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『江戸川乱歩』を読んだ

2021/10/30、電車にて読了。

よほど好きな作家でない限り、全集は読まないことにしている。全作品を収めているとなると玉石混淆だし、それを逐一読むには人生は短過ぎる。その点、ちくま日本文学文庫のような選集は便利だ。作家の傑作・秀作だけを集めているので、効率良く質の高い読書を楽しむことが出来る。

中学生だった頃、所有していた新潮文庫版『江戸川乱歩傑作選』を、誕生日プレゼントとして友人に贈った。西瓜の写真がプリントされた爽やかな表紙だったと記憶している。本書収録の『二銭銅貨』『心理試験』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『鏡地獄』の5作品は、おそらくその西瓜の表紙のもので既読だったために(他の版に収録されていたのも混じっているやもしれぬが)読み飛ばした。あまり再読はしない主義だが、いずれ読み返したくなるかもわからない。そうした時に備えて好きな作品を紙で手元に置いておくというのは心愉しいものである。10年近くの時を経て、ぼくの書棚に再び乱歩が加わったことを嬉しく思う。

乱歩のエッセイを読むのは初めてだったが、これがなかなかどうして儲けものであった。解説で島田雅彦も言っているが『乱歩打明け話』に至っては、ほぼ乱歩版の『ヰタ・セクスアリス』である。幼き日の瑞々しい恋心の記述を目で追うにつれ、改めて現代日本の状況を不思議に思わずにはいられない。もともと日本は衆道文化やエス文化が根付いていた国であるはずだった。そうした文化はどのようにして廃れていったのだろうか。それとも、そもそもがメインストリームの文化ではなかったのだろうか。まあ何はともあれ、性別がどうであろうと当人同士が好き合っているなら仕方がないですよね。ぼくもあなたも 𝘋𝘰 𝘺𝘰𝘶𝘳 𝘰𝘸𝘯 𝘣𝘶𝘴𝘪𝘯𝘦𝘴𝘴. 他人に興味を持ち過ぎている時代だ。

素人のぼくが言えることでもないのだが、推理小説家は因果な商売だと思う。どこの国であろうが人間誰しも考えることは一緒なので、トリックの種類なんてたかが知れている。誰かが用いたトリックと同じものを使ってオリジナリティーを出さなければならない。乱歩はストーリーテリングの上手さで他の推理作家と一線を画している。推理小説は数あれど、この幻想性・耽美性・抒情性は唯一無二だ。

P.S. 『押絵と旅する男』⁡がやっと読めて良かった。ずっと読んでみたかったのに、どうも手に取った選集からはいつもすり抜けていく短篇だったのだ。


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