ヨガやピラティスの先生になる人たちへ⑥

今回は、レッスンでのキューイング(誘導)以外での言葉「私たちが何を話すのか(聞くのか)」についてお話します。

はじめに

キューイング(誘導)以外での私たちが発する言葉も、レッスン時に発する言葉と同様に強い影響があります。今回は対照的でわかりやすいので、私が出逢った2人のボディワーカーとのやり取りを書いていきます。これからヨガやピラティスのインストラクターとして、多くの人達と関わるであろう皆さんに学びや気付きがあるように、意図して紹介しています。決して特定の誰かを中傷したい訳ではありません。その点を忘れずに、読み進めてください。

私の傷

私の腹部には、ケロイド状の大きな傷があります。腸閉塞を患い、緊急オペだったため、執刀医を選ぶ余裕もなく技量のない医師にあたってしまったのです。オペをする医師の技量によってその後に大きな差が生じます。身体のことを学べば学ぶほど、執刀医を選ぶことの重要性を痛感します。

とは言え、私は運命論者なところがあります。母親も誤診によって亡くなっているのですが、その時もそういう運命だったのだろうと医師に対して怒りは湧きませんでした。残念な執刀医に出逢ってしまう運命だったのだろうと、感じています。

あるボディワーカー

以前、海外の先生が来日したセミナーを受講した際、ソマティック心理学などの大きなイベントなどでも登壇するようなセラピストとペアになって練習し合うという場面がありました。彼女は私の腹部を見るなり「えぐ〜、これはひどいですねぇ〜、うわ〜」と女子大生みたいな調子で話し出しました。彼女はセラピストを養成したりメディアでも心身相関などセラピーについてメディアで語っていることもあって、実際との差異に少し面白くなりました。「大変ですよね、このお腹」とか私は適当な返事しながら、心の中で「この人、そして世の中ってほんま大変やなあ」と思っていました。彼女から学んでいる人はお気の毒という感じです。

これもまた運命論者なので、「こういう人とペアになるのも人生の業みたいなものだな」と思いました。ペアになる前から危険な印象は感じていたものの、何日も続くコースだったので避けられなかったのと、ちょっとした私の興味から引き寄せてしまったような経験でした。

もう一人のボディワーカー

それから数ヶ月後、あるボディワーカーのセッションを受けました。ロルフィングも他のボディワーク同様、人によって良くも悪くも差がかなりある印象ですが、「この人は絶対に良いセッションをするだろう」と以前から想像して楽しみにしていた時間です。

下着だけになって姿勢評価(私のセッションは衣服を着用したままおこないます)の際に、私の腹部は露わになります。

「葉坂さんはボディワーカーになるべくしてなったような、そういう身体をされていますね」

「歴史がある身体」だとか、そういった表現を慎ましさと透明感の同居する声のトーンで話されました。この術後の腹部の見た目について「醜くて恥ずかしい」とか、そういった感情も特にないものの、随分と苦労はさせられています。人生の中の1つの大きな事件でした。ボディワークに出合っていなければ、不快感で日常生活もままならなかったかもしれません。

「えぐ〜、これはひどいですねぇ〜、うわ〜」はあり得ないとしても、そういう人の人生のポイントになっている出来事に触れる際、どういう言葉を発すればいいのでしょうか。皆さんなら、どうでしょう。簡単ではないですよね。その通りで、簡単ではありません。簡単ではないことを理解していなければ、この仕事には向いていないと思います。反対に難しく感じたら、人と関わる仕事に向いているのだと思います。

ある日のセッション

先日も乳がんだったり、その他さまざま経験を積まれている方が初めてセッションに来てくださいました。「あと8年、生きられたらいいんです」とおっしゃって、もっと長生きしそうなバイタリティの強さがあったので、普通に否定をして会話は進みました。

同じ事を惰性にならず、初めておこなうように日々続けていくと特殊な能力が開発されていきます。万引きGメンが誰が盗みを企んでいるか察知できるように、私たちの場合、どの部位がその人の問題を引き起こしているのかがわかるようになっていきます。同様に、8年も先のことを予見はできませんが、その人のバイタリティ(生命力)について感じ取ることはできます。これまでの人生によって痛みや不快感、身体の問題を抱えているものの、彼女のバイタリティは低い状態ではありませんでした。ですが、何をどのように話せばベストであったのか、どのように話せば、地に足ついた中で希望のシナリオを描けたでしょうか。昨夜はセッションや前後の会話を振り返りながら、そんなことを考えて、夜を過ごしました。

「そうなんですね」的な言葉は無難ですが、ただ聞くことも非常に難しいことです。そのプロフェッショナルが、カウンセラーです。私たちの場合、プロとしてのコメントを求められたのであれば、ただ聞くだけではなく、さらに見解を述べなければなりません。

会話はテクニックでどうにかなるものでもなく、自分自身の人間性を高めていく必要があると思っています。日々、自分自身を磨き続けなければならないのです。家族や彼氏彼女、友達には失礼な振る舞いや社会では横柄な態度で、クライアントにだけ丁寧にできるはずもありません。メッキは遅かれ早かれ、剥がれるものだからです。

人間力

仕事のクオリティを上げようとするには、自分自身の人間性を高めなければならない。きれい事のようですが、これだけ直接的に他人と関わる仕事の場合、実際にダイレクトです。先に紹介した2人のボディワーカーの技量は、人間性に比例してまったく違っています(知名度や金銭的にどうかは知りませんが)。より良い人間になれば、より良い仕事ができるのです。他人と関わることなく生計が立てられる仕事を私が選んでいたら、少なくとも今よりは身勝手な人間のままだったでしょう。幾分この仕事を選択したおかげで、マシな人間になれている気がして、この仕事を選んで良かったと感じています。人気があるインストラクターだから人間的にも素晴らしいということは、残念ながらありません。ですが、人気がないインストラクターが人間的に素晴らしいことはありません。別段美味しくない飲食店が潰れないのと、同じ理由です。

人間力を高めましょうというと漠然としていますが、何気ないふとした会話に気を配ってみることだと具体的で進歩があります。こういう部分に関しては自分を疑うことで、省みることで成長していくものだと思います。自分を丁寧に観察してみてください。自分自身に失望することもあるかもしれませんが、それを日々続けていくことでより良いレッスンができるようになっていきます。


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