7年間放置の空き家 祖母の遺品を処分 かかった金額は...

祖母が亡くなってから長い間、空き家のまま放置状態だった祖母の家。
遺品整理さえもやろうとしなかった母が、やっと「やってもいい」と言い出した。

何故、気持ちが変わったのかは分からない。
ただ、母に会うたびに、「空き家をこのままにしておいても何も良いことはない」「せめて遺品だけでも整理しよう」と言い続けてはいた。

理由は何でもいい。
とにかく、母が心変わりしないうちにと、すぐに以前から目星を付けていた遺品整理会社に電話。
早速、週末に祖母宅まで見積もりに来てもらう約束を取り付けた。

見積もり当日、ヘルメットや軍手、マスク、防護着を装備し、父母とともに3人で祖母宅へ向かった。
祖母の家までは車で約1時間半。
道中、私達3人の気持ちは高揚していた。

「今日は見積もりだけだから、帰りにおばあちゃんのお墓参りもしていこう」
「そうだねー。家を片づけさせてもらいますって報告しないとねー」

予算は30万円。
結局、母自身が貯金から出すことになった。

「見積もりが30万円までだったら、そのままお願いしてもいいけど、それ以上だった場合は『持ち帰って検討します』ということにするわ」
と、母は私達に力強く言った。

私は内心、祈っていた。
「『検討します』で持ち帰ったら、いつまた母が心変わりするか分からない。どーか見積もりが30万円以下でありますように!」

約束の時間ピッタリに祖母の家に着くと、既に遺品整理会社の男性が待っていた。
名刺をもらって軽く挨拶を交わした後、早速家の中へ入るために母が玄関扉の鍵を鍵穴に差し込んだ。

「アレ…?おかしいなぁ?」

鍵穴をグリグリやっても玄関の引き戸が開かない!
まさか、この期に及んで、玄関が開かなくて振り出しに戻るの!?

焦って庭に面した窓が開かないか動き回る私。
しかし、建物は古いくせに窓には鍵がガッチリとかかっていて、開きそうにもない。  

あたふたしている私たちの後ろでジッとその様子を見ていた遺品整理会社の男性が、おずおずと話しかけてきた。

「あの…私、鍵を開けてみましょうか?」
「お願いします!!!」

さすが!遺品整理会社の人って、こういう時に備えて、開かない鍵を開ける技術を身に付けているのね~と、感心したが、男性は母と同じように鍵穴に鍵を差し込んでグリグリやっている。

男性は、すぐに気づいた。

「あ、鍵はもともとかかってないみたいですね(そもそも玄関ドアが古くなりすぎて、鍵が役割をはたしていなかった!)。(扉の開かない原因は)コレですね」
男性は、落ち着いた様子で、扉にガッチリと目張りされているガムテープをピリピリと剥がした。

「なーんだ!(笑)」
ケタケタと笑う母。
気づかなかった私も私だが、「おーい!笑うところか!目張りしたのは母だろ!忘れてたのかーい!」と、怒りのツッコミを心の中で入れた。

怪我をしてはいけないので、全員、土足で中へ入る。

昼間でもあまり日があたらず暗い室内。
祖母が亡くなって長い間、ほとんど管理されていなかった家の内部は予想通り、埃やカビ等で覆われてすっかり古くなっていた。

敷地面積約100坪、木造平屋の延べ床約70平方メートルの3DK。

タンスやベッド、冷蔵庫などの家具家電はもちろん、布団や洋服、書類、食器等、生活用品はほぼ亡くなったときのまま。
立派な額縁に入って壁に飾られている代々の家長の写真も、もちろんそのまま。
祖母が毎日、お供えをして手を合わせていた神棚も埃にまみれている。
先祖や神様に対して罰当たりなことこの上ない。

柿などの木々が生えている庭には納屋もあり、自転車や木材やら色々なもの(ゴミ)で埋め尽くされている。

庭にはやや大きい穴が複数開いていた。
「何でしょうね…?この穴は?」
私のつぶやきに、遺品整理会社の男性はさも当然のように答えてくれた。
「モグラですね」

へ~モグラか~。えっ?こ、こんなにいるってこと?
こういうのに慣れてないから、何だか怖いなぁ…。
他に動物や虫が出てきたらどうしよう…?
私は極度の虫嫌いだ。

遺品整理会社の男性は一通り、室内や庭を確認した後、私達に尋ねた。
「全ての遺品を処分しますか?それとも、一つの部屋だけ、とか部分的にやりますか?」

亡くなってからすぐに整理すれば、持ち帰って使えたり、リサイクルに出せたりする物があっただろう。
しかし、何年もたった今となっては全てが埃やカビなどにまみれていて、とても持ち帰る気にはなれない。

「現金や重要書類以外は基本、全て処分でお願いします。立ち合いはしますが、基本的には全てお任せしたいです」

気になるのはその処分費用だ。

私は遺品整理会社の男性に尋ねた。
「どれくらいの費用がかかりそうですか?」
男性は、私の問いには答えず、逆質問してきた。
「ご予算はどれくらいですか?」

「30万円です」

即座にズバッと本当の予算を答える母。
おーい!まずは低めに言おうよ~!!

