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『歴史を変えた誤訳』を読んだ
2021/11/22、とろりとした蜜をソーダと混ぜて飲む檸檬スカッシュを頂きながら、カフェコンフォートにて読了。
アポロ11号の月面着陸の生中継における通訳を担当した鳥飼玖美子先生による通訳論。通訳史上の事件や誤訳・名訳を具体例としてふんだんに紹介し、それぞれについて検討を加えていく。
中でも、外交上の配慮から意図的に誤訳された例は興味深かった。あえて曖昧な訳にすることで国内の混乱・批判を抑える一方で、実際にはどんなことが協議されているか分からないままに、国民は置いてけぼりを食らう。
どこまで相手の文化を考慮して訳すかは、難しい問題である。たとえば日本特有の「わさび」という語を、西洋で親しまれている「マスタード」という語に置き換えたとしよう。西洋の人々にとって分かりやすい訳にはなるものの、「日本には『わさび』という香辛料がある」という文化的事実は見落とされてしまう。かといって“wasabi”と直訳しても、本来西洋文化圏にないものをいくら説明されたところでピンと来ないだろう。こうした議論が存在することは承知の上でなお、ドナルド=キーン先生の英訳には感嘆した。日本語と英語の両言語に精通しているからこそできる芸当である。
通訳という行為について、様々な示唆を与えてくれる本だった。
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