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独立型のデザイン事務所|DODO DESIGN 堂々穣さんインタビュー

トータルブランディングからウェブサイトの企画制作、建築やインテリアの企画設計にいたるまで、幅広い分野で活躍中のDODO DESIGN。今回はその代表を務める堂々穣さんに、クリエイティブのスタイルや最新の仕事について語ってもらいました。



(プロフィール)
堂々 穣
デザインで人に感動してもらったり、心をつかみたいと思っています。東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒業。2012年にデザイン会社DODO DESIGN 設立。ダンスホールレゲエと黒人カルチャーに強く影響を受けてデザインを始める。旅行とサウナが好き。ほんのちょっとだけトレーニングもする。
 
 

スタイルは独立型のデザイン事務所


___まず、DODO DESIGNの特徴や堂々さんの仕事のスタイルなどを教えてください。
 
ひとことで説明するのはとてもむずかしいですね。他社さんの本で恐縮ですが、ちょうど5月に発売になる『アートディレクターの流儀 考え方・つくり方のデザインストーリー』(エムディエヌコーポレーション・刊)という書籍で、その話題について書いたばかりなんですよ。DODO DESIGNは広告代理店ではない。最近よくある「ストラテジーを考えてスタートアップを支援しましょう」というデザインコンサルティング会社でもない。だからといって、代理店から受注している制作プロダクションという位置づけでもない。もちろん代理店からいただいている仕事もあるのですが、100%そういうわけではないんです。どちらかというとそこに当てはまらない「独立型のデザイン事務所」ですね。メーカーから仕事をいただいて、試行錯誤しながらデザインをアウトプットしている会社なんです。圧倒的にほかの会社と違うのは、アウトプット力に自信があること。何につけても「最後は納品しますよ」「どんなことがあっても形にはできます」というデザインチーム力かもしれません。

 ___なるほど。すごくわかりやすいです。
 
それと、仕事をするスピードとクオリティには気をつけているというか。スタッフみんなで一生懸命やろうと考えています。そこも特徴かもしれないですね。「時間ばかりかかってなかなかアウトプットしてくれない」ではなくて、やはりクライアントありきの仕事なので、ある程度のスパンでパンパンパンパンと仕事して、ちゃんと納品日も守る。仕事の基本ですよね。デザイン会社で働いていると、チャラチャラしていると思われがちなんですけれど(笑)、そうではなくて「やることはちゃんとやる。言われたことはきちんと約束を守る」という最低限の基本的なことはみんなで守っていこうよと。それが、わが社の特徴というかスタイルだと思います。
 

カラフルな色を上手く使えるチーム

___最近、手掛けられたお仕事を教えてください。
 
これもとてもタイムリーなんですけど、新宿駅構内に4月にオープンした「EATo LUMINE(イイトルミネ)」という案件を手掛けました。そもそもそこはバックヤードみたいなスペースだったのですが、ルミネさんがエキナカグルメスポットに生まれ変わらせたんです。この仕事はまるっと一式手掛けました。映像やグラフィックも作ったり。

___DODO DESIGNさんの手掛けるデザインは、いつも配色がとても美しいですね。
 
ありがとうございます。うちの会社に発注がくる場合は、色使いで選ばれることもあります。この「EATo LUMINE」の仕事は、うちと競合ではないけれど代理店が何社かデザインチームをアサインしていたんです。そこからうちが選ばれた理由は、やはりカラフルな色を上手く使えるチームということなのかな、と感じました。自分たちの仕事って普段あまり振り返らないのですが、今回の仕事は振り返るためのいい機会になりました。仕事の流れとしては、オリエンがあって、どういうふうに思考しているのかというアイデアフラッシュがあって。アイデアマップはiPhoneのメモ機能を使っています。こんなふうにメモを書いているんですよ。
 
