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しんどいけれど楽しい、楽しいけれどしんどい、それがものづくり。

以前も話したけれど、昨年はMCWカバーホイールを作り始めて10年と、節目の年だった。別に狙っていた訳ではないけれど、TYPE-1からスタートしたカバーが、一昨年(2019年)の時点でTYPE-9までバージョンアップしていた。バージョンアップの度に課題を一つずつクリアして、ほぼ完成形と思っていたカバーホイールだったけれど、ある時、お客様から「継ぎ目は消せないの」と指摘された。あまり詳しくは書けないけれど、継ぎ目消しにトライしたことはあった。カバー素材と相性の良い継ぎ目消しのそれが見つからなかったり、路面からの激しい振動で継ぎ目箇所でクラックが入る恐れなどもあり、一度はあきらめた。それが、ひょんなことから、継ぎ目消しの方法を教えていただく機会があり、さっそく工房でトライしてみた。結果はあっけなく成功した。まだまだ粗いテスト品ではあるものの、9年間無理と考えていた継ぎ目の消えたカバーを見て思った、「そうだ!10周年記念モデルを作ろう」と。

10周年記念モデル名は、これまで無機質だったモデル名【TYPE-〇〇】を、初めてコードネームにすることにした。いろいろ悩んだ挙句に採用したのがSPEEDMAN(スピードマン)。スピードマンというのは、自転車選手のタイプの一種なんだけれど、簡単に言えば、長距離を一定のペースで高速巡航することができる選手のこと。クライマーのように登りに強い訳でもなく、スプリンターのようにゴール前で急加速することもない。スピードマンが得意とするのは、長距離を一定のペースで高速巡航することだ。そう、陸上に例えればマラソン選手のような感じだ。MCWカバーホイールは、重く、例えばゼロ加速や傾度のキツイ登りは苦手かもしれないが、例えば、サーキットレースや、ビワイチ(琵琶湖一周)やアワイチ(淡路島一周)などの平坦基調のロングライドでは、抜群の効果を発揮する。一度巡航スピードまでもっていけば、バランス良く重くなったカバーホイールは慣性力がアップし、速度を維持しやすくなる。まさにSPEEDMANの為に作られたようなホイール、それがMCWカバーホイールなのだ。そんな訳で、10周年記念カバーホイールのコードネームは、SPEEDMAN(スピードマン)に決定した。

ただ、ここからが大変だった。継ぎ目を消したベースカバー自体は、早い時期に完成したものの、そのカバーを塗装してくださる職人がなかなか見つからないのだ。世の中にすでに出回っている既存の製品なら問題ないのかもしれないけれど、見たことのない円盤状の樹脂製品に、職人さんの多くは(面倒そうだな)という顔をされる。そんな中、MCWのお客さんが紹介してくださった職人さんが、カバーホイールに関心を持ってくださり、SPEEDMANの完成に向けて頑張ってくださっている。本当にただただ感謝!

ちなみに下の写真は、MCW第一弾となるプロ塗装のSPEEDMANの見本として、私がステッカーチューンで作ったカバーホイールだ。

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塗装職人さんが頑張ってくださってる間、私もただ待つのではなく、もっとも完成に近づいたSPEEDMANのプロトタイプを使って、ひたすら走っている。継ぎ目を消す以外にも、大きな改良点をいくつも加えたSPEEDMANなだけに、その改良が思わぬ改悪となっている可能性もある。だから僕は、大きな改良をした際には、必ず徹底的に走る。SPEEDMANの原型が出来上がってまもなく一年になるが、今年の僕の走行距離は、早くも1万kmを突破した。下のデータは、10月末の時点での、僕の走行記録だ。そのほとんどがSPEEDMANのプロトタイプによるものだ。

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自転車で走っているというと遊んでいるように思われるけれど、テストライドしている時の僕は、常に緊張している。旧モデルと比較してどんな変化があるのか?異音はしないか?塗装の継ぎ目部分に異常はないか?夏場の直射日光で歪んだりしないか?その他旧モデルに比べてデメリットは生じていないか?正直、まったく楽しくない。そしてなによりも、経済的にしんどい。テスト走行はいくら走っても利益を生まない。完成して、オーダーが入り、納品してこそ利益が生まれるのだ。正直、ステッカーチューンしたカバーホイールで問題ないとおっしゃってくださるお客さんもおられる。これまでにも、ステッカーチューンしたカバーを販売していた時期もあった。それでも、やはり自分が頭に思い描く理想形にこだわりたいのだ。たった一度の人生の25%を費やして作ってきたカバーホイールの完成形であるSPEEDMANは、手を抜きたくないのだ。手を抜いてしまうと、人生の25%を手を抜いたことになってしまうような気がするのだ。先月、僕はいったん、カバーホイールのオーダーをストップした。ほぼ唯一の製品であるカバーホイールを作らないということは、MCWにとって非常に厳しい選択肢ではあったが、今はとにかくギリギリまで、SPEEDMANの完成に集中したいと思った。

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まもなくSPEEDMANの製品化をスタートして1年になるが、幸いにもプロトタイプに問題が発生することもない。僕が理想とするSPEEDMANが完成するまであと少し、ひたすらペダルを回しながら、SPEEDMANをどのように広めていくかプランを練りながら、僕はワクワクとしている。

「しんどいけれど楽しい、楽しいけれどしんどい」それが、ものづくりだと、僕は思う。


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