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DVSでDJしてみた。

Pioneer DJ のDVSを初めてDJの現場で使った。感想を記しておく。

今回は機材持ち込みの契約だった。選択できる時は持ち込みを優先している。搬入やセッティングは面倒だが、自分が普段使っている機材でプレイできる安心感は大きい。

持ち込んだ機材はSL-1200×2、ミキサーはPioneer DJM850、REKORDBOXの入ったMacBook PRO、Pioneer Interface2、そしてDDJ-XP2。DJM850はDVSが普及するより前の世代のミキサーなので、ホットキューなどデジタルならではの便利な機能が全く使えず、そこをフォローする役割としてXP-2を導入した。結論から言えばこれはかなり正解だったと思う。

私はラウンジ系のDJで、普段はレストランやバーでBGMに徹したプレイをする機会がほとんど。音源はアナログレコードが基本。ジャンルは特定しにくいけれど、ジャズを中心にワールドミュージック、ダウンテンポなエレクトロモノとかもまぜてムードを組み立てる。

今回もラウンジ系のイベントではあるけれど、「場の雰囲気次第で盛り上げちゃって下さい。」というのがクライアントからのオーダーだった。

盛り上げるのは得意分野ではないが、言われればいちおうDJとしてある程度のことはできる。ただしダンスミュージックのレコードは所有数が少なく、どうしてもデジタル音源に頼らざるを得ない。CDJやデジタルのDJプレーヤーは所有しているので、それらを持ち込むことも考えたが、まあアナログレコードも使いたいし、どう考えてもターンテーブルでプレイしている方が見た目がよい。なわけで、この機会に最近手に入れたInterface2を使ってみようと思ったわけだ。

とにかく現場で使ったことがないシステムだから、入念に準備をする必要があった。実際に使用してみると、レコードに針を置いた後の使用感はアナログレコードでプレイしている感覚とさして違わない。しかし選曲は同じようにはいかない。ボックスの中からレコードを吟味するのとPCの画面で文字をスクロールさせるのとでは所作が全く異なる。ジャケットがないから、曲探しをアルバムのタイトルやアーティスト名などの「文字」情報に頼るしかない(画面に小さく表記されるジャケットのアートワークはそれでも少しは役に立つ)。

私はもともと固有名詞をしっかり記憶することが苦手で、それぞれの曲は視覚的な情報で記憶に紐付けされていることが多い。例えばカマシ・ワシントンの名曲 Clair de Luneなら、「あの太った黒人のサックス吹きの壮大な曲ばかり入った3枚組アルバムの金色のインナージャケットに入っている盤のだいたい真ん中らへん」みたいな感じで、便宜上ここでは「言葉」で表現したが、これが頭の中に漠然とした絵的なイメージで記録されているわけだ。

プレイ中に次(あるいはその次)にどの曲をかけるか、考えるまでもなく、その絵的なイメージが頭のなかにふんわりと浮かんでくるのである。自分で選曲しているというよりは、極端な話をすれば、もっと霊的な何か強いものに「選曲させられている。」ような感覚。*これについてはまた別の機会に詳しく話す。私はDJはある種のシャーマンに成り得ると思っている。

話は逸れたが、とにかく、選曲をするにあたって、普段のアナログレコードでプレイしている自分のセオリーはDVSシステムではほとんど使えない。更に老眼という問題もある。物理的に画面の文字が読めないのである。自宅なら老眼鏡を使えるが、現場で眼鏡を付けたりはずしたりしながらDJするのはあまり美しくない(いずれそうせざるを得なくなる時も来るかも知れない)。今のところはPCの文字表記を大きく設定して対応している。

他のDJもみんなそうしていると思うが、結局、曲の整理に時間をかけて準備をするしかない。何万にもなるストック曲を分類して整頓する作業は骨が折れたが、一度これをやっておくと後々ずっと使えることだし、このタイミングである程度自分の曲のストックをプレイリスト別にまとめることができたのは有益だったと思う。ずっと聴いていなかった曲と再会したり、改めて曲の素晴らしさを発見したり、まあ何だかんだで作業そのものも楽しかったかな。結局、私たちは音楽があれば幸せだ。

ちなみに曲の整理整頓はMusicを使っている。長年使い続けているMacだし、REKORDBOXと連動しているのもよい。今のところMusic+REKORDBOXで致命的なエラーが生じたことはなかったと思う。PCを使っているとアナログ機器にはないような小さなトラブル発生は日常だけど。

