見出し画像

『戦略』とは? 結局皆よくわかってないので解説してみる


「戦略」という言葉は、ビジネスの世界でも日常生活でも頻繁に使用されている。しかし、多くの人がこの言葉を誤解しているのが現状だ。本記事では、「戦略」の真の意味を理解し、その本質を明らかにしていく。

「戦略」の誤解を解く

「戦略=勝つためにやること/目標」は誤りである

「戦略とは勝つためにやることだ」「目標を達成するための計画だ」という解釈がよく聞かれる。しかし、これは間違いである。

「YouTube戦略」「SNS戦略」「営業戦略」といった言葉をよく耳にするが、これらは本当の意味での「戦略」ではない。これらは単なるノウハウや作戦、テクニックに過ぎない。

ひどい話だが、
「今年の戦略は100億円の売上を達成することだ!」
という、ただの目標を戦略として上げている会社は実に多い。

「私の人生戦略は、成功するまで諦めないことだ」
というただの精神論を”戦略だ”と言い張る人も多くいる。

当然、これらは戦略ではなくただの目標だ。
戦略を1回も学んだことが無いか、戦略なしにうまく行ってきた幸運な人たちなのだろう。

「戦略=何をやるか決め、何をやらないか決めること」

この定義もよく聞く。
正直本質的ではあるのだが、これだけ聞いてもピンとこない。

確かに、営利企業で言えば、
リソース(時間、お金、人材など)が限られている中で、何に集中するのか?という側面は非常に重要だ。

しかし、これだけ聞いても「作戦」との違いが明確ではない。

「Aをやる!と言えば、A以外をやらないことも示している…」
と言えてしまう。
(Instaglamで集客する!と言えば、XやYoutubeをやらないということも示しているので、これも戦略だ!と言えてしまうように)

この定義が広まったことで、
冒頭にあげた「〇〇をやる」ことが戦略だと勘違いしている人が増えたのかも知れない。

「戦略」の本質

こういうときは源流に遡るのが鉄板だ。

「戦略」という概念は、元々兵学や軍事学に由来する。ビジネス書で語られる戦略論よりも、軍事学における戦略の方が長い歴史と実践、研究の蓄積がある。

言ってしまえば2000年以上前、紀元前から集団で戦い続けてきたのが人間である。しかもほんの数十年前まで、戦争は国家・集団において一番重要な研究テーマである。

三国志の時代に孫子の兵法が生まれたと考えれば、
有史3000年かけて人類の中でも最も賢い人たちが心血注ぎ、
研究し続けてきた叡智の結晶が軍事学における戦略である。

軍事学における戦略の立ち位置

軍事学を一般向けに書いたビジネス書で、
わかりやすく、かつ詳しく解説されたオススメの書籍がある。

それがこちらの『世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう』だ。

著者の奥山さんは戦略学者であり、
最近人気が出てきた地政学も含め、第一線で研究している
”戦略・地政学”の第一人者である。

この本では、戦略には7階層がある…として
下記の図が用いられている。

『世界を変えたいなら一度”武器を捨ててしまおう”』より 引用

実際の軍事学に基づいた分類で素晴らしいのだが、

7段階は少し情報量が多すぎるので、
勝手ながら簡略化すると以下の図になる

勝手に簡略化した「戦略ピラミッド」


(Missionも非常に大事なのだが…)
重要なのは、「戦略」の下に「戦術」(=作戦)があるという点だ。
つまり、戦略は作戦よりも上位の概念なのである。

ここから言えることは、
実際に「どうやって現場(フィールド)で勝つか?」という具体的な動き・ノウハウ・テクニックは戦術レイヤーに含まれており、
逆に言えば、戦略は「具体的な手法は含まない」ということになる。

そう、戦略=手法”ではない”のだ。


このことから、
戦略の本質は以下のようにまとめられる:

  1. 戦略とは、究極的には「勝つ方法」を選ぶことである。

  2. 具体的な部分(作戦)は戦術に任せる。

  3. つまり、戦略は
    「具体性はないが、方針を選ぶ。そこに勝てる勝算がある」ということになる。

そう、戦略の中には具体性はなくてよいのだ。方針で良い。
それでいて「勝算」がある必要がある。

方針を選ぶだけで勝算がある…とはどういうことか。
ポイントは「選択する」という点だ。


戦略とは”無数の選択肢から正解を選ぶ”こと?


