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本家の後継 7 血の繋がり

苦難の時に人は、

自己保存という本能的な行動をとる。

冷静な判断をするには経験が必要になる。

経験。

未熟な私が経験を生かせるようになるには、大変な時間を必要とした。

経験の生かし方なんて知らなかった。


この話は、自分自身の人生を振り返って、その苦悩の中を生き抜いてきた話です。実在する人物が登場するため各所に仮名を使わせて頂いています。


本家の後継なんて今の私の感覚からすれば、

「老舗の跡取りでもあるまいし。」

という感覚ですが、私が子供の頃はまだまだ、家督相続の精神が根強く残っていました。

跡取りがいない家では、親戚や子供の多い家などから養子をもらったりしながら、その家やお墓を継承させていくことが重要視されていました。

(家督相続について詳しくは、他サイトなどで個人的にお調べください)


男の子が生まれなかった真一の家では、順番からして長女のよしこが跡取りになることだろう。


私の親の世代では、子供はあまり甘やかすことなく、厳しく育てられていた。

普通の家では躾が厳しかったことだろうが、隆子の家の厳しさは違った。

真一の独裁政治だ。

もともと礼儀や躾が身についていない真一が、ちゃんとした躾なんてできるはずがない。

そんな真一に育てられ、そんな真一を手本に育った子供達である。

さらに、女の子はうるさい。おしゃべりが本能のようだ。

そんな子供達であるから、たとえは悪いが野生動物が寄り集まっているようなもので、真一も手を焼く。

面倒だから、怒鳴ったり怖がらせれば、とりあえず大人しくなる。

真一の虫の居所が悪ければ、皿が飛んできたり、ちゃぶ台をひっくり返したりしたこともある。

昭和のテレビアニメで、酒によった主人公の父親が怒ってちゃぶ台をひっくり返すシーンがあったが、漫画の世界ではなく、リアルだ。

こうして恐怖心という「躾」がこの家の基本として定着していった。


隆子が4歳の時。

真一は隆子を連れて、隣町の雑貨屋を経営している人のところへ向かった。


真一とお店の人が話をする間、隆子は、少しその辺で遊ぶように言われ、お菓子などをもらい、時間を過ごしていた。

話が終わると父真一は、隆子が遊んでいる隙にそっとその家から姿を消した。

知らないおじさんとおばさん。

父もいない、姉もいない。

隆子は数日間そこで過ごした。

そこのお店の若夫婦は、子供が欲しかったのに出来なかったので、養子をとろうとしてしていたところに、隆子に白羽の矢立ったのだ。

真一のことは知っている人だったので、子育てが大変だろうとか、酒乱の父に育てられるよりは自分たちの子供になったら幸せにしてあげられるとか、4歳ならまだ小さいから訳もわからず、よその子になれるだろうと考えてのことだったろう。


真一には、腹黒い考えがあった。

まあ、簡単に言ってしまえば「人身売買的な」と表現できなくもないような。

真一にとっては長女が跡取りになるなら、一番手間のかかる隆子なんて、居なくなったとところで、どうということはない。

「今まで育ててやって養子にやったんだから、お礼のつもりで、少しくらい請求しても良いだろう」と考えた。

(どうしてそんな考えになるのか、理解不能だ。)


隆子は、知らない人よりは4年間、寝食をともにした父の方が良かったのかどうかは分からない。いつも遊んだり世話をしてくれている姉達が恋しくなったのかもしれない。

ましてや自分の将来を打算的に考えらる四歳児などいないだろう。


無邪気だった隆子は

「父ちゃんいつくるの?」

「家に帰る」

などと言って、全く二人に懐かず、若夫婦を困らせた。


「あんな酒飲みで、乱暴な親の方がいいのか」と若夫婦はショックを覚えた。

真一との会話の中に金銭的な要求を感じとっていた二人は、隆子を養子にしない理由を見つけ、喜んで隆子を父と姉の元へと返してくれた。

同時に、血の繋がった子供の親子の絆を感じ取ったのかもしれない。

その後、その二人には待望の赤ちゃんが授かたと言います。

(私がその家に滞在したことで「子宝に縁がついた」としたら、私って実は「幸運を運ぶ子供」だったんじゃ無いかしら?)

(勝手な思い込みでも、私は「幸運を運ぶ子供」だと思っておこうかな。)


父に対する疑惑が、私の心の奥に意識できないレベルで刻まれながら、もといた恐怖の家にもどった訳です。


お店の子供として養子になっていたなら、生活はよくなっていたかもしれないと残念に思ったこともありましたが、大人になって人の気持ちが理解できるようになってから、血の繋がった子供が出来た家に、養子に行かなくて良かったと思っています。

想像できると思いますが、何年も切望していた子供が出来、しかもその子が男の子で跡取りになるとしたら、血の繋がってない子に愛情なんて湧くでしょうか?

しかも、お金まで要求されたならば、まるで「疫病神」以外の何者でもありません。

いずれにしても厳しい人生が予測される中で、意図的で無かったにしろ、血の繋がっている方を選択することになったのは、まだ幸運だったのかもしれません。

若夫婦の人柄については勝手に、ホンワリしたイメージを描いていますが、実際のところ、どのような人柄であったのかはわかりません。

期待されるところが大きくて「がんじがらめの人生」ということだって考えられるのです。

私自身ももちろんですが、人間って、自分の都合のいい偏った想像力を持っているものだと大人になって気がつきました。


この続きは、また次回に。




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