7年間放置の空き家 動じない母

祖母が亡くなって7年経っても、空き家に残った遺品一つ片づけようとしない母。
もはや娘の私が何を言っても、聞く耳を持たない。
ここは一つ、第三者的な立場の方からプレッシャーをかけてもらおう。

私は祖母の家を管轄する役場の空き家対策担当へ電話をかけた。
どこの田舎の自治体でも空き家は深刻な問題になっているはず。
親身になって対応してくれるのではないだろうか、と期待しつつ…。

「何年も前から空き家の家があります。庭の木の枝は伸び放題、屋根の上のアンテナは倒れていて風が少しでも吹いたら飛んじゃいそう(実際そのような状況だった)。危ないデスヨー!所有者に対して注意してくださいナ」

担当者は「わかりました。何らかの対応をいたします」と言ってくれた。

それから1か月後、私はそれとなく母に尋ねた。
「今って、全国的に空き家が問題になっているよね。役場から、おばあちゃんの家をどうにかしろ、とか注意されてない?」
「そんなのあったかしら…?アァ、そういえば何か手紙がきていたかねぇ…?」

断っておくが、母はどちらかと言うと年の割には、様々な物事をしっかりと覚えているほうだ。
そして、役場からは確かに、処分を促す手紙が届いていた。
しかし、そんな母でも忘れてしまうほど役場からの手紙は印象に残っていなかったようだ。

お役所とか公的機関からの注意だったら真剣に耳を傾けるのではと期待したのだが、全く動じていなかった。 
 
遺品の処分は老父母と私では手に終えない量だ。
それならば、遺品の整理業者に依頼しよう。
処分費用は私が負担しましょう。
そんな条件を母に持ちかけても、動く気配が無い。

「整理業者って言われても、どこに頼んだらいいのか分からない」と、母が言うので、役場にオススメの処分業者を尋ねた。
空き家対策の担当者がすぐに、一般廃棄物処理業者として役場が許可している業者の一覧表をメールで送ってくれた。

そこに、たまたま祖母の家から車で数分の距離にオフィスを構える整理業者の名前を見つけた。
ホームページを見ると、遺品整理や建物の解体などを積極的に行っているようだ。
ヨシヨシ、ここに頼めばいいんじゃない?

すぐに母にこれらのことを報告した。しかし、母はまだ渋い顔をするのだった。
「今はまだいいよ…。それよりも…役場に尋ねたの?まさか私やおばあちゃんの名前とか名乗ってないでしょーね!恥ずかしい!私が許可してないんだから先走って勝手に業者に連絡なんかしないでよ!!!」

名乗るどころか、既にこちらは名前も場所も現状も全て役場に告げ口しちゃってるんですけど…。
そして役場からは注意文書が送られてきているんじゃないか!

私はとうとうキレた。

「どこの業者に頼んだらいいか分からないって言うからこっちは仕事の合間を縫ってわざわざ役場に聞いたり調べたりしたのに!もうそれならこの件について私は金輪際、何も言わないし協力もしないからね!」

祖母の家は、田舎で建物が古いこともあって、固定資産税はかなり安い。
とは言っても、誰も住んでいないし、何にも使われていない家に対して、無駄に税金を払っていることになるのだが、固定資産税が安い故に母には何の痛手にもなってないようだった。

そんな折り、2015年6月に空き家対策特別措置法が施行され、空き家に対しては従来の6倍の固定資産税が課されるというニュースを目にした(注:2015年当時の出来事を書いてます)。

6倍も税金が上がったら、母は否が応でも処分に前向きにならざるを得ないのでは?
私はこの法律施行を心から歓迎した。

法律施行のニュースを早速母に伝えた。
しかし、母は私の言葉をこう言って笑いとばした。

「なーんでそんなニュースに深刻になってるのぉ(笑)?日本国内に何軒の空き家があると思ってるの(笑)?心配ナイナイ!みんなが税金6倍になったら暴動が起こるよぉ~?!だいじょーぶデース!6倍も払えなんて強制されるわけないから〜(笑)」

………。

固定資産税を徴収する立場の皆さん!
こんなこと言ってまっせ!

全然大丈夫じゃない。
サッサと6倍の税金を強制的に取られて、それならば空き家を処分しなきゃと重い腰を上げて欲しいのに。

母の言葉を鵜呑みにはしたくなかったが、確かにその後も税金が跳ね上がることはなかった。

7年もの間、家は祖母が亡くなった日のまま。
敷きっぱなしの布団、出しっぱなしの食器、衣類、想い出の品も全部そのままで、カビや埃にまみれていくばかり。
家や庭は朽ちていくばかり。

祖母は生前、公正証書遺言まで作って母にこの家を譲る手続きをした。
その結果がこれとは。
やっぱりおばあちゃん、草葉の陰で泣いているんじゃない?

とは言っても、母の言い分も少しは理解できる。
例えば、祖母の思い出が詰まった遺品を処分する気になれない、とか。
高齢なので処分する体力と気力がない、とか等々…。

しかし、もう7年も経っているので、いい加減、気持ちの整理はつけて欲しいところだ。
処分する体力や気力がないだろう(否、普段はウォーキングとかサークル活動とかしているくらい元気なんですけどね…)から、業者に頼むことを提案しているし、処分費用は私が支払ってもいいとさえ言っているのに。



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