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「SPY×FAMILY」からヒットの法則を学ぶ

「SPY×FAMILY」がヒット街道を爆走しています。アニメが高い支持を得たことで原作単行本の売れ行きが好調です。この流れでいけば、近々映画化し、『鬼滅の刃』と同じか、それ以上の大ヒットタイトルになることはもちろん、作品の性質上、強力なIPとして育っていく可能性を十分に持っているように思います。

「SPY×FAMILY」のヒットを編集者視点から分析するのであれば、まず「家族」というキーワードに焦点をあてる必要があるでしょう。「家族」は昔から「打率」の高いテーマではありますが、以前よりもここ10年の間に、その価値が高まっているように思います。

たとえば先日も映画が大ヒットした「ワンピース」の連載スタートは25年前ですが、この作品においては「家族」は「仲間」の後ろに隠れています。重要なテーマではあるけれど、それを前に出してメインテーマにするのはちょっとためらわれる。特に少年漫画においては「仲間」の前に出てくるようなテーマではなかった。

それが、今回の「SPY×FAMILY」では完全に前景化している、というのは大きな変化です。

もちろん、この変化は「SPY×FAMILY」が起こしたものではなく、コンテンツ業界、ひいては社会全体の構造変化も反映していると思います。また、消去法的にいっても、価値観の多様化が進む現代においては、「家族」というテーマはかなり大きな「分母」を取りにいくことができる、貴重なテーマだということができるでしょう。

さて、フィクションにおいて何か大きなテーマを取り上げるときの定番の手法があります。それは、そのテーマを「壊す」「否定する」ことです。「家族」がテーマであれば「壊れた家族」を提示する。「仲間」がテーマであれば、「仲間割れ」のシーンを描くのが一番はやい、ということですね。

家族を惨殺され、一人残った妹が「鬼(=人外)」になる、というところから竈門炭治郎の物語は始まります。同じように、「SPY× FAMILY」のスタートは「偽装家族」です。

偽装家族といえば、是枝監督の「万引き家族」が思い浮かびます。「逃げるは恥だが役に立つ」の「ビジネス婚」も同じですね。「偽装家族」「偽物の家族」を描くことで、「家族とは何か」を描くわけです。手塚治虫が「人間とはなにか」を問うために「人間の感情を理解するロボット」である鉄腕アトムを創造し、「生(死)とはなにか」を問うために「火の鳥」を描いたのと同じように、「壊れた家族」によって、読者は「家族とはなにか」を突きつけられるわけです。

このように「テーマ(家族)」をひっくり返すというのは定番の手法です。創作を志す人であれば、これは知っておいたほうがいい技法のひとつです。ただ、これだけで素晴らしい作品を生み出せるか、というと、そういうわけではありません。

ここまではいわば「俯瞰的」な分析であり、アプローチです。作品というのは、マクロの、俯瞰的な視点と同時に、ミクロの、解像度を上げた分析や作業によって、初めて存在感を高めます。

たとえば、なぜアーニャはあの口調なのか。なぜ「鬼滅の刃」の煉獄杏寿郎は、あの場面で死なねばならなかったのか。なぜこのキャラクターは、こういう決め台詞なのか。……成功している作品には、必ず成功している理由があります。そしてその理由には、マクロ的・俯瞰レベルのものと、ミクロ的・高解像度レベルのものがあります。

もちろん、すべてを分析する必要はありません。好きな作品のミクロレベル、マクロレベルのいずれかひとつでも「これだ!」というものを見つけ、真似をしてみてください。それは、その人の創作において、大きな力をもたらしてくれるはずです

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