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2023大阪大学(文以外)/国語/第一問/解答解説

【2023大阪大学(文以外)/国語/第一問/解答解説】

〈本文理解〉
出典はユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons──21世紀の人類のための21の思考』(柴田裕之訳)。著者はイスラエルの世界的歴史学者。
①段落。2050年の雇用市場がどうなっているか、私たちには想像もつかない。…
②段落。…自動化が大量失業をもたらすという恐れは19世紀にさかのぼるが、これまでのところ、現実にはなっていない。産業革命が始まって以来、機械に一つ仕事が奪われるたびに、新しい仕事が少なくとも一つ誕生し、平均的な生活水準は劇的に向上してきた。それにもかかわらず、今回は違い、機械学習が本当に現状を根本から覆すだろうと考える、もっともな理由がある。
③段落。人間には二種類の能力がある。身体的な能力と認知的な能力だ。過去には機械は主にあくまで身体的な能力の面で人間と競い合い、人間は認知的な能力の面では圧倒的な優位を維持していた。…ところが今や人工知能(AI)が、人間の情動の理解を含め、こうした技能のしだいに多くで人間を凌ぎ始めている。…
④段落。「AI革命とは、コンピューターが速く賢くなるだけの現象ではない」(傍線部(1))。…この革命は、生命科学と社会科学における飛躍的発展によっても勢いづけられる。人間の情動や欲望や選択を支える生化学的なメカニズムの理解が深まるほど、コンピューターは人間の行動を分析したり、人間の意思決定を予測したり、人間の運転者や銀行家や弁護士に取って代わったりするのがうまくなる。
⑤段落。過去数十年の間に、神経科学や行動経済学のような領域での研究のおかげで、科学者は人間のハッキングがはかどり、とくに、人間がどのように意思決定を行うかが、はるかによく理解できるようになった。食物から配偶者まで、私たちの選択はすべて、謎めいた自由意思ではなく、一瞬のうちに確率を計算する何十億ものニューロンによってなされることが判明した。自慢の「人間の直感」も、実際には「パターン認識」に過ぎなかったのだ。…また、人間の脳の生化学的なアルゴリズムは、完全に程遠いことも判明した。…
⑥段落。これは「「直感」を必要とするとされている課題においてさえAIが人間を凌ぎうる」(傍線部(2))ことを意味している。もしあなたが、AIは神秘的な「勘」に関して人間の魂と競う必要があると考えているのなら、AIには勝ち目はないだろう。だが、もしAIは、確率計算とパターン認識で神経ネットワークと競うだけでいいのなら、それはたいして手強い課題には思えない。
⑦段落。…
⑧段落。歩行者の意図を予測する運転者や、お金を借りようとする人の信頼性を評価する銀行家や、交渉の場の雰囲気を測る弁護士は、魔術を頼りにしたりはしない。本人は気づいていないが、彼らの脳は、表情や声の調子、手の動き、さらに体臭まで分析して生化学的なパターンを認識している。適切なセンサーを備えたAIなら、人間よりもそのすべてをはるかに正確かつ確実にやってのけられるだろう。
⑨段落。したがって、雇用の喪失の恐れは、情報テクノロジーの興隆からのみ生じるわけではない。ITとバイオテクノロジーの融合から生じるのだ。…
⑩段落。このようにAIは、人間をハッキングして、これまで人間ならではの技能だったもので人間を凌ぐ態勢にある。だが、それだけではない。AIは、まったく人間とは無縁の能力も享受しており、そのおかげで、AIと人間との違いは、たんに程度の問題ではなく、種類の問題になった。AIが持っている、人間とは無縁の能力のうち、とくに重要なものが二つある。「接続性」(傍線部(3))と「更新可能性」(傍線部(4))だ。
⑪段落。たとえば、多くの運転者は、次々に変わる交通規則をすべて熟知しているわけではなく、しばしば違反する。そのうえ、それぞれの乗り物は独立した存在なので、二台の乗り物が一つの交差点に同時に近づくとき、運転者は自らの意図を伝えそこね、衝突することもありうる。一方、自動運転車はすべて接続しておくことが可能だ。接続した自動運転車が二台、一つの交差点に近づくと、両者は実際には二台の別個の存在ではなく、単一のアルゴリズムの一部だ。したがって、両者が自らの意図を伝えそこねて衝突する可能性は、はるかに低い。そして、交通を管轄する官庁が交通規則を変更することにしたら、自動運転車はすべて完全に同時に、たやすくアップデートでき、プログラムにバグがないかぎり、どの車も新しい規則を厳密に守る。
⑫段落。同様に、もし世界保健機関が疾病を認定したり、研究所が新薬を開発したりしたら、こうした進展を世界中の人間の医師全員に知らせることは不可能に近い。それに対してたとえ世界中に100億のAI医師が存在し、それぞれが一人の人間の健康状態をモニターしていたとしても、そのすべてを瞬く間にアップデートでき、それらのAI医師はみな、新しい疾病や薬についての自分のフィードバックを伝え合える。このような接続性と更新可能性の潜在的な恩恵はあまりに大きいので、少なくとも一部の職種では、すべての人間をコンピューターに取って代わらせることが理に適っているかもしれない。
⑬段落。個々の人間をコンピューターネットワークに切り替えたら、個別性の利点が失われるとして、異論を唱える人がいるかもしれない。たとえば、一人の人間の医師が判断を誤っても、世界中の患者を殺すこともなければ、すべての新薬の開発を妨げることもない。それに対して、もし医師全員が本当は単一のシステムにすぎず、そのシステムが間違いを犯せば、大惨事になりかねない。とはいえ実際には、統合されたコンピューターシステムは、個別性の恩恵を失わずに接続性の利点を最大化しうる。同じネットワークで多くの代替アルゴリズムを作動させることが可能だ。だから、辺鄙な密林の中にいる患者は、自分のスマートフォンを使って、単一の権威ある医師ではなく、実際には100の異なるAI医師にアクセスできる。…
⑭段落。おそらく、人間社会が受ける恩恵は計り知れない。AI医師は何十億もの人に、これまでよりもはるかに優れた医療をはるかに安く提供できるだろう。…
⑮段落。同様に、自動運転車はこれまでのものを遥かに凌ぐ輸送サービスを人々に提供できるのではないか。とくに、交通事故の死亡率を下げられるだろう。…
⑯段落。したがって、人間の仕事を守るためだけに、交通や医療のような分野での自動化を妨げるのは愚行だろう。なにしろ、最終的に守るべきなのは、職ではなく人間なのだから。余剰になった運転者や医師は、何か他にすることを見つけるしかない。


