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『村上春樹翻訳ほとんど全仕事』を読んだ

2021/11/13、上島珈琲店にて読了。「日本蜜蜂のはちみつミルク珈琲」なるものが限定80杯で売られていて、矢も盾もたまらず注文してしまった。ぼくは資本主義の奴隷だ。この商品では紀州産の「百花蜜」というはちみつを使っているらしく、そのフルーティーなことに軽い驚きを覚えた。はちみつには独特のえぐみがあることも多いが、百花蜜に関して言えば嫌な感じはしない。はちみつは別添えされており、それ自体の味を楽しめることが嬉しい。ミルク珈琲そのものの口あたりもまろやかだった。

少し前に、雑誌BRUTUSが村上春樹についての特集を組んでいた。それをパラパラとめくった記憶によれば、彼は平均して5ヶ月に1度のペースで翻訳書を出しているという。なんというスピードだ!ぼくは毎日何かをコツコツやるということがかなり苦手なので驚いた。毎日やっていることなんてSNSしかないが、それは特に誇れることではないし、むしろ恥ずべきことに分類されるかもしれない。まあ、楽しいのでやるのだが。村上さんにとって翻訳は、頭を使うので1日2時間くらいが限度ではあるけれども、パズルのようで楽しい作業だということらしい。最高の趣味だ。同じくらい楽しいのならSNSよりも翻訳のほうがいいような気もするし、ぼくもやろうかな。そのためには、物置と化している机を片付ける必要がありそうだが。

本書は村上さんが今まで手掛けてきた翻訳作品のクロニクル、翻訳者の柴田元幸との対談、オーティス=ファーガソン『サヴォイでストンプ』の村上訳で構成されている。これまで作家と翻訳者を両立してきたひとは、村上さんの他には森鴎外くらいで、割に少ないらしい。翻訳者同士の対談の後に、実際に翻訳されたテクストを読むと、翻訳の過程がみえるようで興味深い。注はできるだけあったほうがぼくとしてはありがたいのだが、対談によると、注が多すぎると読む気が失せるひともいるようで、そこはひとそれぞれなのだなあと思った。前に『ゴドーを待ちながら』を読んだ時、個人的に注なしではとても読んだ気がしなかったと思う。とはいえ文体の流れを崩したくないという気持ちもわかる。鮮やかなカラー使いの書影が豊富で見ているだけで楽しいのはもちろん、もう少し深く翻訳という作業について知りたくなった。村上春樹と柴田元幸の対談集は他にもあったと思うので、それも読もうかな。

しっかし題名がすごい。「ほとんど」ということは、ここから先も翻訳を出すよということを確信した上で、世間に明示していることになる。この本の初版は2017年。実際に、この後も続々と村上さんによる翻訳書は出ているのだ。これは格好良いですね。バイタリティーがある。

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