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人生はネゴシエーション(交渉)の連続

「人生は〇〇で決まる」
この「〇〇」に入る言葉として、
どんなものが思い付くだろうか?

「人生はで決まる」
「人生はご縁で決まる」
「人生は生まれた環境で決まる」
というように、何か自分の力からは
離れたところで決まってしまう、
運命論的なものを選ぶ人がいるかも
しれない。

あるいは、
「人生は度胸で決まる」
「人生は努力で決まる」
「人生は自らの行動で決まる」
というように、自分の力で切り拓いて
いくものだと考える人も多いだろう。

それでは、
「人生は交渉で決まる」
「人生は駆け引きで決まる」
と言われたらどうだろうか?
事実、人生においては、
仕事であれプライベートであれ、
様々な交渉、駆け引きが立て続けに
目の前に降ってくる。
それらに上手に対応することで、
人生の質を良い方向へと変えていく
ことができるのは疑いない。

交渉、駆け引きと聞くと、どんな
イメージが思い浮かぶだろうか?
国家間の貿易交渉?
取引先との価格交渉?
警察と立てこもり犯の人質交渉?

もっと卑近な例を引けば、
お小遣いをいくらにするかの交渉とか、
どちらが掃除や洗濯を担当するかの
駆け引きなどもあるだろう。

そのように考えていくと、
人生は交渉、駆け引きに溢れている
そう言っても過言ではないと分かる。

『ハーバード流交渉術』
という本が一世を風靡したのは、
もう何年前だろうか。

手元にあるこの知的生きかた文庫の
奥付を見たら、初版が1990年1月
もう31年も前のこと。
著者のロジャー・フィッシャーは、
ハーバード大学ロースクールの教授であり、
交渉学研究所長とある。

そのフィッシャー教授が、愛弟子である
シャピロ教授と共に2006年に出版した
アップデート版
、いわば「2.0」がこちら。

更に、フィッシャー教授亡き後、
シャピロ教授
「交渉不可能なものを交渉する」
というコンセプトで新たに著した、
いわば「3.0」となるのがこちらの
本である。

こちらの「3.0」の監訳者、田村先生が
私の恩師ということもあり、昨年出版
されて程なく入手したのだが、他に
積読が多すぎて、なかなか読み進めずに
いた。
年末年始やこの3連休で、ようやく諸々
追い付くことができた。

「1.0」は、原題が『GETTING TO YES』
いかに「YES」を言わせるか、という
ことで、少々鼻持ちならない感じが
伝わってくる。
とはいえ、中身は非常に濃く、
交渉にあたって守るべき諸原則と、
様々なテクニックが紹介されていて、
読み物として秀逸だった。

特に印象深いのが、
「ケーキをいかに切り分けるか」問題。
きょうだいが公平にホールケーキを
切り分けるための知恵として、
いずれか片方が半分に切り、
もう片方が好きな方を選ぶ。
そうすればいずれも文句を言えなくなる
という「手続きの平等感」を、交渉にも
応用せよ
という話は、未だに思い出す
ことが多い。

「2.0」では、感情が絡んだ意見の食い
違いにどう対処するか
を、「1.0」に
補足する形で加えている。
相手から「YES」を引き出す前に、
まずはポジティブな感情を引き出す
そこに成功の極意がある、といった
趣き。

そして、今回の「3.0」。
原本は2017年にアメリカで出版された
『Negotiating the Nonnegotiable』
「交渉不可能なことを交渉する」

というようなニュアンスのタイトルだ。

交渉「術」と冠している「1.0」。
「3.0」は、更に交渉「学」への進化を
志している
と捉えられるかもしれない。
技術=テクニック的な要素が多い印象は
もはやなく、理論、体系を作ろうとする
野心的な意図
が見える気がする。

そのせいだろうか、あるいは翻訳の問題
なのかもしれないが、どうしても小難しく、
スッとは理解しにくい記述が目立つ。

結局のところ、解決不能に思われるような
深刻な対立を乗り越えて交渉を成立させる
には、自分を理解し、相手を理解し、
そして自分と相手の間の関係を俯瞰して
理解することが必要不可欠
、そのような
主張だと理解した。
『風姿花伝』の「見」「離見」「離見の見」
を思い出す。

そして、「弁証法」が説くところの
「事物のらせん的発展」を目指すべし。
すなわち、自分の問題と感情を客観視し、
相手の問題と感情をも客観視して、
双方が「和解」できる道筋を見つけ出す。
この「和解」は、「妥協」ではなく、
あくまでもグルッと一回転して元に戻った
ように見えて、一段階上のレベルへと移行
(アウフヘーベン!)する
ことだ。
この本の言いたいことを、思い切って短く
まとめるならば、そんなところではないか
と思う。

生きている限り、交渉が不要になること
はない。
賢く交渉をして、自らの人生をよりよい
ものにするためにも、交渉の基本は是非
押さえておきたい
ものである。



己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。