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読書難民に届けるソリューション

北海道の砂川市に「いわた書店」という
小さな本屋さんがある。
『致知』6月号で、社長の岩田徹氏が寄稿
されていたのを機に知った。

この「いわた書店」は、社長の父上が、
シベリア抑留に耐えて復員後、
炭鉱で働いて貯めたお金で始めたもの。
1990年に店長を引き継いだものの、
程なくバブルが崩壊。
それ以降、経営難に陥って、なかなか
抜け出せない状況が続いていたという。

そんな折、高校時代の知人から、

「書店に行っても面白い本が分からない。自分に合った本を見繕ってほしい。」

と言われ、1万円を手渡された。
これが発端となり、「一万円選書」という
サービスを開始。

始めた当初は、月に1件注文が入るかどうか
という状態で、万策尽きて書店を畳もうと
弁護士に相談に行った程。

しかし、ある深夜番組でこのサービスが
取り上げられるや否や、若者たちにより
SNSで瞬く間に拡散され、あれよあれよと
書店は息を吹き返したとのこと。
奥様が、「本屋の神様はいたんだ!」
呟いたのが忘れられない、
そんな印象的なエピソードが紹介されている。

この「一万円選書」なるサービスのウリは、
本は読みたいけれど何を読んだらいいのか
分からないという「読書難民」に対して、
その人の思い、悩み、葛藤などを丁寧に
汲み取った上で、最適と思われる本たちを
ピックアップしてお届け
するところ。

本人たちの限られた知識では、どんな本が
自分の参考になるか分かりかねる。
そこに、プロであり目利きである岩田氏が
オススメの本を見繕い、提案してくれる。
自分だけでは出会えなかった本に出会い、
そこから今の自分の境遇にピッタリな内容の
本を入手できて、満足度もさぞかし高いの
だろう。
サービス提供が追い付かず、毎年僅か一週間の
受付期間で一年間の希望者募集が終わり、
その後毎月抽選で購入者を選ぶという段取り。

結果論かもしれないが、
地方の小さな一書店が生き残る上で、
非常に理に適ったマーケティングを
展開している
と言える。

とにかくたくさん量を売るような、
大型書店やAmazonなどのネット書店に対し、
同じやり方で競争するのは無謀だ。
どうやって、独自の差別化を図るのか、
そこが肝となる。

差別化の軸として、
・手軽軸(カンタン、便利さを追求)
・品質軸(製品・サービスの品質勝負)
・密着軸(お客様のかゆいところに手が届く)

これら3つが考えられる。

このうち、手軽軸で圧倒的な強さを誇るのが
Amazon。

これはもう、どこも太刀打ちできないレベル
と言って良いだろう。

品質軸に関しては、本の場合どこで買っても
本の中身自体は変わらない
ので、本屋さんが
品質軸で勝負する場合はそのサービス品質が
ポイント
となる。
この点、レビューの充実や、配送の速さなど
Amazonがやはり強い印象だ。

となると、残された密着軸で勝負するのが、
地方書店にとっては生き残れる確率が最も
高い方法だと考えられる。
そして、「一万円選書」は、正に密着軸で
差別化を図ったサービス
だと評価できる
のである。

個々のお客様に、「カルテ」の記入をして
もらうことになっている。
これによって、本人がどんな嗜好なのか、
本に何を求めているのか、ピッタリの本を
選ぶ際に必要な情報をしっかり確認
する。
それを元に、目利きが責任をもって、
お客様の気持ちに寄り添うような、
そんな「選書」を行い、提案する
のだ。

Amazonは、AIを使ったレコメンデーション
エンジン
を既にフル活用し、顧客に対して
あれやこれやと本を勧めてくるのは、
皆さんご承知の通り。
その精度たるや、恐るべきレベルだ。
とはいえ、いわた書店が提供するような
「人のぬくもり」を感じさせるものかと
言われれば、さすがにそれはない。

岩田社長が最後に、

僕一人では選書できる数には限りがあります。ですから、「一万円選書」のサービスを日本中の本屋に真似してほしいのです。

と述べていたことが、是非実現していって
欲しいと願うところ。

渋谷ヒカリエにオープンした、
誰もが「自分の書店」を棚単位で開ける
「渋谷◯◯書店」も現在大人気と聞く。

日本中に点在する「本の目利き」が、
読書難民を減らすソリューションを
提供する。
そんなことが今後より一層増えていく
のかもしれない。

己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。