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なぜ編集者は金のことばかり考えているのか



編集者として20年くらい仕事をしていると、金のことを考える時間がどんどん長くなってくる。住宅ローンや愚息の教育費の話ではない。外注費や生産コスト、印税率やキャッシュフロー、あるいは売上見込みと実績、利益率もろもろである。

金のことばかり考えているとは何事か。編集者たるもの、コンテンツの質を上げることに専心せよ! そんなお叱りを受けるかもしれない。

もちろん、コンテンツの質を上げるのは、編集者の大事な仕事だ。でもそのことは、金のことを考えなくて良い、ということにはならない。むしろ逆だ。編集者は、コンテンツの質を上げるために、金のことで頭を悩ませるのである。

書籍であれ音楽であれ動画であれ、編集者(つまりは、プロデューサーですね)は、著者や演者、パフォーマーといったクリエイターを相手に仕事をする。クリエイターの中には、コンテンツの質を上げることはもちろんのこと、それをどう商業的に成功させるか、そのためにどれだけの人的コストがかかるかということに自ら心を砕くことができるタイプの人もいる。ただ、大多数はそうではない。

むしろ、そういうこと(いわゆる商業ベースに乗せること)が苦手だからこそ、クリエイターになったという人だってたくさんいる。

そういうクリエイターは、1人だけでは作品を多くの人に届けることができない。さらに言えば、1人では作品を仕上げることができない(けれど、才能は潤沢に持っている)、という人だって少なくない。

編集者は、そういうタイプのクリエイターの手助けをする仕事だ。クリエイターが自分であらゆることを片付けられるなら、編集者なんていらない。自分でなんでもできる器用なクリエイターは、編集者がいなくたって世の中に自分の世界を問うことができる時代なのだから。

だから編集者は、金のことばかり考えるようになる。クリエイターが金のことを考えなくても済むように、金で失敗して、コンテンツを作れなくなってしまわないように、金のことを考えるのである。

とはいえ僕は、「売れない本」を作る行為を否定するつもりはまったくない。本であれ、動画であれ、それが形となって世の中に出たのであれば、それは一つの大きな成果だからだ。

百万部売れた本も、3000部の本も、部数だけでどっちが上とか下とか言うことはできない。3000部であっても、読んだ人の心を動かす本はいくらでもあるし、その時点でその企画は成立している。

ただ、僕は曲がりなりにもプロの編集者なので、そこからもう一歩、欲をかく。欲といっても一儲けしてやろう、ということではない。僕の編集者としての欲は、一言で言えば「継続」である。

本でも動画でも、自分が良いと思ったもの、多くの人に届けたいと思ったコンテンツには、単発ではなく、継続的に関わりたい。継続的に関わるためには、そのコンテンツの周りで経済が動く必要がある。継続を生むのは、善意ではなく、経済なのである。

だから僕は今日も、お金のことを考える。自分が良いと思ったことを、明日へとつなげていくために。

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