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「必要なのは、どんな環境で聴かれても劣化しない音」クラムボン・ミトが語る、楽曲制作の今

スマートフォンやアプリが発達し、音楽との出会い方が多種多様になってきた。いつでも気軽に音楽が聴けるメリットは大きいが、高品質なイヤホンやヘッドフォンを使ったことがある人ならば、音質の違いがもたらす異なる音楽体験に驚いたこともあるだろう。

ピエール中野が監修する「ピヤホン」は、幅のある音楽を届けられるイヤホンとして人気だ。このピヤホンに、初期の構想段階からアドバイスを送り続けてきたのが、クラムボンのミトさん。クラムボンのバンドマスターの他、さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュースを行っている彼に、現場の音作りの変化や音質へのこだわりを聞いた。

<取材・編集 小沢あや(ピース) / 構成 山田宗太朗

ミトさんプロフィール>
クラムボンのバンドマスター。ベース、ギター、鍵盤、その他を担当。ソロ活動の他、プロデューサーやミックスエンジニアとしても活動し、数々のアーティストへプロデュース・楽曲提供・演奏参加を行う。テレビアニメや映画の楽曲制作も数多く手がける。

どんなサービスで聴かれても、劣化しない音作りの時代

近年、音楽の聴かれ方が変わってきている。サブスクリプションサービスの音質が疑問視されていたのはもはや過去の話。現在は、TikTokやInstagramなどで音楽に出会うことが、若い世代では当たり前になってきた。

「音楽業界の中では低音質で聴かれることを想定した音作りも、定着しつつあります。今年世界中で大ヒットしたBTSの『Butter』もそうですね。Aメロから、キックとベースと歌しか出てこないんです。そして、最小音数で作っても楽曲の勢いは残っています。さらに言えば、音質が下がっても、そこで完結している音楽だから、あれ以上の音情報が必要ないんです。

元々『Butter』はもっと音数があったものから、何がいちばん届くのかを議論して他の音を削り、キックとベースと歌だけ残したらしい、なんてという話も聞いたことがあります。本当かどうかは、制作者しかわからないですけどね」

「トラップでも、似たようなことが起きています。HALFTIMEというプラグインでヌルッとした音にして、TR-808(リズムマシン)とベースと、あとはフィルタがかかった声があればいい。それくらいシンプルになってきているんです。Travis Scottなんかはわかりやすい例ですよね。TikTokやInstagramで流れても、ずっと同じように歪んでいるんです」

「K-POPはこうした時代の流れにうまく対応していると感じます。BTS以外に作りが細かくて感心したのは、PENTAGONの「Shine(펜타곤)」ですね」

「ピアノの2和音だけでスタートして、そこからの声の積み方や展開の仕方でアゲていく。EDM的なブレイクも、ライザーサウンドやドロップもない。非常にミニマムなトラックなのに、音と歌でアゲていくんです。あのテクスチャーは、非常に面白いと思いました」

求められるのは「使い回しができる音」

音質をめぐる日本の歴史を振り返ると、2000年代には「CCCD(※)」が導入され、一部のアーティストや音楽リスナーから反発を受けたこともあった。しかし、現在起きているSNSを起点とした音楽との関わり方は、それとはまったく種類が異なるという。

(※コピーコントロールCD。違法コピーを防止する機能を携えたCDのこと。一部のプレーヤーでは再生できず、音質が劣化するなどの理由や、iPodなどのデジタル音楽プレイヤーの急速な普及により、数年で姿を消した)

「CCCDは建前上『ミュージシャンを守るため』と謳って導入されたけれど、実際には企業が自分たちの商売を侵害されないように作ったものでした。特定の企業のエゴで、ユーザーやアーティストとはまったく無関係だったんですね。

対して、TikTokやInstagramの場合は違います。ユーザー自身がプラットフォームを使い、自分たちで加工していくことで楽しいコンテンツを作っている。ユーザーが生み出した文化なんです。だから、その結果として音質が低下しようが歪もうが許容される。今の時代に良い音とされているのは、『みんなで使い回しができる音』だと思います」

日本の音質革命を底上げした音楽ジャンルはアニソンとアイドルポップ

音楽がさまざまなプラットフォームの音質に耐えうる方向に進化していく一方で、従来のように、より高音質な音響を求める声も多い。日本の音響メーカーは、そうした期待に応えるべく技術を進化させてきたし、ピヤホンもその流れで生まれた。

「日本で、音質的な革命を底上げしたのは、アニソンとアイドルポップだと考えています。2000年代以降の日本のアニソンが、世界に類を見ないほど特殊な進化を遂げたことが、要因のひとつですね。『アキシブ系』という、秋葉の音楽が渋谷系をモディファイしようとする動きがあったんです。そこにROUND TABLEの北川勝利さんなどが関わっていた影響も大きかったと思います」

ミトさん自身も、2000年代の半ばからアニソン制作に携わり、アニソン制作者としてメディアで語ることも増えてきた。2021年にはDE DE MOUSEと劇伴を共作したテレビアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』も話題になった。

「アニソンは、『声』そのものの力が、大きなカギとなるジャンルです。タレントさんやキャラクターを好きになると、ファンも『その声をより身近に聴きたい、より良い音質で聴きたい』と思うようになります。そうすると、音質的にもこだわりたくなってくる。実際、アイドルやアニソンのファンの人たちは音響機器にお金をかけている方も多いんです」

プロが初めて魅了されたワイヤレスイヤホン「ピヤホン」

2020年以降、外出自粛を余儀なくされて、自宅で過ごす時間が増えた人が多いだろう。リモートワークだけでなく、家の中でも動画や音楽、ゲームなどのエンタメコンテンツに没入して楽しむために、イヤホンは必須アイテムになっている。アーティスト・クリエイター・そして音楽ファンであるミトさんにとって、ピヤホンは初めて魅了されたワイヤレスイヤホンなのだという。

「聴こえ方について言えば、最初のピヤホン1から最新のピヤホン5まで、ベースミュージックと言われる低音域の強い音楽に負けていないんです。非常に攻めた作りで、体感的にフィットするチューニングだと感じています。

過去、いくつかワイヤレスイヤホンを自分で買って使ってみたことがあるんですが、明らかに低域が聴こえなかったり、フィルタがかかったりしていました。でもピヤホンはそうではない。プロである自分さえ、『聴きたいところに音がある』と感じられるイヤホンです」

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「ピヤホンって、作った中野くん自身とちょっと似てるんですよ。あの人、めっちゃ人に気をつかうじゃないですか(笑)。そうでもなさそうな顔しながら、かなり人の気持ちを汲もうとする。ピヤホンは細かな楽器の音がそれぞれ際立って聴こえるし、情に厚いところがあるなって思います」


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