___(実際にスマホの画面に書かれた膨大なメモを拝見して)これらのキーワードだけでも広告になりそうですね。
 
そうなんですよ。結局広告ってキーワードなんですよね。キャッチコピーとか、そういうアイデアの骨子みたいのがあって、それに肉付けされて形になっていくんだろうなと。僕もあらためてそれに気づきました。
 

書籍『In Fine Style』がインスピレーションの源

___書籍からアイデアやインスピレーションを得ることはありますか?
 
デザイナーなら誰でもデザイン書は好きだと思うのですが、デザイン書でいえば、この『In Fine Style: The Dancehall Art of Wilfred Limonious』(One Love Books・刊)という書籍がインスピレーションの源になっています。

僕は特にタイポグラフィにすごい興味があります。欧米のものが好きで、特にストリートのカルチャーに惹かれますね。ニューヨークとかジャマイカとかロンドンとかのストリートカルチャー。そういうものにとても惹かれた時期があって、もちろん今も好きなんですけど。

 ___欧米のデザインのほうが、色の使い方が強いという印象がありますよね。
 
めちゃくちゃ強いです。本当に震えちゃうくらい。欧米のデザインを高校生の時に見て、「これいいなあ」と子どもが初めておもちゃを見た時のような、そんな気持ちになりました。色使いを勉強するというより、ただ単純に好きというか……。こうやって見ていると、ちょっと自分と通じるものがありますね。別に意識しているわけではないんですけれど。もちろん僕一人で作っているのではなく、スタッフみんなで一緒に作っています。こういうものをみんなで見て「いいよね」と言いながら共有する。そんなふうにビジュアルを共有することは、自然と社内でやっています。

 
相手の立場になってアイデアを出す

それと、最近は外資系の高級ホテルからも影響を受けることがありますね。ザ・リッツ・カールトンとかアマンホテルとか。別に泊まりに行くわけではなく、ロビーやラウンジに入ってお茶してメニューを眺める。そういった高級路線から影響を受けることもあります。ストリートカルチャーばかり意識していると、振り切ったデザインになってしまうので。

 ___最近はストリートカルチャーと高級路線を、うまくミックスしてデザインされているということでしょうか。
 
そうですね。先ほど話に出たようなルミネさんが相手の案件もあるので、ストリートカルチャーばかりではなく、高級路線からもインスピレーションをもらってアウトプットすることも増えました。また、カンプを提出する時はいろんなバリエーションを作るのですが、それもうちの特徴かもしれません。もし自分がクライアントだったら、1案や2案では満足しないだろうなと思うので。相手の立場に立って、最低でも3案、大体5案か6案は出す。「それぞれどれもいいね」という感じになっていかないと、仕事がうまく前に進まないというのは肌感覚であったので、結構作りますね。やっぱり自分たちも納得したい。「いろいろやってこれになったからこれだよね」「クライアントもこれがいいって言ってるし、これが正解なんじゃないか」というようにデザイン検証をしていくようにしています。 


 
印象に残っている仕事はJR東日本「のもの」


___これまでのお仕事で、特に印象に残っている作品を教えてください。たくさん手掛けられていると思うのですけど、その中でも今でも忘れられないといった案件はありますか?
 
うちの場合はやっぱりJR東日本の駅構内にある地産品ショップの「のもの」ですね。JR東日本さんがクライアントだったのですが、この仕事のおかげで僕らは結構、JR関連が増えました。ルミネさんもJRですし。あのPRパワーがあってこそだから。いろいろあるけど、一番印象に残っているのはやっぱり「のもの」かな。

 ___「のもの」はPIEの書籍でもたくさん紹介させていただきました。DODO DESIGNさんを代表する作品ですよね。
 
「のもの」はネーミングから考えて、ロゴも作って、店舗デザイン、冊子やパッケージ、ショッパーなんかも作って。ワンパッケージで初めてやった仕事というのも、特に印象に残っている理由かもしれないですね。この案件は2011年の東日本大震災がきっかけで、東日本のものを紹介しようということで、「のもの」というネーミングになったんです。その当時、デザイナーがワンパッケージでやる仕事が結構流行っていたんですよ。トータルブランディングですね。僕らも「いいなあ、こういう仕事やりたいなあ」と憧れていて。
 
