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『地獄で温かい』を読んだ

2021/1/8、四川風麻婆豆腐の中辛を頂きながら川国志にて読了。そんなに辛くないが、スパイスがピリリと効いて美味。

ベンガルを代表する3人の作家(アクタルッジャマン=イリアス、ハッサン=アジズル=ホク、セリナ=フセイン)の作品から編まれた短編集。大同生命国際文化基金には、今後もこの本のような企業メセナを続けてもらいたいものだ。『地獄で温かい』という不思議な語感のタイトルは、原題から直訳したものなのであろうか。編者によって軽く章立てがされており、章のテーマに沿ってそれぞれいくつかの短編が選出されている。ベンガル文学のレポートを執筆すべく読んだ。バングラデシュが経験した2度の独立の過程を知らないひとにとっては、分かりにくいであろう箇所も散見される。簡単な注釈こそ添えられているが、ベンガル文学を読解する上で歴史は最重要要素であることを改めて認識させられた。

以下、印象に残った作品の感想。

『昼じゅうカンコンは』
少年カンコンの悶々とした憂鬱が描かれる。カンコンの母がカンコンを怒るシーンは衝撃的。母の中に渦巻く、女としての感情が生々しい。訳者は「(作者のホクが)結末についての解釈を読者に委ねている」と言及しているが、そうだろうか?ぼくにはむしろ、あるひとつの解釈を鮮烈に表現した結果であるように思われるのだが。

『振り返る』
面白い。他の短篇と比べて現代的な要素が強いように感じた。高学歴の女性が直面する葛藤を、家父長制やベンガルに特有の言語問題を介して瑞々しく描写している。ビティの婚約者の「好青年だが政治には無関心」というキャラクター設定が斬新。現実に最も多いのは、悪人よりもこういうタイプだろう。

『ブーションのとある日』
日常の些細な苛立ちが、実はかけがえのない幸せだったのだと気付かされる。場面の転換が見事。

『母』
ベンガルにおける「母」というイメージへの聖性が如実にわかる。清らかな少女アエシャに、母としての聖性を見出す主人公は、知らず知らずのうちに個人としてのアエシャを無視する加害者になっているのかもしれない。

『モティジャンの娘たち』
凄みを感じるラストが痛快。モティジャンをいじめる姑のグルヌルも、実は時代の被害者に他ならないのだが、だからといって嫁をいびってもいいことにはならない。

『名もなく家もなく』
淡々とした筆致で悲惨な現実を扱っているのにも拘わらず、まるで夢の中のような浮遊感がある。時間設定を夜にしていることに因るものだろうか。非常時における感情の逆転に驚かされる。

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