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ナラティブ・アプローチ

先日、最高に美味い焼鳥のお店に
行った時のこと。
散々飲んで食べた最後の〆に、
これまた最高に美味いそぼろご飯と
鶏スープをいただいた。

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既に周りのお客さんもまばらに
なっていたので、同級生でもある
大将が、これから仕込むところ
だった翌日分のスープ用巨大鍋を
見せてくれるという。
カウンターの内側、大将の仕事場
である厨房に、恐縮しながら足を
踏み入れた。

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巨大な鍋の中に、沢山の鶏ガラと
その上を覆う・・・氷?!
なぜ鶏ガラが氷漬けになっている
のか分からず、素直に尋ねると、
大きすぎて冷蔵庫には入らない
ため、仕入れてきて鍋に入れたら
氷を大量に投入し、厨房外で保管
しておくのだ、とのこと。

営業が終わったら、厨房の中に
鍋を持って来て、コトコトコトコト
時間をかけてじっくり煮込む。
滋味のあるスープを作るには、
時間と手間ひまが欠かせない。

厨房を見せてもらい、苦労話を
聞くだけで、スープから感じる
滋味がより一層味わい深くなる。
それが「物語」の力なのだろう。

ところで、「物語」に充てることの
できる英語訳には、
「ストーリー」
「ナラティブ」
の二つがある。

「ストーリー・マーケティング」
という言葉は、大分前から
使われているが、最近では
「ナラティブ・マーケティング」
という言葉も使われるように
なってきた。

「ストーリー」と「ナラティブ」、
日本語にすると同じ「物語」だが、
何か違いはあるのだろうか?
英語においては、この両者、
実のところしっかり異なる
ニュアンスを持っているようだ。

「ストーリー」は、あくまでも
自己完結している一つの物語。
語り手や聞き手がその中身に
介在する余地がない。

他方、「ナラティブ」の方は、
語り手自身が紡いでいく物語、
まだ完結はしておらず、これから
どんな方向へでも発展していく
可能性がある物語、そんな
ニュアンスなのである。

元々、この「ナラティブ」という
言葉は、医療現場において
相談相手や患者などを支援する際に
用いられてきた臨床心理学的な
解決方法の名前。
「ナラティブ・アプローチ」
と呼ばれ、相談者や患者の自主的な
「語り」を促して、その相談者や
患者自身が、自身の体験や経験が
意味することに気付いていく、
そうすることで患者の状態が改善
へと向かっていく、そんな手法の
ことなのだ。

ということで、「ストーリー」と
「ナラティブ」の違いというのは、
同じ「物語」であっても、
・主語が違う
・完結しているか否かが違う
というところにありそうだ。

「ストーリー・マーケティング」と
「ナラティブ・マーケティング」の
違いも、ここから導くことができ
そうだ。

前者は、あくまでも完結している
ストーリー自体の魅力で勝負を
する販売促進手法を指す場合が
多い。
例えば、
「シンデレラ」のストーリーを
比喩的に使って、化粧品のCMを
作って流す、なんてことが考え
られる。

後者の方は、お客様を巻き込んで、
お客様自身の「ナラティブ=物語」
を刺激したり、対話できるような
形でアプローチをすることになる。
例えば、
同じ「シンデレラ」であっても、
「あなたの理想の王子様は誰?」
という問いに答えてもらい、
なぜ自分はその王子様を選んだ
のか自問自答させ、その答えに
寄り添う形で、「だったらこの
リップカラーがベストチョイス」
と提案するようなことができる
かもしれない。

焼鳥屋さんの話から始まって、
大きく話が逸れたような気が
しなくもないが、
「ナラティブ」という言葉は
これから更に注目されていく
であろうことは間違いなく、
覚えておいて損はないだろう。

己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。