___それまでは、トータルブランディングのお仕事は手掛けていなかったのでしょうか?
 
手掛けていませんでした。トータルブランディングの仕事って、今もですけどなかなかないような気がします。おそらく、ADC年鑑に載っているのは、みなさんがめちゃくちゃ頑張っている結果だと思うんですよ。

 ___書籍などでリブランディングの案件はよく紹介されているので、近年だとイメージが一新される機会は多いのかなと感じていました。
 
いや、実際は仕事にするのってむずかしいと思うんです。ショッパーとかだってなかなか作れないじゃないですか。作ったところで、デザイン代で売り上げが立つわけではない。それよりもCMを作ったり、広告を作るほうが会社の経営としては安定するじゃないですか。ブランディングを主軸にするのって会社を運営する側としてはなかなかむずかしい。でもデザイナーとしてはやりがいがある。トータルでデザインすることって魅力的ではありますね。
 

生活の一部にデザインがある

___先ほども少しお聞きしましたが、デザインのインスピレーションの源は、書籍以外にもありますか?
 
ほかにはライフスタイルですね。旅行に行ったりとか。最近はハイブランドから学ぶことが多いかもしれません。ルイ・ヴィトンとかグッチとか、ストレートに訴求してくる。ストーリーを取り入れていますし。そういったものからも勉強していますね。バレンシアガとか、かっこいいじゃないですか。なかなか買えないですけれど、見ることはできる。タイポグラフィとかも完成度が高くてすごくかっこいいんですよね。
 
___ロゴの扱いが秀逸ですよね。ライフスタイルですと、ほかにはどんなジャンルがありますか?
 
音楽ですかね。流行りの音楽。娘が今高校二年生と中学二年生なのですが、二人から流行りのカルチャーを教えてもらったり、吸収することも多いです。韓国の音楽やラッパーのファッションとか。娘たちと一緒にラフォーレに買い物に行ったりするんですけど、面白いですよ。「今はこんな感じなんだ」って。普段からそうやってリサーチしています。デザイナーさんってみんなそうですよね。境界線がなく、ライフスタイルというか、生活の一部にデザインがあるっていう感じになっていると思うので。日常からインスピレーションを受けています。 


自社デザインを手掛けてみたい


___今度、チャレンジしてみたいお仕事はありますか?
 
今のような受注生産だけではなくて、事業会社のようなことをやってみたいですね。僕らデザイナーはものを作れるんだけれど、いつもほかの人やクライアント、お客さんのために作っている。それで全部売り払ってしまっています。それだけではもったいないので、自分たちで生産して運営することができたらいいなと。ずっと言い続けているのですが、なかなかむずかしくて。
 
___そのむずかしいというのはどういった面でしょうか?
 
やっぱり行動力ですね。実行力というか。これはデザイナーあるあるかもしれないですが、自社のHPの更新も意外と最後になっちゃったりして。そういう自分たちのことというか、自分たちのために何かやろうというのはデザイナーって苦手なんじゃないかな。でもきちんと実行している人もたくさんいるので、何かやっていきたいですね。今、すごいチャンスだと思うんですよ。時代的にはインターネットでものを簡単に売ることができるので。やろうと思えばインスタで売れる、そういう時代。アートを作ったり、自社デザインのものを作ったり、そういうことをやってみたいですね。


