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死人岩の恐怖体験


子供時代の思い出

私が子供だった頃、母は私たち兄弟3人を連れて、時々実家に泊りがけで帰っていた。母の実家は田舎の山の麓に建っており、広い家だった。そこには私より1つ年上のKちゃんがいた。彼は私を都会育ちのひ弱な奴だと思っていた。

私の家も地方都市で田舎だが、彼にとっては都会ということらしい。Kちゃんとはよく遊んだ。遊び場は山か川くらいであったが、私にはそれが神秘と不思議の世界だった。山奥の不気味なお稲荷さんの神社、小川に住む亀や蛍、上流にはサンショウウオもいるらしい。全てが新鮮だった。

Kちゃんとの危険な遊び

Kちゃんは自分の凄さを見せるために、特に危険な遊びに私を誘った。彼は命綱なしで絶壁の岩を登ったり、高い木に登ったりする、本当に逞しい少年だった。私も負けずに彼についていったが、絶壁の岩は本当にヤバかった。

高さ100mにも満たない山だが、片面が岩の絶壁になっていて、そこに突き出た岩をよじ登ったり、落ちないように壁から出ている小さな岩を掴んで登っていくのだ。もちろん、天然の岩山だから手すりやロープなんて付いていない。落ちたら死ぬ。

私は途中でギブアップして戻ったが、こんな遊びをよくしていた。ある日、また泊りに行ったとき、Kちゃんが「死人岩」の話をしてくれた。

死人岩の伝説

Kちゃんの家の近くには一級河川が流れており、その川に「死人岩」があるという。死人岩は岩の近くの川底に穴が開いていて、その穴が岩と繋がっている。その穴はすごい勢いで川の水を吸い込んでおり、いつも渦巻ができている。そこに落ちると穴に吸い込まれ、岩に空いている穴から死体が浮いてくるというのだ。

私は意味が全然分からなかったが、凄く神秘的でワクワクした。Kちゃんが「行こうか」と言うので、興味津々でついて行った。死人岩へは岩から岩へ飛び移りながら行かなくてはならないため、弟は置いていった。いつもは橋の上から見ていたが、岸まで降りると迫力があった。

命懸けの死人岩探検

私の家の近くにも一級河川が流れているが、全く別物だった。川に降りるまで30メートルほどの落差があり、崖に作ってある石の階段を下った。岸まで降りて川を見ると、色が深い緑色で底が見えない。かなり深く流れも早いのが分かる。川が得体の知れない恐ろしい力を持っているのを感じた。私の家の近くの川なら泳いで渡っても全然怖くないが、この川は怖くて入ることも想像できなかった。

「行くぞ」とKちゃんが言う。死人岩は岸から5メートルほど離れている。Kちゃんは近くの岸から1メートルくらい離れた岩へ飛び移り、続いて2つ目の岩へも飛び移った。そこから死人岩へのジャンプは少し遠かったが、Kちゃんが飛んで向こうから呼んだので、私も思い切って飛んだ。Kちゃんが捕まえてくれて、無事に死人岩に到着した。

不気味な岩の秘密

死人岩は本当に不気味な岩だった。岩のところどころに直径50センチメートルくらいの穴が数か所開いており、そのうちの2つの穴から丸太が突き出ていた。Kちゃん曰く、穴に吸い込まれた丸太が飛び出てきたのだという。

別の穴を覗くと水の中に丸太が見えた。切り株部分を触ってみたがびくともしない。丸太が入っていない穴もあり、覗くと深くて底が見えなかった。手を入れてみたが流れはなく、ただの水たまりのように感じた。

川底の穴の場所を聞くと、Kちゃんは岩の真下を指さした。2人で覗くと、岩の真下にくぼみがあった。よく見ると時々渦ができるのが分かった。Kちゃん曰く、水が少ない時には大きな渦巻ができているとのことだった。

私は落ちていた葉っぱや枯れ枝を渦に向かって投げてみたが、特に吸い込まれることもなく流れていってしまった。穴の近くに行くと吸い込まれるのかな・・・深い緑色の水面は不気味で怖かった。

その時、サイレンが鳴った。Kちゃんがダムの放流が始まったと言ったが、すぐには水位が上がらないから大丈夫とのことだった。私は安心して岩の探検を続けたが、水位が上がってくるのが分かった。Kちゃんを見ると、「そろそろ行こうか」と言った。

危機一髪の脱出劇

Kちゃんが最初の岩に飛び移り、「早く来い」と言うので飛ぼうとしたが、水位が上がると出ている部分が少なくなり遠くなっていた。Kちゃんは中学一年生でスポーツクラブに入っており、私は小6で彼は自分を基準に考えていたのだ。

しかし、時間が経つほど幅は広くなり不利になるのが分かった。私は思いっきり飛んだ。Kちゃんが手を取ってくれて、片足が濡れただけで助かった。次の岩は近く、岸まで逃げ切った。

Kちゃんが「ここも沈むぞ」と言い、崖の階段を登っていった。私も必死に付いて行き、後ろを振り返ると岩が沈んでいくのが見えた。脱出から数分で死人岩は完全に川の中に沈んだ。

教訓と反省

あの時、判断が遅れていたら…もしKちゃんの手を取れなかったら…思い出しても震えが出る。家に帰ったが、親にはそんなことは言わなかった。ぶん殴られるのが分かっていたからだ。

終わり。


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