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2020京都大学 国語 第一問 解答速報

出典は小川国夫の随想「体験と告白」。小川国夫は「内向の世代」の作家。京大は「内向の世代」からの出題が頻出で、近年でも16年の黒井千次「聖産業週間」、18年の古井由吉「影」(ともに小説) から出題されている。

関連 2016京大第二問「聖産業週間」↓↓
https://note.com/pinkmoon721/n/n06adc42785f5

関連 2018京大第二問「影」↓↓
https://note.com/pinkmoon721/n/nec15cf587277

問一「それと今一つ、それにこだわっている自分も見抜かれたくない」はどういうことか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
他人の納得を得るために体験談を客観的に伝えようとする過程で、話と裏腹な負の真実に加え、真実の隠蔽に拘る自己の真実をも隠そうとする傾向があるということ。(75)

〈参考 S台解答例〉
自分が勇敢であったと証明しようとする人は、自分が本当は臆病であることを隠したいだけではなく、臆病さを隠すことに固執している自分をも隠したいということ。(75)

〈参考 K塾解答例〉
人は体験を語る際に、真実の姿に直面することに耐え切れず自己を美化しようとするが、そうした自己の欺瞞的なありようをもなんとか隠し通そうとするということ。(75)

〈参考 Yゼミ解答例〉
自分の勇敢さを語る人の心の奥には、実は臆病であるという真実だけでなく、勇敢か臆病かといったことがらに拘泥する自己の卑小さも隠したい心理があるということ。(76)

問二「他人を有効に罵りたければ、自分の欠点を相手のこととして並べ立てればいい」はどういうことか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
相手が自己の欠点を見抜くのは、それに相応する弱点が相手自身にあるからなので、逆にその欠点を相手のものとして論えば、相手を確実に傷つけられるということ。(75)

〈参考 S台解答例〉
自分の弱点を自覚するつらさを知ってこそ相手の弱点も識別できるので、相手の弱点を鋭く突くには、自分の弱点を正確に知り、それを相手に列挙していけばよいということ。(79)

〈参考 K塾解答例〉
目を背けたい弱点を含め、自己の真実の姿を直視する人は、それによって得た、いかなる人にも通底する人間の苦悩を弁え、他者の弱点を痛烈に指摘できるということ。(76)

〈参考 Yゼミ解答例〉
人間は皆共通して、弱点を隠していることには触れられたくないものだから、その意識を相手のこととして指摘するだけで相手を的確に攻撃することになるということ。(76)

問三「人間が人間に対して抱くこの種の興味が、いかに矛盾しているか」はどういうことか、文中のアウグスチヌスの議論を参考に説明せよ。(四行)

〈GV解答例〉
人間は本来あわれな存在だが、他人の運命に酔い自己を直視するのを避けるため、または自己認識の甘さから、劇を見たりして他人をあわれむくせに、自己もまたあわれむべきだという事実を認めようとしないということ。(100)

〈参考 S台解答例〉
人間が人間の弱点に関心をもつのは、人間は本来弱点をもった存在であるにもかかわらず、その事実を自認しようとせず、他人の弱点に同情することによって、自己の弱点を直視・認識することを避けたいからであるということ。(103)

〈参考 K塾解答例〉
劇を見る人が、自分のあわれさに向き合うことなく他者の運命をあわれみ酔うのと同様に、自己の真実の姿に無自覚であるからこそ、弱点を含めた人間の真実を描いた小説を面白がって書いたり読んだりできるということ。(100)

〈参考 Yゼミ解答例〉
人間は本来あわれな存在であり、他者のあわれさを知ることは自分を認識することでもあるはずなのに、劇や小説が人間の弱点をあばきだすのを面白がるのは、自己の真実を直視しようとしないことに他ならないということ。(101)

問四「かつては、真実は小説でなければ語り得ないという信念さえあった」について、このような信念が失われたのはなぜか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
言葉で事実を美化する体験談の虚偽を暴き、真実を露わにしようとする小説家の試みは、それも言葉でなされる以上、いくら努力しても虚偽の上塗りに帰着するから。(75)

〈参考 S台解答例〉
真実を知ろうとするリアリズムの小説は、その考察や解釈の対象であった、人々の発する膨大な言葉そのものに比べれば、卑小な試みにすぎないことが明らかになったから。(78)

〈参考 K塾解答例〉
体験の美化や隠蔽を指摘し顕わにする小説が、人の真実の姿をさらせばさらすほど、人生とは不幸なものでしかないという決定論に陥ることに、虚しさを感じたから。(75)

〈参考 Yゼミ解答例〉
近代小説は、体験談が隠す真実をあばこうとした結果、人生は不幸に向かう崩壊の過程だという見方に行き着いたが、そのような決定論では人間の真実は語れないから。(76)

問五「これからも、或る種の人々は言葉・言葉にいどみ続けるであろう」のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。(五行)

〈GV解答例〉
言葉は真実を隠す方へと働く以上、人間の見聞するすべてを言葉で記述し、それを幾重にも言葉で語り直すことは逆に世界の真相を遠ざけるが、人間は事物に意味を求めるものであり、特に表現者は言葉の限界を知った上でなお、言葉により世界の深奥が開くのを希求するから。(125)

〈参考 S台解答例〉
人生に内包された意味を知りたいという思いは絶えないうえ、人生の外貌を形成する、人の口から出る言葉・言葉も永遠無限に増え続け、その言葉が真実を隠してしまう場合が多い。そのため小説家は、人々の言葉に向き合い真実を知ろうとする試みを絶やすことはないと考えられるから。(130)

〈参考 K塾解答例〉
人の世がもつ豊かな意味を解き明かしたいという思いに駆られた人々にとって、人の口から語られる体験談や告白は、真実を捉えようとする小説とは別に、人生の機微から生まれた生の言葉の積み重ねであり、人の世の秘密をときほぐすひとつの手がかりとなりうるものだから。(125)

〈参考 Yゼミ解答例〉
体験談からは現れてこない人間の真実の語り直しとしてのリアリズム小説は、言葉を秩序立てて整理するが、それは人々が発する言葉のほんの一部にすぎない。それでも、より人生を生々しく語る言葉の総体から真実を見出そうとするのが小説家の使命だと考えているから。(123)

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