〈設問解説〉
問一 (漢字の書き取り)

a.余剰 b.疎通 c.疾病 d.恩恵


問二「AI革命とは、コンピューターが早く賢くなるだけの現象ではない」(傍線部(1))について、AI革命とはコンピューターが速く賢くなるだけでなく、さらにどのようになる現象でもあるのか。「コンピューターが[   ]現象でもある。」という文になるように、本文中の50字から60字の箇所をそのまま抜き出して、[   ]を埋めなさい。

〈答〉人間の行動を分析したり、人間の意思決定を予測したり、人間の運転手や銀行家や弁護士に取って代わったりするのがうまくなる(58)


問三「「直感」を必要とするとされている課題においてさえAIが人間を凌ぎうる」(傍線部(2))について、筆者はなぜそのように考えるのか。その理由を120字以内で述べなさい。

理由説明問題。傍線部を含む一文で把握すると、「これは/傍線部/ことを示している」となるから、「これ」の指す内容を前⑤段落にたどればよい。これより、まず「「人間の直感」も、実際には「パターン認識」にすぎなかった」(a)と、「また」の後「人間の脳の生化学的なアルゴリズムは、完全にはほど遠い」(b)を理由の核とする。合わせて、傍線部の後「もしAIは/確率計算(→bと対応)と/パターン認識(→aと対応)で/神経ネットワークと競うだけでいいのなら/それはたいして手強い課題には思えない」(c)(⑥)、「適切なセンサーを備えたAIなら、人間よりもそのすべてをはるかに正確かつ確実にやってのけられる」(d)(⑧)により解答を構成するとよい。
さらに、cで「もし〜なら」としているのは、人間の「神経ネットワーク」についてのaとbの認識は、神経科学や行動経済学の分野での科学者による「人間のハッキング」の成果を前提としている(e)(⑤)、ということを表している。これも踏まえる。以上をまとめて、解答は「科学者によるハッキングの成果として(e)/「直感」はニューロンによりなされるパターン認識であり(a)/しかも脳の生化学的アルゴリズムが不完全なものだ(b)/と確認される以上(e)/パターン認識と確率計算においてAIの方が人間の神経ネットワークよりも(c)/正確かつ確実だから(d)」となる。

〈GV解答例〉
科学者によるハッキングの成果として「直感」はニューロンによりなされるパターン認識であり、しかも脳の生化学的アルゴリズムが不完全なものだと確認される以上、パターン認識と確率計算においてAIの方が人間の神経ネットワークよりも正確かつ確実だから。(120)

