。

復活のヒントとなったのが、Youtubeだった。様々な業種の人たちが、Youtubeを使って、顧客との新たな関係作りをスタートしていた。コンサートができないミュージシャン達の弾き語り、試合のできないプロレスラーのトークなんかは、非常に面白かった。そのような中で、特に刺激を受けたのが、ものづくり企業のYoutubeだった。再生数の多い企業チャンネルは、様々な切り口から、自社の強みを楽しくPRしている。ドッキリ企画でふざけてみる企業もあれば、ドキュメンタリー調に仕上げる企業もある。

そして思った、カバーホイールの魅力は、実際に会わないと理解してもらえないのだろうか?と。逆に、オンラインだからこそのメリットはないのか?と。まず、対面式イベントのデメリットを考えてみた。そしてふと気づいた。「デザインがないがしろになっていた」と。対面式のイベントでのオーダーの場合、お客さんはカバーそのものを気に入ってくださっているので、あまりデザインに拘らない場合が多い。場合によっては、その場でお代金をお支払いいただくことがある。目の前にパソコンがある訳でもなく、デザインは、以前にInstagramに載せていた私の作品みたいな感じでお任せ…となる。これは非常にありがたいお話ではあるけれども、もしPCで画面共有しながら、オンラインチャットなどを使い、遠隔地のお客さんと「あーでもない、こーでもない」とデザインの打ち合わせをできたら楽しいだろな、と漠然と思った。

そんなことを考えていた時に、カバーに関するお問合せメールが一件入った。工房のある京都と離れた東日本在住の方だったこともあり、さっそく、僕はオンラインでのデザイン相談を試みた。メッセンジャーチャットで画面共有しながらのデザイン相談は拍子抜けするぐらいスムーズに進み、結局一度もお会いすることなく、納品することができた。あわせて、Facebook ライブやYoutubeなどを使いながら、カバーホイールの取り付け方やメンテナンスについてもレクチャー動画を流した。そうすると、これまでカバーホイールの当たり前と思っていたことが全然伝わってなかったり、認知されていないことがわかってきた。「カバーホイールはニッチなもの」という考えが思い込みであり、ただ、自分自身の行動力の無さが主な要因であることを痛感することになった。

もしコロナ禍でなかったら、ミヤノカバーワークスは順調に業績を伸ばしていただろうか?細々と続けているか、自然消滅していたのでは、と思う。現在も業績が回復した訳ではないけれど、カバーホイールを広める為の貴重な道筋を見つけることができたことは、ピンチはチャンスに変えた、重要なターニングポイントだったと感じている。ここまで読んで、「あれっ?フルオーダーをやめるんじゃなかったの?」と過去記事を読んでくださった方は、思うかもしれない。そのあたりについては、次回投稿でお話しようと思う。



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