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バイクマフラーの「スチール=鉄」は不正解!正しくは「鋼」に、もやもやした話→結論を導く

どーも、パイセンです。
文系バリバリの私ですが、学校機関で少しばかり金属工学に触れていた過去があります。
というのも、溶接を勉強していた時期があり、その際に金属の性質について授業で学んでいます。
溶接の仕事にはついていませんが一応、溶接技能者資格で基本級ではありますが被覆アーク、半自動、TIG、アルミは取得しています。ついでに某溶接コンクールで優秀賞をいただけたくらいは溶接に触れていました。今は遊び程度です(笑

検索すると速攻で身バレするのでコンクール名は伏せさせていただきました!
界隈の方であればどのコンクールかわかるかもしれません(笑

ことの始まり

先日こんなポストを目にしました

大好き、ホワイトベース二宮氏のポストです。
これの3にある「正しくは、スチールは鋼(こう)」※以下鋼=こう
これはとあるバイク系情報サイトでバイク用マフラーの素材の違いについて書かれたライター記事の「スチール=いわゆる鉄製」という記述に対して指摘された物です。
これがどうにも重箱の隅を突く様でもやもやしたので今回のnoteを書くことにしました。

鉄棒、鉄球、鉄筋は鉄じゃなくて鋼製品

鉄棒、鉄球、鉄筋は鋼製品です。
なんなら、家の中にある「鉄製品」と思っている製品の99.9%鋼製品だと思います。
JIS規格でも鉄鍋や製品素材に鉄の外装が使われているものは、説明書の素材欄に「〇〇鋼」といった記載があるはずです。
私たちが普段鉄製だと思っているものは鋼製なのです。
それでは鉄製の身近なものは?というと、モーターの鉄心やリレースイッチの電極が思い浮かびます。
言われてもあまりピンとこないですよね(笑
それでは鉄と鋼の違いをさっくり説明したいと思います。

鉄と鋼の違い

鉄は元素記号Feです。中学2年生の理科で習うものです。
鋼(こう)は鉄に炭素(C)ケイ素(Si)マンガン(Mn)リン(P)硫黄(S)混ざっている金属(合金)です。鋼に含まれる5つの元素を5元素と言います。
炭素量の違いによって
・鉄(Fe):炭素量が0.02%以下
・鋼:炭素量が0.02%〜2.14%以下
・鋳鉄:炭素量が2.14%以上。※身近な物だとマンホール
に分けられます。
鋼(鋼材)は含まれる5元素の量によって規格化されています。
なので私の場合、鋼材と言われるとどの規格なのかが最初に頭に浮かびます。

なぜ炭素量を変えるのか

鉄(Fe)は大変扱いづらい金属です。柔らかく粘りがあるので形は変えやすい反面切削加工がし辛く外からの力に弱いです。
その鉄(Fe)に5元素を程よく加えて性質を変えることで、強度や硬度を増ましたり、切削加工をしやすくしたり溶接性を高めたりすることができます。
この5元素の含有量を変えることで色々な種類の鋼になります。
含有量によって硬度や引張力が変わり、その含有量によって名前(規格)も変わるのですが、細かく説明すると1万文字でも足りないので種類は割愛します。
一応バイク系のnoteですのでバイクで説明すると、鉄(鋼材)フレームはSS400系、ミッションギアはS45C系が使われています。

スチールと言えば鋼だけど…

私も金属に触れていたので「スチールは鉄ではなく鋼」というのはわかりますし、納得もいきます。授業であれば。
というのも生活の中で「鉄製」と言われてFeは思いつきません。
溶接で鉄と言えば一般構造用圧延鋼材(SS材)溶接構造用圧延鋼材(SM材)建築構造用圧延鋼材(SN材)を思い浮かべます。学校の授業でも鉄と鋼の違いや種類の勉強をしますが、作業では鋼と言えば鉄ですし、鉄と言えば鋼という感じです。
ちなみに作るものによってSS材、SM材、SN材は厳格に決まりがあるものもあります。詳しくは長くなるので割愛します。

ステンレスはスチールなのか?

ステンレス鋼の主成分は鉄(Fe)です。身近なステンレス製品だと成分の大体75%以上が鉄(Fe)です。
でも、ステンレスを鉄とはいいませんしステンレスを鋼(スチール)ともいいません。
例えばステンレス製マフラーを「このマフラー何でできてるの?」と聞かれた時に「ステンレス製」と答える思います。理系の人なら「ステンレススチール製」と答える人はいるかもしれません。でも「スチール製」という人はいません。
金属工学を学んだ人ならもしかしたら「オーステナイト系」と答える可能性があるかもしれませんが、それは学友同士でしか通じない話です。
ちなみにキッチンのシンクに使われているステンレスは鉄(Fe)の量が85%の13Cr ステンレス鋼と言われるものですが、これもスチールや鋼とは言わずステンレスと呼びます。
ステンレスの種類の細かな説明は割愛します。

性質からイメージする金属の違い

例えば「鉄製品」と言われると何を思い浮かべますか?
多くの方が、「錆びやすい」「重たい」が真っ先に思い浮かびます。
それではステンレス製品は?「錆びない」
アルミ製品は?「軽い」「錆びない」
という感じかと思います。
鉄製品(スチール製品)は錆びやすいのですが、多くの製品で使われています。理由は価格が安い、安定して供給できる、加工がしやすいというメリットがあるため、多くの金属製品でスチールが使われています。
錆については、表面にメッキや塗装が施すことで対策がされています。でもそのメッキや塗装が経年劣化などで腐食すると金属部分に赤い錆が浮いてきます。放っておくと穴が空いたり、折れや割れてしまうこともあります。
でも、ステンレスやアルミは錆びません。
※厳密にいうと錆びるのですが、そこは割愛します。

鋼製品と言われると?