若い世代には思いっきりやって欲しい


___最後の質問になりますが、これからデザイナーを目指す若い世代にメッセージをいただけますか。
 
若い世代には思いっきりやってもらいたいです。本当にフルスイングでやって欲しい。もちろんフリーランスだけではなく、会社に入っていてもそう。うちの会社のスタッフに対してもそう思っています。結局いつの時代も若い世代じゃないですか。時代をつくるのって。ただ、同時にうまくやってほしいですよね。やりすぎてもいけないから。実際むずかしいですけれど。デザイン業界もけっこうみんな上が詰まっていますし……。若いデザイナーって最近どうなんですかね。結構いい人が出てきていますか?一時期凄く低迷したことがあったじゃないですか。コロナ禍もあって。 

事業会社のデザイナーが増えている

___ちなみに現在のデザイン業界は、傾向としてどのような印象を受けますか?
 
広告系の人はちょっと弱くなってきている気もします。業界的な人気も低迷してきていますしね。どちらかといえば、今は広告代理店に就職するよりは、事業会社のデザイナーとして入社する、という流れを感じます。うちの採用状況を見ていても、うちとメーカーを併願している人が多く、結局うちを蹴って「結構メーカー行きます」というパターンもあったりして。
 
___メーカーさんを選ぶ理由には、どういった背景があるのでしょうか?
 
まずメーカーだと何よりも雇用が安定していますよね。働いている時も先が見える状態で制作したいというメンタル的な部分もあるかもしれません。うちのような小さい会社だと先がどうなるかわからない。そんな状態でものを作るのは不安だなあ、みたいな。雇用状態も含めたクリエイティブな仕事、というように捉えているみたいです。すべての人がそういうわけではないけれど傾向的に強いですね。「とりあえずやってみよう!まず3年は頑張れ!」みたいな働き方って、今は通用しなくなったと感じます。

 ___デザイナーさんの働き方も変わってきましたよね。
 
世の中の流れとしてはすごくいいことなんです。僕もラクですし、働きやすいですし。夜中まで頑張ってやるというのは、正直僕も年齢的にしんどくなってきました。不健康で、そんな状態で働き続けると病んでしまう人もいますから。とはいえ僕は前世代の人間なので、過去を振り返ってみるとそれがよかったんだなと思う部分もあるんですよ。得られたものも大きかったんですよね。
 
___どちらかがいいというわけではない、ということですね。実際に、今のDODO DESIGNさんはどんなご状況でしょうか?
 
そう、どちらかがいいというわけではないんですよね。うちの場合は、僕は朝9時半に出社しています。新卒のスタッフは毎日出社することになっていて、ほかのスタッフは在宅の時もある。だから席は全員分ないんです。以前より、今の働き方はちゃんとしているかもしれないですね。きちんとしないとクライアントに失礼になりますから。例えばJR東日本さんとか日本を代表する企業ですし。先方に打ち合わせでうかがうたびに思うのですが、JRのあのビルによく僕らが入れてもらえるなあと(笑)。お客さんに対して失礼のないようにしなきゃいけないなというのもあって、スタッフには礼儀正しくしようとか、感謝の気持ちを持って仕事しようとか、基本的なことは伝えています。

___まさに「やることはちゃんとやる」というスタイルにも通じたお話ですね。
 
自由にやっている人を見ると、うらやましいなあと思うのですが、なかなかむずかしいんですよね。そこはもっと自由に、もっとフランクにと思うこともありますし。また、そこに賛同できない人もいたりするんですよ。「クリエイティブなんだから何時に来ようが、結果出せばいいんじゃないですか」とか。すごく葛藤があります。やはり大切なのはバランスでしょうか。今は一時期よりは、時間的に緩やかにはなりました。コロナ禍前は、朝出社して夜11時まで、とか仕事をしていたんですけれど、今はなるべくやめて「遅くても夜9時には終わろうよ」という感じです。あまり長時間労働をよしとしないようにしています。
 こう言うときれいごとに聞こえるかもしれませんが、現実はなかなかそううまくはいかない。答えは一つではないし、模索しつつみんなのいろんな意見を聞きながら、やっていこうと思います。
 
___貴重なお話をありがとうございました。


(取材協力:DODO DESIGN)



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