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ロシアによるウクライナ侵攻はユーゴスラビア紛争の知識を使えば予測できた!?


この記事ではユーゴスラビアの紛争の知識を使えばロシアによるウクライナ侵攻をある一定予測できた可能性があったことについて書く。主に筆者がツイッターでウクライナ侵攻前にした予測をまとめるだけだが、プーチンの考えを理解するためにユーゴスラビアの紛争のアナロジーが有用であったと言える理由が分かると思う。

①なぜユーゴスラビアのアナロジーなのか

真面目な歴史学者は歴史のアナロジーの使用を避けがちである。一方で、ロシアのウクライナ侵攻を見る上でユーゴスラビアの歴史や文化のアナロジーはとても重要である。ここでは、その理由を4つあげてみたい。

1つ目の理由は国際法である。現代の国際政治において国際法がある一定程度は規範として作用していて、その規範に応じて政治家が意思決定をしている。すなわち今回のウクライナの件でユーゴスラビアをアナロジーとして用いるのが可能な理由は、ユーゴスラビアで起きた様々な出来事が国際法の解釈上とても重要だからである。

それだけでなく今回のウクライナ侵攻に関して世界のリーダーが国際法に何度も言及していることも重要だ。プーチンが言う国際法が国際法学的には荒唐無稽なものであっても国際法を用いたレトリックとして重要な分析対象として見ることができる。そしてそれは、旧ユーゴスラビアの分離・独立問題やNATOの空爆が関連してくる。

2つ目の理由は、ユーゴスラビア、ロシア、ウクライナは同じスラヴ系だからである。ステレオタイプでもあるが、スラヴの人は対立したら交渉も上手くいかず最終的には恐怖や暴力で解決しようとする。

言語的にも同じスラヴ語圏ということもある。言語が思想をつくるという視点に立てば、ボスニア/クロアチア/セルビア/モンテネグロ/北マケドニア/スロベニアとウクライナやロシアが似ていることも合点がいく。

3つめの理由は、彼らの家族形態が共同体家族であるからだ。権威主義的で強いリーダーを求めるし、法や事実の正しさよりも共同体の正義が大事。

共同体家族の詳しい説明はエマニュエルトッドを参照してほしいが、これは科学的ではない決定論なのであくまで思想的な根拠である。ただ、トッド曰く、ソ連、中国、ユーゴスラビアが共産主義/社会主義になった理由も家族形態である。筆者は学生時代にトッドの本の訳者の先生にお世話になったが、旧ユーゴの人と日本の人は同じように権威主義的だから仲良くできると言われたことがある。その点では日本の人も彼らと似ていると言えなくはないが、伝統的な家族の財産相続の仕方や家族が同居/別居するか近くに住むかなど、ユーゴスラビア、ウクライナ、ロシアは同じカテゴリーの家族形態である。

4つ目は宗教的な理由である。セルビアのマジョリティは正教会の信者であり、クロアチアはカトリックである。一方で、ロシアは正教会が多数で、ウクライナは大まかに東側が正教会で西側はカトリックである(かなり大まか)。ハンチントンの文明の衝突は批判すべきものだとは思いつつも、旧ユーゴ、ロシア、ウクライナでは宗教が現代でさえ重要なことは言うまでもない。イコンを媒介しての崇拝の仕方やそれに根を持った共産主義/社会主義時代の個人崇拝も似ている。

前おきが長くなったが、ここからはロシアによるウクライナ侵攻が始まる前の筆者のツイートをまとめていく。

②ロシアによるウクライナ侵攻前

ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日である。ただ、それよりも前に筆者はユーゴスラビアとのアナロジーをもとにツイートをしてきて、その予測はほとんどなんの根拠もないにも関わらずそれなりに当たっていた。ここからは時系列でその関連ツイートをまとめていく。

2月12日

ユーゴスラビアでの紛争もセルビア側のロジックでは民族の保護が理由だった。NATO によるユーゴ空爆が人道的介入だったことを考えても、ロシアがユーゴスラビアの事例から学んだことは大きかったのではないか。また、プーチンがレトリックとして使っただけではなく、コソボとクリミアについてはその分離・独立の合法性についての様々な学者によってその比較・検討が試みられている。実際、このツイートのあと、ロシアはウクライナがジェノサイドをしていると主張しはじめた。

2月14日


これらのツイートはロシアがウクライナの問題をあくまで分離・独立問題であると見せようとしていることに起因している。侵攻があって、メディアの論調は一気に変わったが、ロシアが国際法の学説(救済的分離)の論理でドネツクやルガンスクの分離を正当化しようとしているのは明らかである。

2月15日

救済的分離は国際法学者の中でも論争的で、人によって何を救済的分離と言うかも含めて異なる。少なくない学者はコソボの分離・独立を心情的には認めたいものの、違法であるとの認識を持っている。

2月16日

コソボにはNATO主体の平和維持部隊が駐留していて、国家承認しないなら、なぜロシアは拒否権を使わなかったのだろうとおもっていた。ロシアとすれば、当初はNATOと協力するつもりだったのだろう。プーチンのテレビ演説の前にすでにプーチンみたいな論理でツイートをしてNATOの拡大に言及してしまった。

2月22日

2010年の勧告的意見でスルプスカ共和国とコソボの独立宣言の違いが明らかになった。ロシアは今回の侵攻まではドネツクやルガンスクに直接軍を送っていなかったと言ってるのはロシアによる違法な武力行使によって独立宣言をしたわけではないと言いたいからであろう。

2月23日

案の定、無駄だった。

2月24日にロシアがウクライナを侵攻した。

ここまで見ていただければ、ユーゴ紛争の知識がロシア侵攻のレトリックを理解するために役に立つことが分かってもらえたのではないか。

③オススメ資料


なお、筆者がツイートしたことはほとんどが自分の修士論文(2020年)の知識の応用であった。時間がある人は参考資料にあたってほしい。


読んでくださってありがとうございました。

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