あまりイメージが浮かばないと思います。
金属工学だと鋼(こう)といいますが、一般的には「鋼」という字を見ると「はがね」が思い浮かぶと思います。
身近な「はがね」製品だと包丁でしょうか?放っておけば錆びますね。
刃の部分を指でつまんで放置すれば早ければものの数分で錆が浮いてきます。
でもその時、「はがねだから錆びた」ではなく「鉄だから錆びた」と思うのではないでしょうか?
多くの人に、錆びやすい金属=鉄、鉄=錆びやすい金属と言うイメージがあると思います。
※ちなみに鉄(Fe)は純度を上げていくと酸の海につけても酸化(錆び)ませんが、その様な純度の鉄(Fe)は一般人が手にすることはありません。

スチール=鉄でいいんじゃないか?

「鉄だから錆びやすい。」
「ステンレスやアルミだから錆びない。」
どちらもイメージの話です。
ただこのイメージが実生活の中に確かに存在します。

スチール=鉄製のマフラーは錆びやすい。メッキや塗装はしてあるけど、それが劣化した場合は錆びるし錆が広がらない様にお手入れしよう。
ステンレス製のマフラーは錆びない。メンテナンスフリーで楽ちん!
※排気熱で変色したりするのでピカピカに磨く方もいます
というイメージが浮かびます。このイメージが使用者(消費者)にとっては重要なことです。

鉄棒、鉄筋、鉄球、鉄柱、鉄板は名前に鉄とつきますが、全て鋼(鋼鉄)です。
でも「鉄製品」として生活に馴染んでいます。
マンホールや鉄釜、鉄瓶は鉄鋳物(鋳鉄)ですが、何で作られているか聞かれれば「鉄」で通じます。
これらを鉄で作られていると言ったとして「純鉄」を思い浮かべる人は99.99…%いないことでしょうし、それらに含まれている炭素量が気にする人はほとんどいないでしょう。

消費者目線では重箱の隅を突いても意味がない

確かにスチールは鋼ではありますが、上で書いた「イメージ」として「鉄」と表現した方が伝わることが多いのではないかと思います。

ホワイトベース二宮氏は以前バイクの重心に関するのポストで「バイクの重心は移動しない」と書いていましたが、厳密にいうと「人が乗らず停車した状態のバイクの重心は移動しない」が正解で、バイクは人が乗って動かす「乗り物」なので停車した状態の重心にはあまり意味を持ちません。
人が乗ればバイクの重心は変わりますし、バイクにはサスペンションが付いているので制動時にはその伸び縮みで重心位置は変わります。設計者も「人と動き」を加味して重心設計をしています。
ただ、一般のライダーから見たら「だからなんだ」って話なんです。それで何か変わるのか?と言われても、まあ何も変わりません。

そう、スチール=鉄といったところで「だからなんだ」って話なんですよね。
ただ一般的に鉄製と言われれば「重たい」「錆びやすい」というイメージが浮かびます。
それが使う側(消費者)にとっては重要なことで、「鉄じゃない鋼だ」というのはもっぱら重要なことではないのです。

バイク業界では「鉄フレーム」や「鉄ちんマフラー」という言葉があります。しかしこれらの材料は鋼材です。でも鉄で通じています。
バイク系情報サイトの読者は主にバイク消費者です。
バイク消費者がイメージやすい言葉を使うのはバイク系ライターとして必要なことです。
件のポストのリプ欄でホワイトベース二宮氏は「料理のレシピと強力粉薄力粉」で例えていました。
これは鋼材でいうならSS400やS45Cと表すことと同じです。もちろん製造業者では大事なことでが、消費者にとって重要ではありません。
小麦アレルギーの人にとって重要なことは強力粉か薄力粉ではなく小麦製品なのかであり、鉄ちんマフラーを求める消費者にとって重要なことは炭素量ではなく、鉄製であることが重要、ということです。

最後に

私は今でも溶接校時代の先生や級友と話をすることがあります。
最近作った物、扱っている物の話をしますが、その際に「素材は何で作ったの?」かと聞かれれば「鉄」と答えます。
「それは鉄じゃない鋼だ」と言われたことは1度もありません。
一般人が気軽に溶接で使える鉄と言えば「一般構造用圧延鋼材」のSS400か「建築構造用圧延鋼材」のSM400のどちらかなので、それで話は通じますし指摘もされません。
私の周りは重箱の隅を突かない「おおらかな人」ばかりでありがたいな、と改めて実感したところで、今回のnoteは終わりにしたいと思います。

最後の最後に(おまけ)

「スチール=鋼です」とポストしたホワイトベース二宮氏本人も、自らのYouTubeチャンネルの動画で「鉄=スチール」という話しています。

なので、バイク系のライターさんはこれからも胸を張って「スチール=鉄製」でいいんじゃないかと思います(笑)

ご拝読ありがとうございました、PIESENGでした。

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