「ウーーーン・・・」
母の予算額を聞くやいなや、男性は急に頭を抱えてうなりだした。
ドーシタノ!?

そして、申し訳なさそうに言うのだった。
「だいたいこの程度の一軒家の場合、私共は30万円~40万円でお引き受けしているんです…。今回は納屋にもたくさん物がありますし、40万円はいただきたいところです」

ホラミロ!

最初に本当の予算額を伝えちゃうから!
予算額の上を要求されちゃったではないか!

でも、無い袖は振れないのだ。
「うちは30万円までしか出せないんですよ。納屋は除外して、室内のみで30万円でやっていただけませんか?」

「ウーーーン・・・」
また頭を抱える男性。ソンナニアタマガイタイノ?
「35万円でしたら、もうこれからすぐにでもスタッフを呼んで、今日中にできちゃいますけど」

今日中にできるの!?
それなら話が早い!

相見積もりもとらず、その金額が妥当かどうかの検証もなく、うまいこと男性の戦術にかかってしまっているのは重々承知だが、ここで立ち止まっていたら今度はいつになるか分からない。

長年の間、処分を拒否してきた母の心が変わり(また処分拒否に転じる可能性は大)、老父母が遠出できるほど体調が良く、暑くもなく寒くもない雨も無い風も強くないほど良い天気で、私の仕事も休みで手が空いていて(私だって今日1日中、これに付き合うために、家の用事をあれこれと済ませて時間を確保し、子供を夫に預けてきたのだ)、そして遺品整理会社の都合も合っている…。

今を逃したらもうこんなタイミングは訪れないんじゃなかろうか!

私は男性に加勢した。
「今日やってくれるなら、やってもらっちゃおうよ!」

「・・・」
迷う母。そして、男性に尋ねた。
「お支払いは銀行振込みでいいんでしょうか?」
「いえ、今日この場で現金でいただきたいです」
「ありゃ、それじゃあ、今日は手持ちが無いから無理だわ」

諦めようとする母に対し、私はもう一度男性に加勢した。
「大丈夫!私、コンビニのATMで下ろしてくるから!やっちゃおうヨ!」

しばらく考え込んでいた母だったが、ついに決心したようだ。
「そうねぇ…、やってもらおうか」
「うんうん!お願いしましょ!」

35万円プラス消費税(こういうのも消費税が取られるんですねェ)で即日実施が決定した。

今日これから遺品処分の作業が始まる。

会社に電話して「今会社にいるスタッフを全てこちらへ寄越して欲しい」と急ぎ招集をかける遺品整理会社の男性。
見積もりの出し方は怪しかったが、祖母の家から車で5分ほどという非常に近い会社を選んで良かった。

すぐに若い男性スタッフ5人がトラックとともに到着した。皆さん屈強な体格をしている。
家の中に入り、ベッドやタンス、冷蔵庫といった大型の物からどんどんどんどん運び出してトラックに積み込んでいく。

ほとんど選別せずに基本すべて処分だから、作業が早い早い。

奥の納戸から、予想以上にたくさんの家財道具が出てくる。
足踏みミシン、ガラスのショーケース、漬物か何かを入れていた大きな壺、母や叔父の制服(50年以上前!)、玩具、ファミコンのカセットなんてものもあった。
いつの時代の誰のものかも分からない不思議なものも多い。
ただ、すべてが厚い埃の層の中にあった。

スタッフの皆さんは埃だろうがカビだろうが気にしない風で、テキパキと要領よく運び出していく。
トラックは何往復も行ったり来たりしている。

その横で、私達はタンスの引き出し内など、重要な書類が入っていそうな所をチェック。電気が通ってなくてうす暗い家の中で、なんとか書類を判別し、ひとまず持ち帰りたいものをビニール袋に入れていく。

冬だったからか恐れていた虫や動物類とは全く鉢合わせをしなかった。

処分作業が進む中、私は車で15分ほどもかかる最寄りのコンビニに走った。
支払い用のお金をATMでおろすためだ。
ついでにコーヒーやお菓子、おにぎり、のど飴(埃がひどいので喉を傷めませんように)などを買いこんでスタッフの皆さんに差し入れた。

2時間後、作業が終わった。

あれだけ多くの物があった家の中はがらんどうになった。
後に残ったのは、小さなビニール袋1袋分の書類のみ。

35万円プラス消費税を渡すと、遺品整理会社の男性達は風のように素早く去っていった。
長年の懸念事項がたった2時間であっけなく終了。
手荒いやり方だったかもしれないが、母の顔は晴れ晴れとし、帰りの車内は明るく弾んだ。

しかし、予算の都合で処分できなかった外の納屋いっぱいに入った物(ゴミ)や、荒れた庭、建物をどうするか?という問題は残されてはいるのだが。


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