日本昔話系の壮大な物語

とても昔のお話し

村々は、枯れて、飢えて、荒れ果て、酷い事になっていました。
とある娘がそんな村々を救うために旅に出ました。
不毛の大地。草木1本も生えていない小高い丘。その先にある「せいなる祠」を目指して。
丘に辿り着くと奇妙なものが。丘の先に根を張り、僅かに頭を出している丸いもの。そしてその直ぐ近くに祠の入り口が見えました。しかし祠の入り口は堅く閉ざされていました。そしてそこには、祠を守る「しょういん神」がいたのです。
しょういん神は病気や外部からの進入者を防ぐ神でした。見た目はとても歪で、まるでホタテ貝のヒモのような姿でした。娘は恐る恐るしょういん神に問いました。この中に入りたいのですと。しょういん神は答えました。
「この入り口は堅く閉ざされておる、だが入る方法はある。」娘はどうしたら入れるのかと尋ねました。しょういん神は答えました。「先ずはあの入り口の少し上にある実を撫でよ」と。さらに娘は尋ねました。あれはなんなのですかと。
しょういん神は答えました。「あれは、くりの実。撫でれば潤い祠の道は開くだろう」と。続けてしょういん神はこうも言いました。「やさしく撫でるがいいだろう。じゃが、乾いた手で触れると嫌がるじゃろう。唾液で指を濡らすがよかろう。さすれば祠から蜜が溢れ出す。それを指に塗り、さらに撫でるとよい」
娘は満面の笑みでしょういん神に感謝を伝えた。その笑顔がよほど気に入ったのか、しょういん神は娘にあるものを手渡した。「祠の穴は奥が深い。届かぬ事もあるだろう。その時はこれを使うがよい」長く少し反り返った棒でした。
娘はさらに感謝をし、くりの実をやさしく撫でてみた。するとしょういん神の言う通り、祠の入り口から蜜が流れ出してきた。それを指に塗り、さらに撫でる。
すると、閉ざされていた入り口がたちまち開きだし、たくさんの蜜が溢れ出して来ました。それを見ていたしょういん神も嬉しそうに「これで中に入れるじゃろう。もうひとつ教えておこう。入り口を入って少しの所、丁度くりの実の裏側辺りに触れてみるとよい。さらに蜜が溢れ出して潤うじゃろう。もしもそれで満たされぬ時は、さらに奥に進むがよい。祠のさらに奥、1番奥におまえを満たすだけのものがあるじゃろう。じゃが…おまえでは届かぬじゃろう…。その時は…」
娘は笑顔で、この棒を使えばいいんですねと言いました。しょういん神はにこりと笑い頷きました。
娘は意を決してそっと中に入りました。
先ず驚いたのは祠の穴はまるで生き物のように蠢いていました。時に絡みつき、時に吸い付くような。
そして教わった通りにくりの実の裏側辺りに辿り着き、そっと触れてみました。すると、まるで間欠泉のようにせいなる雫が吹き出しました。触れば触るほど吹き出して止まりませんでした。するとしょういん神が言いました。「どうじゃ?足りたか?」と。娘は言いました。いいえ、これではまだ足りないのです。村々を潤すにはもっと必要なのですと。
娘は祠の最奥に進む事にしました。ですがやはり辿り着けませんでした。しょういん神に頂いたあの棒!そうして娘は棒を使い最奥まで辿り着いたのです。そこは神秘の楽園「ヒメノ宮」でした。
奥を突くとさらに濃度の高い蜜が溢れ出して来ました。娘は大きな声を出し喜びました。あまりの感動に体は痺れ痙攣してぐったりしてしまいました。そして祠の穴は自ら棒を吐き出しました。
娘はついに、村々の乾きを潤いで満たしたのでした。村々は救われたのです。
その後、娘は感謝の気持ちとしてヒメノ宮参りを毎日欠かす事はありませんでした。
そして村々を救ったこの棒を、「せいなる奥までよく届く棒、せいよく棒」と名付け、奉、後世に残しました。

めでたしめでたし。

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