ミキサーが古いタイプのものなのでホットキューなどの機能に対応していないという話はした。それだけでなく、ミキサー側に選曲機能が全く付いていないので、曲選びもPCの方で行わなければならない。老眼で画面を睨みながらノートパソコンのいまいち反応のよくないカーソルを操作しながら曲を選んでいくのである。かなり煩わしい。

そこで導入したのがDDJ-XP2。これは機能拡張型のDJコントローラーで、PCDJ環境でさまざまなプレイを増幅させることができるマシンである。コレ、いろいろ便利なのだが、通常のDJコントローラー同様、曲を選ぶためのコントロールノブが付いている。これでCDJやDJコントローラーと全く同じ操作で手元で曲選びをすることができる。更にはホットキュー、BEAT SYNC、サンプラー、その他、PCDJで必要とされる機能のほとんど全てが標準装備されている。要するに普段使っているアナログレコード用の設備にXP2を加えることで、ほぼ完璧なPCDJ環境が整ってしまうわけだ。

もちろん、後発の新鋭ミキサーは最初からDVSを考慮して設計されていて、XP2の機能は最初から組み込まれているわけだが、もちろんプライスもそれなりだし、それらの機能はアナログレコードでDJする時には全く不必要なわけで、必要に応じて取り外しできる方が、私らのようなアナログレコード主体のDJにはより便利であると思う。

何だかXP2を宣伝するための案件記事みたいになってしまったが、今回DVSでDJするにあたって同機を導入したのはかなり正解だったと思っている。逆に「もしコレがなかったら、、」と思うと、少し怖いぐらいだ。

クライアントの意向を汲んで、四つ打ちのダンストラックもけっこう仕込んでおいた。結果まあまあフロアを盛り上げることができたと思う。アナログレコードだけではとても対応できなかった。未だに「邪道」という人もいるが、BEAT SYNC機能にはかなり助けられた。

イベントが終了し、帰宅して、システムを分解し、MacBookはDDJ1000にコネクト。(ショップやヘアサロンのためのBGMを作る仕事が定期的にあり、MacBookは通常はDDJ1000と繋がっている。自宅にはアナログ用、デジタル用それぞれ別に2つのブースを設置している。)おさらいの意味も含め、軽くダンストラックを流してみたのだが、うむ、こっちの方が断然プレイしやすい。現場でプレイしている時は気が付かなかったが、こちらの意図に機器が反応するスピードが格段に速い気がする。

逆にジャズやアンビエント系の音源はアナログ形式の方がスムーズにプレイできるような気がする。それは現場でも強く感じた。プレイ中、REKORDBOXの設定をスルーに設定してアナログレコードを何枚かかけたのだが、レコード盤特有のノイズ音なども含め、やはりヴァイナルはいいもんだなあと再認識した。ジャンルだけで使用する機器を決めるのは、ちょっと頭でっかちな考え方ではあると思うが、「扱いやすさ」という点で、それぞれアナログ向きとデジタル向きの曲があるんじゃないかとは思う。

プレイ中の自分の姿を少しビデオに撮ってみた。やはりこういう記録は必要だね。以前、同じようにプレイ中の自分を撮影した動画を見たら、しょっちゅうiPhoneを見ていて、プレイに集中できていない様子がしっかり映っていた。これじゃあお客さんはついてこない。反省して、以来、プレイ中はiPhoneには触らないというマイルールを課している。

今回、気になったのは目線。PCを見ている時間が長いのである。別にSNSとかを見ているわけじゃなくて、一生懸命(老眼の)目をこらして、次の候補曲を探しているわけだが、この所作が全く美しくないのだ。

セッティングのミスもあると思う。フロントにXP2を設置したため、MacBookを右斜め前に置くことになった。つまり選曲をしている時は顔が右を向いている。位置も高すぎた。PCをフロント中央の低い位置にセットするだけで、かなり印象は変わると思う。あとは、、どこにどの曲が入っているかをもう少し詳しく把握していることが必要かも知れない。私は現場でのインスピレーションを最も大事にするタイプのDJなので、あらかじめかける曲や曲順を決めておくようなことはスタイルに反するけれど、必要に応じてある程度、細かなセットを作っておくことも視野に入れた方がよいと感じた。アナログレコードでプレイする時だって、現場に持っていけるレコードはだかだか200枚ぐらいなわけで、何も1万曲を網羅して理解しておく必要はないだろう。

そんなわけで、DJのDVSシステム。いろいろな考え方があるけれど、私は「あり」だと思った。アナログレコードオンリーにこだわるDJへの敬意はこれまでと全く変わらない。むしろより深まったかも知れない。




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