見出し画像

改装休館前の最後の展覧会 『伝統工芸のチカラ』展             レクチャーより見所紹介。

最後の展覧会が開幕致しました。伝統工芸品の中から陶芸にフォーカスして、人間国宝の作品から現代の陶芸までを一同に会した展覧会。こんなに一度に見られるのは凄いです。出展リストを見ただけでも、聞き覚えのある名前がずらりと。スタッフ用にストックしてある人間国宝関連資料と引き比べても、陶芸に関してはほとんど網羅してある充実ぶり。さらに、いわゆる『重要無形文化財保持者』(通称人間国宝)指定以前のビックネーム三方、
『板谷波山』『楠部彌弌』『六代清水六兵衛』の作品や、指定前に亡くなった『幻の人間国宝』江崎一生の大作など、展示室を入ったところから既に銘品のオンパレード。さらに愛知ならではの岡部嶺男氏(加藤唐九郎氏の息子)作品や、加守田章二作品まで見比べることが出来る。非常に濃密な展示空間です。さらにコラムとして「伝統工芸と創作工芸」「人間国宝(重要無形文化財保持者)の存在」「産地と表現」「茶の湯のうつわ」「素材と表現」「新たな技法とうつわのかたち」と、それぞれの切り口からの作品のピックアップからも、この展覧会が目指しているのは単なる銘品の陳列会ではなく、『伝統技術の陶芸』というジャンルがどこから来て、どこへ向かっているのかという現状を判りやすく伝えることだというのが、はっきりと見て取る事が出来るのです。

第一章 『伝統工芸の確立』
こちらの章では、先に思わずネタバレしてしまいましたが国主催の日展から工芸部門として分離、独立した日本工芸会の、歴史を作品によって振り返るモノとなっています。そうそうたるメンバーによる、素晴らしい技の極みをじっくりと見ることが出来ます。不思議なのは、作品が造られてからの歳月を考えても、作品が古びた感じがしないところです。洗練され、卓越したデザインのなせる技、なのでしょうか。

第二章 『伝統工芸の技と美』
こちらの章では、昔からの技術を元にして、新しい作品を創り出していく。というコンセプトに基づいて、現在活躍している作家達の作品と人間国宝の作品とを並べて紹介していきます。伝統的な技法を使用した作品の中にも、それぞれの作家が工夫を凝らして、これまでにない表現やオリジナリティーの追求を試みているのが非常にわかりやすく展示されています。例えば石川県の九谷焼の人間国宝「吉田美統」氏の【釉裏金彩牡丹文飾皿】と並べて同じケース内に「中田一於」氏の【淡桜釉裏銀彩葉文鉢】を置くことによって、同じ釉裏彩の技法で、金箔と銀箔の素材の持つ質感の違いによる表現の差などを実感することが出来るようになっています。
そうした展示での工夫が随所にあるので、観覧するときに、『この並び順にしてあるのは、きっと何かしらの狙いがあるに違いない』などと考えながら作品の間を行き来するという楽しみ方も出来るのです。
作品単独で、それぞれの美しさや完成度などを楽しんだ後は、ぜひとも『どうしてこの並びにしてあるのだろう』と振り返ってみてください。

第三章 『未来へつなぐ伝統工芸』
こちらの章では、若手の伝統工芸作家の紹介と、現在円熟期にさしかかったベテラン勢の作家の作品の展示から、伝統的な技法の発展や展開、新たな可能性の模索などを感じていけるようになっています。若手作家の中にも、産地出身で地元に根付いた活動をしている作家と、美術、芸術大学などで陶芸を専攻して、それぞれの作風に合う場所で制作を続けているタイプの作家とが混在しています。お互いに刺激を受けて切磋琢磨しながら、新たな表現や技法の追求などがなされ、それがまたそれぞれの作品へと昇華していく。そうした時代に合わせた変化も、『伝統工芸』のまた一つのかたちでもあるのです。
そして是非とも注目していただきたいのが当館ならではの展示、コラム【新たな技法とうつわのかたち】です。こちらは当館の第二展示室という独特の形状の展示室の個性を生かした展示手法をとっています。当館の第二展示室というのは、地下への大きな吹き抜けのスペースの上を通り抜ける通路のような形状の展示室となっており、自然光の入る大きな窓が特徴です。陶磁器の鑑賞法として『自然光で』移り変わっていく作品の色味などを楽しむというものがあり、今回はこの通路部分に、『光の効果を含めて鑑賞することで楽しめる作品』を集めてあります。主なモノとしては伝統工芸の作家ではありませんがあえて伝統工芸の世界でタブーとされてきた技法である『蛍手』の作品に挑んでいる「新里明士」氏の【光器】や、「室伏英治」氏の【Nerikomi  Porcelain  Sparkle】(透光性のある磁土と普通の磁土での練り込みによる器)、「中田博士」氏の釉薬に雲母を使用してキラキラときらめく質感を創り出した【真珠光彩壺】などを展示してあります。自然光ならではの時間帯による移り変わりも是非味わっていただきたいです。

第三章 第二会場(B1第七展示室)

こちらの会場の作品も第三章『未来へつなぐ伝統工芸(陶芸)』の展示の続きになっています。こちらの展示室は吹き抜けになっていますので、まずは並べられた作品を俯瞰して、それぞれのかたちの面白さを眺めることが出来るようになっています。そして近付いて素材の持つ質感や、技法による違い、様々に工夫を凝らして創り上げられた作品を通して、陶芸という分野の奥深さを感じ取っていただけたらと思います。こちらの展示室では、コラム【素材と表現】として、備前焼の「隠崎隆一」氏の【備前広口花器】を一例として展示解説がされています。全国各地の陶産地で問題になっている陶土、磁土をはじめとした資源の枯渇問題。天然の素材を原料として制作する以上、決して避けては通れない問題の一つでもあります。隠崎氏の作品では、これまで廃棄されていた土を混ぜ込んで作品を創り出すという新たな備前焼を見ることが出来ます。いわゆる典型的な備前焼とは異なった質感の作品を通して、伝統工芸の世界のこれからの展望に思いを馳せてみてください。

終わりに

特別展を満喫したら、是非とも当館の常設展示室もご覧下さい。本館二階の常設展示室は、『常設』とは言いながらもこまめにマイナーチェンジをおこなっており、縄文時代から明治時代の帝室技芸員の作品、地域ではオセアニアを除く世界各国の陶磁器文化を網羅しています。
今なら改装閉館までの期間限定で、『ハンズオンレプリカ』(3Dスキャンにより精巧にコピーされた銘品の茶碗)も体験いただけます。有楽井戸や、志野『振袖』、油滴天目などが手で触れて、体感できます。展示ケースの中では決して見られない角度での作品鑑賞。是非とも楽しんでいってくださいませ。

ご来館、お待ちしております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?