見出し画像

豆腐屋のラッパ

父親が自営業で、徒歩3分のところに
事務所を構えていた。
母親もそこで事務の手伝いをしている
時が多く、小学生や中学生の時分は
簡単なお手伝いとして
「豆腐を買っておいて」
とよく頼まれたものだ。

♪プゥーー、プー

今どきはすっかり珍しくなったが、
当時はまだラッパを吹きながら
豆腐屋さんがご近所を回っていた。
自分の住む近所には何時ごろ来るか、
スケジュールがおおよそ決まって
いるので、ボウルと小銭を握りしめ、
あらかじめ頼まれた数の豆腐を求めに
外へ出る。
何度もそうしたことが重なるうちに、
おじさんと一言二言会話を交わす
ようになり、今思えば地域の温かさ
のようなものを感じ取っていたよう
にも思う。

そんな、時折ラッパを鳴らしながら
地域を歩いて豆腐を売るスタイルを、
今も続けている女性がいる。
おじさんではない。
歳まで確認してないが、
今年4回目の歳男である私よりは
私よりも若い、まだ40歳前後の年頃
であったと記憶している。

毎日豆腐の引き売りを続けて、
今年で17年になるという。
雨だろうが、雪だろうが、
地震があった日も、コロナで
こんな状況が訪れても、
絶え間なく、である。
もうこのことだけでも、絶句する
ほどに凄いことだ。

この仕事が、大好きなのだと言う。
豆腐やお惣菜といった、取り扱って
いる品物も好きなのだろう。
しかし、それより何より、引き売り
に出てそこここで会うお客さんたち、
彼らのことが、彼らとの会話が、
愛おしくてたまらない、そんな
真っ直ぐな気持ちが伝わってくる。

TVなどでも取り上げられ、
著書も出ているので、ご存知の
方もいらっしゃるかもしれない。

菅谷晃子さん
通称「豆腐屋あこ」さん
である。

このコロナ騒ぎがあってもなお、
家族に心配されながらも毎日の
「お勤め」を欠かさなかった。
80㎏もあるリヤカーを引いて、
あちこち歩いて回るのは、男子
でもそう簡単ではない。
それでも、待っている人たちが
いると思うと、いてもたっても
いられない、そんな純粋な気持ち
でお仕事をしている。
口だけではない、実際に背中で、
行動で示しているからこそ、その
言葉の重みが伝わってくる。

ラッパを鳴らしたら、
「うるせー!
 リモートワーク中なんだよ!」
と怒鳴ってきた男がいた。
ただただ悲しかった。
そんなエピソードも話してくれた。
それでもめげずにリヤカーを引き
歩き続けた。

話が変わるが、自分が主催する
マーケティング・セミナーの
第3回目を、今日実施した。
テーマは「Product」。
日本語にすると「商品」。

「商品」がもたらすベネフィット、
価値について改めて考える時間を
取ると、色々と気付くことがある。

あこさんは、物理的な話だけを
すれば、「豆腐」を売っている。
間違いなく、それが彼女が売る
商品の中核をなすものである、
はずだ。
しかし、「豆腐」と一緒に、
色々なものを付随して売っている
こともまた、疑いがない。

実際、コロナが怖くて買い物に
出られないお年寄りに、買い物を
代行するような形で豆腐とは全く
関係のない商品を届けてあげたり
もしたそうだ。
それより何より、あこさんが笑顔
でやってきて、一言二言でも会話を
交わして、お互いに元気であること
を確認するのが楽しみな人たちが
大勢いて、彼女はそこで
「人を元気にする」
というサービスを展開している、
そう捉えることもできる。

「幸せを届けたい」というような
こともおっしゃっていたように思う。
そう、「幸せを届ける」ことも、
彼女の「Product」の一部であり、
価値提供なのだ。

そう考えると、もはや彼女は
「豆腐屋」
ではない。
「豆腐屋の仮面をかぶった
 幸せお届け屋」
さんと言うのが本質なのだろう。

あこさんのお話を聴くことが出来た
のは、「セミナー×エンタメ」
というニッチなカテゴリーを創り、
遂に20回記念大会を日曜日に迎えた
DAFの主催者、西澤さんのお陰。

このDAFで学ばせてもらったことは
折に触れて取り上げていきたい。
今日は手始めに、自分のセミナーで
扱ったネタと少し重なる部分が
あったゆえ、あこさんを紹介させて
もらった次第。
改めて、西澤さん、あこさんに感謝。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。