2020年に読んでよかった本10冊

今年は家にいる時間が長く,例年以上に本を読みました.ということで今年も読んでよかった本 TOP 10 をまとめようと思います.

社会はなぜ左と右にわかれるのか - 対立を超えるための道徳心理学

なぜリベラルと保守は分断されてしまうのかについて,道徳心理学の観点から考察した本です.本書では,人々が影響を受ける道徳基盤は「ケア/危害」「自由/抑圧」「公正/欺瞞」「忠誠/背信」「権威/転覆」「神聖/堕落」の 6 つであると提唱しています.そして,保守は全ての道徳基盤に依拠したバランスのよい訴えをするのに対し,リベラルはその一部に偏った訴えをする傾向があり,これがお互いが理解し合うのが難しい理由とされています.

今年は大統領選挙や大阪都構想の住民投票など,政治的な二極化が目立つ話題が多かったように思います.そのような状況において自分や相手の見方を客観的に理解し,また必要に応じて自分の見方を是正するためのツールとして,本書の道徳基盤の考え方は役立つように思いました.

もうダメかも - 死ぬ確率の統計学

出産,交通事故,失業などのあらゆる死亡リスクを,マイクロモートマイクロライフという独自の単位を導入し,定量的に比較していく本です.マイクロモートとは平均的な人がある日死のリスクに直面する確率で,約 100 万分の 1 の確率です.また,マイクロライフとは成人の人生を 30 分ずつに分けたもので,約 100 万個に相当します.このような単位を導入することで,性質の異なるあらゆるリスクを容易に比較することに成功しています.

「東京で ○○ 人が感染」「ワクチンで ○○ 人がアレルギー反応」といったコロナ関連の報道を見ると明らかなように,メディアは基本的に確率ではなく絶対数で事象を表現します.そのような報道に対して,じゃあ交通事故にあう確率と比較するとどうなの?といったように,事象を相対的に理解することは重要で,本書はそのような見方を育むのに役立ちます.

反脆弱性 - 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

本書では,「脆弱性」(変動に弱い) の反対の概念として「反脆弱性」(変動に強い) という用語を新たに定義しており,この反脆弱性こそが不確実な世界で生き残るための鍵であると主張しています.人は多くの場合,不確実性をなくそうとしますが,確実性を高めようとすればするほど脆弱になり,想定外の出来事 (ブラック・スワン) が起きた際に対応することができません.なので,不確実性をなくそうとするのではなく,むしろ受け入れて柔軟に対応できるようにしておくことが重要で,これにより反脆弱になっていきます.

この反脆弱性の考え方は,コロナ禍というブラック・スワンに直面している現在において,世の中の本質を理解するための重要な考え方なように思いました.実際に周囲を見てみると,反脆弱な組織 (= 変化の波に乗って柔軟に変わることができている組織) ほど生き残っているように思います.

Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

シリコンバレーのバイオテック企業 Theranos の詐欺事件を描いたノンフィクションのドキュメンタリーです.Theranos は,数滴の血液を指先から採るだけであらゆる病気を検出できるデバイスを開発していたスタートアップで,一時は時価総額 1 兆円を超えるユニコーン企業に成長します.しかし,ジャーナリストが元社員の協力を得て嘘をすべて暴き,全部詐欺だったということが発覚します.実際はデバイスは全く完成しておらず,何年もの間嘘を積み重ねていたことが明らかになりました.

本事件は,Fake it, till you make it. (うまくいくまでは,うまくいっているフリをしよう) のカルチャーを象徴する事件と言われています.CEO の Elizabeth Holmes は現在訴訟されており,今夏に裁判が始まる予定でしたが,コロナの影響で来年春に延期されたようです.

NEVER LOST AGAIN - グーグルマップ誕生

Google Map と Google Earth の産みの親であるジョン・ハンケの物語です.Keyhole というスタートアップ時代からはじまって,資金繰りがうまくいかずに多くの苦難を乗り越えた後,最終的に Google に買収されて地球まるごと地図に収めるまでの壮大なストーリーを描いています.ジョン・ハンケはその後 Niantic を創業し,Pokémon GO などを世に送り出しています.

