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祖母の空き家 不動産屋へ売却の相談 でも売れない

もう自分達では一切、空き家となっている祖母の家を活用できなくなっている(それどころか敷地内にさえ入るのが難しくなっている)。

この現実を、所有者である母に伝えた。


「おばあちゃんの家、森になってるよ!早くどうにかしないといけないと思うよ。不動産屋に売却の相談とかしてみない?(売れるかは分からないが…)」


「えー?この間遺品を処分したばかりでしょう?まだ売るとかは先でいいよ」

まただ…この先延ばし症候群はどうしたら治るのだろうか?

現実を直視してもらい、一刻も早く売却するなり(売れるかは分からないが...)何らかの対応に動き出してもらわなければ、と思った。

「とにかく一度、行って見たほうがいいよ!私が車を出すからさ!一度行ってみよう!そして、行ってついでに近くの不動産屋に相談してみようよ!」


「えーしょうがないわねぇ・・・」

ブツブツ言いながら渋々応じる母。

何はともあれ、週末に父母を連れて祖母の家へ再び行くことに。
行く前に、祖母の家の近くにある不動産屋へ電話をし、売却の相談をしたいと、祖母の家の住所を伝え、相談のアポを入れた。

家に寄った後、不動産屋にも立ち寄り、うまくいけば、そのまま不動産屋で売却の申し込みだ。

週末、父母と3人で祖母の家へ向かった。
着いたのは午後2時ごろ。
ウカウカしていると、あっという間に日が暮れてしまう。
ここで長居はできない。
ただでさえ日が射さない深い森なのに、日が落ちたらもう何もできなくなってしまう。

素早く「もう自分達の手には負えない」という現状を認識してもらい、一刻も早く手放したいと感じてもらうことが目的だ。

祖母の家は先日と同様、入口に生い茂った木々。

ただ、先日夫と2人でかき分けた茂みが小さなトンネルになっており、そこから敷地に侵入することができる...はず...だったが、私達の侵入を拒むかのように、ちょうどトンネル入口の真ん中に大きなしっかりとした蜘蛛の巣が張っていた。
その辺に落ちている木の枝で蜘蛛の巣を払い除けながら木々のトンネルをくぐる。

深い森(庭)に入ると、父母に同意を求めるように告げた。
「もうこんな状態じゃあ、私達の手に負えないよねー?」

…………!!

父母を見ると、私の言葉は全く耳に入ってない様子で、一心不乱に梅の木になっている実をもぎ取る作業に夢中になっていた。

「こんなにたくさん梅の実がなっているよ!ねぇ!ビニール袋持ってない?袋に入れていこうよー(楽笑)」
母は楽しそうだった。父も無心に実をもいでいる。

たまたまビニール袋を持っていたのでそれを渡すと、袋一杯に梅の実を入れて、満足そうだ。

しかも、誰が持ち込んだのか、梯子がかかっている梅の木もあり、父母はその梯子を誰がかけたのか?という話で盛り上がっている。
実がなっている梅の木の存在が、この庭を「自分たちの手に負えないもの」というよりも、「お宝のある庭」にしてしまったようだ。

マズイ…

案の定、祖母の家を後にして、さぁ不動産屋に相談に行ってみようか?と持ち掛けた時、母は言った。
「今日は不動産屋にはお願いはしないワ」
「はっ?ここまで来て何言ってんの?今日お願いしなきゃ、いつお願いすんのよ!?」
「いや、売るとか、そういうのは嫌だワ」

冷静に私は言った。
「あのね、今日せっかく長い道を車で来たんだよ。次また来れるのはいつになるか分からないよ?時が経てば経つほど土地の価値は下がるし、建物は古くなって解体費用もどんどん高くなる。こうしている間に空き家が火事になって隣家に燃え移るとか何か事故が起こったら所有者の責任になるよ。国もどんどん空き家対策を進めているので税金だって高くなる。先延ばししたって何もいいことはないよ」
「…いや、今日はやめとく」