〈参考 S台解答例〉
人間の「直感」も生化学的なパターン認識にすぎず、人間の情動や欲望が生化学的なアルゴリズムにすぎないのなら、AIは人間よりもはるかに正確かつ確実に確率計算とパターン認識を行い、生化学的なアルゴリズムを解読し、正しく評価すると思われるから。(118)

〈参考 K塾解答例〉
意志や情動や神秘的な霊魂に基づくとみなされた人間の意思決定が、神経回路や生化学的アルゴリズムを介したパターン認識や確率計算の帰結であるならば、情報工学や生命科学を融合したAIの方が、人間の脳の動きよりも正確かつ確実に能力を発揮できるから。(119)

〈参考 Yゼミ解答例〉
人間の情動や欲望も、一瞬のうちに行われる生化学的なアルゴリズムに過ぎず、それを正しく解読するには確率計算やパターン認識が必要となるならば、不完全な人間の脳の生化学的な直感より、AIのパターン認識のほうが遥かに正確かつ確実だから。(114)

〈参考 T進解答例〉
人間の情動や欲望や選択を支える生化学的なメカニズムの研究が進み、人間の直感もそれに基づくパターン認識に過ぎないことが科学的に解明されたが、人間の脳のアルゴリズムによる確率計算やパターン認識は不完全で、AIの正確性、確実性には及びがたいから。(120)


問四「接続性」(傍線部(3))について、AIの「接続性」とは何か。本文の内容をふまえて50字以内で説明しなさい。

内容説明問題。AI固有の能力について、とくに重要だとする二つのうち、本問では「接続性」、問五では「更新可能性」について説明する。両問の解答根拠は、主に「同様に」で並べられる⑪段落と⑫段落の具体例、⑫段落の末文で「このような接続性と更新可能性〜」と束ねられる、その前部となる。「接続性」と「更新可能性」に共有される前提を押さえた上で、そこから枝分かれするように双方の説明を的確に行いたい。
「接続性」については、⑪段落より「自動運転車は(a)/すべて接続しておくことが可能だ(b)」「(接続された二台は)単一のアルゴリズムの一部だ(c)」、⑫段落より「(接続された)AI医師はみな(a)/…自分のフィードバックを伝え合える(d)」を根拠とする。「接続性」の主体aを「複数の情報媒体」と一般化した上で、それが接続される客体を⑬段落より「コンピューターネットワーク/コンピューターシステム」として明確化する。以上より、解答は「複数の情報媒体を(a)/同一のコンピューターネットワークでつなぎ(b)/単一のアルゴリズムで(c)/連動して処理する性質(d)」となる。

〈GV解答例〉
複数の情報媒体を同一のコンピューターネットワークでつなぎ、単一のアルゴリズムで連動して処理する性質。(50)

〈参考 S台解答例〉
個別の存在をコンピューターシステムのネットワーク上で単一のアルゴリズムの一部として統合できる性質。(49)

〈参考 K塾解答例〉
個別性を保ちつつ統合的なシステムの中で単一のアルゴリズムを作動させて、規則に従うように機能する特性。(50)

〈参考 Yゼミ解答例〉
時間・空間的制約を度外視し、単一のアルゴリズムの一部として個別性を保ちつつも、全体を共有する能力。(49)

〈参考 T進解答例〉
世界中のAIがコンピューターネットワークに統合され、単一のアルゴリズムの一部として存在していること。(50)


問五「更新可能性」(傍線部(4))について、AIの「更新可能性」とは何か。本文の内容を踏まえて、25字以内で説明しなさい。

内容説明問題。引き続き前問とセットで考える。「更新可能性」については、⑪段落より「官庁が交通規則を変更することにしたら(b)/自動運転車はすべて(a)/完全に同時に、たやすくアップデートでき(c)」、⑫段落より「(AI医師)それぞれが(a)/一人の人間の健康状態をモニターしていたとしても(b)/そのすべてを瞬く間にアップデートでき(c)」が根拠とする。前問と同じく「更新可能性」の主体aを「複数の情報媒体」と一般化した上で、「複数の情報媒体が(a)/最新の情報に(b)/即時、更新できる性質(c)」と解答する。

〈GV解答例〉
複数の情報媒体が最新の情報に即時、更新できる性質。(25)

〈参考 S台解答例〉
情報の変更を完全に同時にアップデートできる性質。(24)

〈参考 K塾解答例〉
プログラムの全体を同時にかつ瞬時に刷新できる特性。(25)

〈参考 Yゼミ解答例〉
つねに最新のアルゴリズムを獲得し、活用する能力。(24)

〈参考 T進解答例〉
新たな情報を完全かつ瞬時にアップデートできること。(25)

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