無数にある選択肢の中から、
正解を選ぶというのはなかなか難しい。

手法やテクニックなど「この作戦が得意だからこれをやります!」
というのは、非常にわかりやすい。

だが、それはただ「得意だからやっている」のであって、
「やれば勝てる」わけではない。

ここで朗報だ。

実は、”勝てる戦略”はジャンルによって「数種類」に元々決まっている
作戦や手法のように、無数にあるものではないのだ。

具体例で「戦略」を理解する

具体例①RPGゲーム

例えば、RPGにおけるキャラでタンクと呼ばれるキャラが居る。
(身体が大きくて、体力や防御力が高いのが特徴だ)

ゲーム『Overwatch』のタンクキャラ。こういうイメージだ。


こういうタンクキャラクターの育成戦略は
基本的に「とにかく耐久力を鍛えて、味方を守る盾になる」ことだ。

いくら攻撃力を高めても、アタッカー性能の高い戦士には勝てないし、
魔力を高めても、そもそも魔法を覚えないので使えない。

つまり
”元々与えられている前提条件によって、
すでに選べる勝ち筋は決まっている”
ということだ。

そして戦略が決まれば、自動的に作戦は決まる。

この戦略から導き出される
具体的な作戦としては:

  • HPを上げる

  • 防御力を上げる

  • 盾や鎧を優先的に買う

  • 体力の種は優先的に投入する

これらは全て、「耐久力を鍛えて壁になる」という戦略から導き出される具体的な作戦である。

タンクで選べる戦略の例

上の方で「選べる戦略の数は決まっている」と書いたが、
タンクの例ではより分岐した選択肢として、
以下のような戦略が考えられる

戦略A:
とにかく防御力を上げて固くし、味方に回復してもらい全体の盾となる
戦略B:
体力を上げまくり、相手のチーム内に飛び込んで暴れまわる(撹乱役)
戦略C:
相手を拘束する技を使い、引きずり込む役割を担う

上記以外にもタンクとして考えられる役割はあるが、
無数にあるゲームの中でも
「タンク役」として選べる戦略は決まっている。

大体、戦略を考えるときには、
・ゴール/目標
・前提条件/制約条件
・使えるリソース

が決まっているので、

一定の前提条件の中では、
既に選択できる「勝ち戦略」は類型化されていることがほとんどだ。


具体例②女性の化粧

女性の化粧を例に考えると、
やはり戦略=勝てる選択肢は既に決まっている

具体的には

  • 「清楚なかわいい系」を目指すのか

  • 「綺麗な美人系」を目指すのか

  • 「あどけない妹系」のキャラでいくのか

  • 「サブカルメイド系」でいくのか

ざっくりだが、このあたりだろう。

そしてこれらは前提条件として持っている
”目標”や”自分の顔”に照らして決めることとなる。

「清楚なかわいい系」を目指すと決めた場合、
具体的な作戦は

  • かわいい系の洋服を買う

  • かわいい系のメイク用品を買う

  • かわいい系に合う髪型にする

になるだろう(そのまんまだが)

これらは全て、「清楚なかわいい系にする」という戦略に沿っている。

注意すべきは、「あの人と付き合う」は戦略ではなく目標だということだ。「あの人が惚れてしまうような女になる」も同様に戦略ではなく目標である。

戦略はその目標を達成するための方向性を決めることなのだ。

戦略の本質:選択と集中

これらの例から、戦略の本質が見えてくる:

  1. まず、戦略には選ぶべき方向性がいくつか存在する
    (RPGならタンク、アタッカー、シーフ、魔法使いなど)