しかし、事前に不動産屋に電話をしていた手前、私も後には引かない。
「じゃあ、行くだけ行ってみよう。行くだけならタダだよ。不動産屋はすぐそこだよ」

不動産屋へはここから車で5分ほどだ。

渋る母を無理矢理引っ張りながら、どうにかこうにか不動産屋にたどり着いた。


事前に電話をしていたからか、私達の車が駐車場に着くなり、不動産屋の店舗からベテラン風情の女性が出てきて、迎え入れてくれた。

応接間に案内され、名刺を受け取ると、早速その担当者の女性が資料を見せながら切り出してきた。

「お客様の物件ですが、こちらでよろしいですよね?」

電話で祖母の家の住所をあらかじめ伝えていたので、担当者はその登記簿や地図を既に用意してくれていた。

登記簿には祖母の家の面積や建物の完成日、所有者である母の住所や名前、いつ相続したのか、など様々な情報が載っている。
地図は、Googleの航空写真やストリートビューで撮影された家の外観が大きくカラーコピーされていた。

老齢の母は、着席して10秒足らずで、こちらから詳細な情報を告げていないのに、祖母の家の住所や自分の名前、はたまた祖母の家の外観の写真など、様々な資料が出てきていることに、ついていけない様子。
ジーッと資料を見て黙ってうつむいている。

そんな母の様子はおかまいなしに、担当者が電卓をはじきながら畳みかけた。
「こちらの物件の場合、地価は1坪〇〇円になりまして、この面積ですと、、、600万円ですねー、その値段から売りにだしてみましょう」

「エッ!600万円?」
これまでただうつむいていた母だったが、「600万円」という思いもよらない金額に反応して顔を上げた。

「ハイ、この値段でどうですか?」
「‥‥ハイ、、お願いします」

即答!!
母にとっては思いもよらない大金だったらしい。

ベテラン風情の担当者は、その返事を聞くや否や、待ってましたとばかりに、次々と書類を出して、有無を言わさず署名を勧める。
あっという間に専任媒介契約を不動産屋と結び、いよいよ、長年空き家のままだった祖母の家が売りに出されることになった。

数日後にはウェブサイトでも不動産情報が公開された。最寄り駅から車で30分程かかるかなりの田舎の空き家。
当然、すぐに買い手が現れるはずもないだろう…

1年間何の音沙汰もなかった。

......。

…なかった、、ように思っていた。

「おばあちゃんの家、不動産屋さんから何か連絡あった?」
ある日、ふと、思い出して母(高齢)に聞いてみた。
不動産屋さんからの連絡は、所有者である母に直接来ることになっている。

「ウン、前にあったよ。『現地を見たいというお客様がいるのですが』という連絡がきたワ。ちょっと検討して折り返し返事します、ということになっているワ」
「エッ!その連絡いつあったの?」
「2週間くらい前」
「それで!?まだ返事してないの?」
「ウン」

「どうしてェーーー!!!???」
「だって、急に『見たい』って言われてもネェ…まだ、人に見せるのはいいかなぁーと思って」

すぐに不動産屋さんに電話する私。
「すみません!現地を見たいというお客様がいたそうですが、見ていただいて構いませんし、もし購入される希望があるのであれば、進めてくださって構わないですから!」
「あぁ、、なかなかお返事がないので、ちょっと他で検討してみるということになりました(苦笑)」

…悲…

さらに。
「現状のままでいいから、売り出し値(600万円)より、150万円値引いてくれれば買いたいというお客様がいる」
という不動産屋からの連絡にも
「エェ~600万円って言ってたじゃない?それなのに400万円台になっちゃうのぉ~?」と言って、渋った返事をしたため、流れたこともあったという。

…哀…

今や全国の空き家総数は850万戸。
もちろん、今後は増える一方。社会問題にだってなっている。
しかも祖母の空き家は田舎。
ますます処分しづらくなっていく。

こんなことをいくら説明しても、母はなぜか悠長に構えている。
そして、我が両親が抱える空き家はこれだけでは無かったのだった。

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