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トイレットペーパーの市場

デマが発端と言われている、
今回の品薄騒ぎ。
コロナウィルスのせいで、マスクが
ほとんど手に入らない状況が久しく
続く中、公立学校の休校要請の
あったタイミング辺りから、
「トイレットペーパーや
 ティッシュペーパーも
 なくなるのでは?」
などと騒ぎになり始めた。
SNS上では、
「誰かが焚きつけたに違いない!」
などと、まことしやか言われている。
真実は正直分からないし、
追求する時間も勿体ないので、
それはおいておこう。

ただ、現時点で分かっているのは、
トイレットペーパーの国内在庫は
十分あり、それを政府も小売店も
しっかり認識していて、冷静な対応を
消費者に求めているということ。
焦って買い溜めする人がいても、
すぐに店頭在庫の状況は戻るはず
なので、まったくもって焦る必要は
ないのだ。

前職で、トイレットペーパー、
ティッシュペーパーを販売する会社に
いたので、多少は事情が分かる。
そこで、当時(といっても1、2年前)
の記憶を元に、トイレットペーパー
市場について少しばかり書いてみよう
と思う。

市場におけるプレイヤーで、
パッと思いつくのには、
どんなブランドがあるだろうか?
認知度が8割を超すブランドが
3つ以上あるので、多くの方が
1つや2つは知っているだろうと
思われる。

トップブランドは、
大王製紙のエリエール。
2割ほどシェアを持っているはずだ。

次点が、
日本製紙クレシアのスコッティ。
こちらは1割強ほど。

そして、王子製紙のネピア。
スコッティに近い位置、
丁度1割位だろうか。

これらを足し合わせるだけで、
4割近いシェアに達してしまう。
いわゆる寡占市場である。

実のところ、トイレットペーパーは、
大きく分けるとパルプもの
(木材を原料にしているもの)と、
古紙もの(一旦紙製品になったものを
リサイクルしたもの)に分かれ、
概ね6対4の比率で市場が構成
されている。

上記に挙げたトップブランドたちは、
全てパルプものなので、
もし市場をパルプのみに絞ると、
シェアはそれぞれ3割、2割、2割弱
となり、なんと7割ものシェアが僅か
3ブランドで占められていることに
なるのだ。

こうした市場が出来上がっている
背景には、トイレットペーパーが
装置産業であるという事情が
密接に関係している。
原料が最終的に製品化されるまでには、
・木材をパルプ化
・パルプをジャンボロール*化
・ジャンボロール*を最終製品化
という3段階を経る。
どの段階においても、巨大な
機械を使って大量に商品を作るために、
相応の投資が必要となる。
特にパルプものを作る場合は、
大きな会社でないと、
投資に耐えられないのだ。

*トイレットペーパーのお化けの
ような、巨大なロール状の
「原紙」のこと。

パルプというのは、昔は政府が
「国策会社」を作って製造を
担っていたくらいの戦略物資。
現在の日本製紙は、様々な製紙会社が
合併を繰り返した末に誕生したのだが、
前身の企業の中に「山陽国策パルプ」
があり、その前身の片方が
「国策パルプ工業」という国策会社
だったのである。

というわけで、寡占市場とならざるを
得ないパルプものに対して、
古紙ものはまだ投資レベルが低く
抑えられるために、非常に多くの
会社が参入をして、泥沼の価格競争
状態になっている。
古紙原料が非常に安く手に入る時期が
長く続いたため、パルプものより安い
価格設定でもそれなりに利益を
確保することが出来たのだが、
ここ数年は古紙原料の値上がりで
淘汰が進んでいると聞いている。

パルプ、古紙、いずれにしても、
トイレットペーパーやその原紙を
作るためには大量の水が使われる。
その水が確保できる場所ということで、
静岡県の富士市と、
愛媛県の四国中央市が、
古くから「紙の町」として栄えてきた。

とはいえ、製紙工場は全国各地に
満遍なく作られている。
ご存知の通り、とても嵩張る商品の
ため、物流コストを出来る限り抑える
べく、大消費地に遠すぎない場所に
各々工場を建設しているというわけ。

この、嵩張るが故の物流コスト高、
という特殊事情が、海外からの輸入品
を阻む大きな理由となっている。
コンテナで海外から輸入するのは、
それこそ空気を運んでいるようなもの、
体積の割には価格が本当に安く、
利幅の薄い商売とならざるを得ない
のだ。

というわけで、トイレットペーパーは
ほぼ国産品で占められている状況、
中国のサプライチェーンがコロナ騒ぎ
で止まっており、その影響で品薄に
なるから買い溜めを!などという噂は
全くの見当違いというわけ。

もう少し違う角度から市場の話を
続けたいが、大分長くなってきたので
明日に譲ることとしたい。

己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。