  2. 方向性を選ぶと、その後の具体的な作戦は自動的に決まってくる。

  3. 作戦は無限にあるが、戦略(方向性)はすでに限られている。

つまり、戦略とは実質的に
「限られた選択肢の中から、最適な方向性を選ぶこと」だ。

そして、その選択に基づいて、
限られたリソースを集中的に投入していくのである。

戦略の要素と言われる
・リソースの集中
・全体の統一感
・作戦の連動
・目標の達成
などは、後から付いてくる結果にすぎない。

戦略が重要な理由

戦略が重要な理由は、リソースが限られているからだ。

最初に戦略の1個の定義として書いたように、
「リソースが無限にあるなら全部やれば良い(戦略はいらない)
 リソースが限られているから集中する先を選ぶ必要がある」
のである。

現実世界では、時間、お金、人材、エネルギーなど、全てのリソースに制限がある。だからこそ、どこに集中するかを決める必要があるのだ。それが戦略の役割である。

戦略と作戦の違い

戦略と作戦の違いは以下のようにまとめられる:

戦略:

  • 大きな方向性を決める

  • 具体性は低いが、勝算がある方針を選ぶ

  • 限られた選択肢の中から選ぶ

作戦:

  • 具体的な行動計画/ノウハウ

  • 戦略に基づいて立てられる

  • 無数の選択肢がある

簡潔に言えば、戦略が「何を目指すか」を決め、
作戦が「どうやって実現するか」を決めるのである。

まとめ:戦略の本質を理解する

「戦略」という言葉の本質が、
これまでよりも明確に理解できたのではないだろうか。

戦略とは、単なる計画や目標ではない。それは、限られた選択肢の中から最適な方向性を選び、そこにリソースを集中させることだ。そして、その選択に基づいて具体的な作戦を立て、実行していくのである。

戦略というと、結局良くわかってない人が多く
自分がやってみてうまく行ったもの
・計画している内容や目標
を、
ノリで”戦略です”
といっているに過ぎない。

このNoteで書いたように
「戦略は元々複数個に決まっている」
ということがわかれば、

選ぶだけなのでそんなに大層なものではないが、
選ばずにやっているとぐちゃぐちゃになる

というのがわかると思う。
(そして、ぐちゃぐちゃになってる人が非常に多いのが現実だ…)

今後は日常生活やビジネスの中で、
「これは戦略か?それとも単なる作戦か?」
「ここで選べる戦略にはどんな選択肢があるだろう?」
と自問自答してみるとよい。


次回予告:戦略シリーズの続編

今回は戦略についての基本的な概念を学んだ。しかし、これはほんの入り口に過ぎない。戦略の世界はさらに深い。

次回の中級編では、「どうやって勝つか?」という戦略の核心に迫る。

そもそも普段のビジネスや仕事、日常でも
「複数の選択肢が浮かばない…」
という人がほとんどだろう。

そこで、実際にスポーツやビジネス、勉強など幅広い分野を例に
✔どのような戦略が存在するのか?
✔成功する戦略=選択肢が、実際に複数の選択肢から選ぶだけであること
を実例を元に解説していこうと思う。

興味深いのは、どんな状況でも戦略の選択肢が実は限られているという点だ。「これは新しい戦略だ!」と言われるものも、実は戦術レベルで新しいだけで、戦略としては超典型的なテンプレだったりする。

実際、戦略の類型を一度知ってしまえば、
戦略を考えるのは非常に簡単だ。

なぜなら、全く異なる分野でも大体似たような戦略の類型にすぎないからだ。戦略の引き出しをいくつか持つだけで、あなたは戦略家だと言われることだろう。

そして上級編では、さらに深い話に入っていく。「戦略の上位にあるビジョンがないと本当に良い戦略は生まれない」という、最終的にたどり着く戦略の極限について探っていく。


戦略は非常に奥が深い。
そして、理解している人が意外に少ないので、分かりづらい。

しかし、理解して使いこなせるようになれば、人生やビジネスを大きく変える力となる。戦略を使いこなしてあらゆるジャンルで結果を出したい方は、このシリーズを最後まで追っていくことをお勧めする。

次回の続編もお楽しみに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?