ラリー・ペイジやセルゲイ・ブリン,マリッサ・メイヤーなど上層部との掛け合いが,リアリティに溢れていておもしろかったです.特にラリー・ペイジの「君たちはもっと大きく考えた方がいい」という発言が,当時の Google を体現してるようで印象的でした.また,日本でも 2 年程前にゼンリンとの契約が解除されましたが,内製の地図を作る決断をした背景や,どのように地図を 0 から作っていったのかも詳細に書かれていて興味深かったです.

誰が音楽をタダにした? - 巨大産業をぶっ潰した男たち

インターネット黎明期に音楽業界がどのように変わっていったかが,mp3 開発者,音楽リークグループ,音楽プロデューサーの 3 者の視点から綴られたノンフィクションの群像劇です.これら 3 つの物語が相互に影響し合い,結果として CD 主体の音楽業界が崩壊し,ビジネスモデルの転換に至るまでの流れが書かれています.

音楽リークグループの話が特におもしろく,メンバーの 1 人が工場から CD を盗み続け海賊サイトに配信する過程や,リークグループと FBI との攻防などがとてもスリリングでした.海賊サイトが流行っていた頃に裏側でこんなドラマが起こっていたことに驚くと同時に,ストリーミング中心の音楽ビジネスにどのように変遷していったかがリアルに知れておもしろかったです.

ゼロからつくる科学文明 - タイムトラベラーのためのサバイバルガイド

ある時代にタイムトラベルして戻ってこれなくなった場合に,どのように文明を再興すべきかが時代ごとに書かれているマニュアル本です.言葉や数字の作り方,何が食べられるか,家畜化はどうするか,蒸気機関の作り方など扱う範囲は幅広く,各時代に応じた文明構築の説明がされています.

科学文明や発明などの人類の英知について多くの知識 (雑学?) が得られ,知的好奇心が満たされる 1 冊でした.

訴訟王エジソンの標的

19 世紀末のアメリカで起きた,エジソン vs ウェスティングハウスの電力の覇権争い (電流戦争) を描いた小説です.ウェスティングハウスの弁護士の視点で描かれており,ニコラ・テスラとともにエジソンに立ち向かいます.多くは史実に基づいているようですが,もはや完全にフィクションではと思うくらいスリリングで,一気に読み切ってしまいまいた.

このような,ノンフィクションの題材に一部フィクションを重ね合わせたような小説は個人的に好きで,他には原田マハの小説 (楽園のキャンバス暗幕のゲルニカ など) もそのようなものが多くおもしろいのでおすすめです.

人類、宇宙に住む - 実現への3つのステップ

人類がいかにして地球を出て,月や火星などの他の惑星に到達し,そして生き残ることができるのかを,宇宙開発の最新の研究に基づいてまとめた本です.SF の世界のような壮大な話も出てきますが,著者のミチオ・カクは物理学者であるため,現在の研究成果などを基に理論的裏付けもしっかり書かれており納得感を持って読み進められます.

ミチオ・カクの著書は毎回楽しく読んでいますが,本書も安定のおもしろさでした.2100年の科学ライフ や フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する あたりもおすすめです.

2020年6月30日にまたここで会おう - 瀧本哲史伝説の東大講義

去年 47 歳という若さでお亡くなりになった瀧本先生の,2012 年 6 月 30 日に東大でおこなわれた講義を書籍化したものです.若者に向けた期待のメッセージが散りばめられています.「8 年後の 2020 年 6 月 30 日までに何か行動しましょう.そしてその日に行動した結果どうだったか答え合わせをしましょう」と呼びかけて講義を終えましたが,答え合わせをする前にお亡くなりになりました.

瀧本先生の本はいつも熱いメッセージが多く,心を動かされます.このような講義を学生時代にリアルタイムに受けてみたかったです.

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以上,今年読んでよかった本 TOP 10 でした.来年も沢山本を読んで,おもしろい本に出会いたいです.以下は去年以前の TOP 10 です.


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