作家と画家が考える「唯一確かなもの」〜『一本の木がありました。』くすのき しげのりさん×ふるやま たくさんインタビュー(前編)〜
究極まで削ぎ落とされた文章と、モノクロのドローイングで描かれた限りなくシンプルで美しい絵本ができました。
7月21日に発売となる『一本の木がありました。』は、モノクロームの世界が想像力を育みます。物語を手がけたくすのき しげのりさんと、絵を手がけたふるやま たくさんに『一本の木がありました。』が生まれた背景についてお話いただきました。
その存在が唯一確かなものであること
ーーどういった背景で物語が生まれたのでしょうか?
くすのき:私の家に「陽光」という庭石があるのですが、その大きな庭石の来歴と変容、その時代での人との関わりを一個の石を通して考えること、悟り、意識の進化といったものを書いた物語を最初にふるやまさんにお見せしました。「ふるやまさんだったらわかる」と考えたからです。そのときふるやまさんから「僕も一本の木の物語を書こうと思っていたんです」とお話しされました。
ふるやま:そうですそうです。原稿の状態を読ませていただいて……一緒に飲みに出かけたときに「僕もこんなことを考えているんです」とお話しましたね。
くすのき:やっぱり嬉しかったのは、60代にさしかかって、同じような感性、作家としての生きる哲学、表現したいものの方向性がふるやまさんにもあるのがわかったことですね。その夜飲みながら『一本の木がありました。』のラストシーンについて、私から「最後は新しい木を支えるんだ」と話したのを覚えています。その後に一本の木の成長や変化、人間との関わり、関わる人間たちの心情などを整理して、複数の物語を編み込むことによってこの物語を書き上げました。その後で「ふるやまさんが描きたいのはこんな作品かな?」とお見せしたわけです。
ふるやま:一本の木の物語は温めてはいたんですけど、あくまでイメージの断片なんですよね。映画で言うとシノプシスとストーリーボートしか作ることができなかった。だからプロフェッショナルのくすのき先生が「ちょっと作ってみるか!」とお話をしてくださって、これはすごく楽しくなりそうだなと。ですので、出来上がってきた物語を見たときは、本当に驚きました。自分が思っていた以上のものでした。
ーー『陽光』と『一本の木がありました。』に共通するテーマとはなんでしょうか?
くすのき:『陽光』は石の話ですが、石であることと、その存在が唯一確かなものであることが書きたかったテーマです。『一本の木がありました。』も同じです。山奥で、芽が出て育って、花を咲かせて……それは誰かのためとか誰に見てもらうためではなく、木であることを確かなものとして、その日その一年を成長し変化しながら過ごしていく姿です。折れて枝になって海に流れて、どんな姿になっても一本の木は一本の木であることが唯一確かなものです。
ふるやまさんもそうだと思うし僕もだけど、作家であること、画家であるという確かなことが、一本の木の姿に重なります。どんな条件や状況であっても作家であることに矜持を持って仕事をすることが、僕らの中にもあるのだろうなと。ですからその本質としての、誰かに見てもらうとか自慢するとかではなく、ただ、そうあり続けるということを書きたいなと思っていました。
読む人のイメージを広げる
ーーテキストも絵も限りなくシンプルな構成に行き着いた背景について教えてください
くすのき:通常絵本を書くとき、出版社にお渡しする原稿では、編集者が完成形をイメージできるように、書き上げた作品のページ割を考えて構成し、場面の様子やイメージは文字の色を変えて補足し、できる限り完成作品の文字量を減らすようにしています。文章を減らすということは、作家として文字で表現した場面の様子やイメージの部分を画家の絵による表現に任せるということです。ふるやまさんとは『あなたの一日が世界を変える』(PHP研究所刊)から始まって、絵本や教科書、講演やイベントとたくさんの仕事をご一緒してきました。ですので、画家のふるやまさんのことを一番よくわかっている作家であると自負していますし、私のこともおそらく一番わかってくれている画家がふるやまさんであると思っています。
こうした背景もあって、今回の作品では当初から書き上げた物語をお渡しし、文章で書いたそのほとんど全ての表現を絵にお任せすることにしたのです。究極のところ文章を全てなくしてもふるやまさんの画力で作品は成立するのですが、読者が読み進める際、一本の木に対する印象を強くし、自身の思考を深めることや読み進めるうえでのリズムを考え、最小限のポイントに「一本の木がありました。」の文章を置くことにしました。もちろんこれもふるやまさんの絵に対する信頼があって初めてできることですし、ご理解いただける編集者、出版社だからできたことです。
ふるやま:超シンプルなドローイングだけというのは、最初から決まっていたわけでもないんです。先生とパイ インターナショナルさんとで、どう表現するか手探りしながら考えました。打ち合わせで僕が書いた最初のストーリーボードをお見せしたときに、パイの社長さんが「これいいよね」と言ってくださったんですよ。ほぼ今回の絵本みたいな絵で、僕も「へ?」と驚いて。「これ本当に落書きみたいなものなんだけど……」と話したら、「いやいや、これで絵本が作れたら最高に素敵じゃないですか」と仰ってくださって。
僕は絵を描くうえで、最初にパッと出てきたドローイングが大好きなのですが、それってなかなか絵本にしたり他の作品にしたりすることは難しいです。要は下絵として見られてしまう。でも今回はあえてこのタッチでいきましょうとなって嬉しかったですね。
ーーとても気持ちのいい線ですが、描く上でどんなところに苦労しましたか?
ふるやま:読む人のイメージを広げる、という大前提がありましたので、絵が説明的にならないようドローイングするのが大変でした。説明する絵は簡単です。ドローイングの勢いを活かしつつ、説明にならずに、なおかつ読者に訴えかけなければならない……という要望は、かなりハイレベルでした。
今回使った鉛筆は8Bです。あえて細かな描写に不向きな鉛筆を選びました。普通の鉛筆の倍の太さがある鉛筆です。描く側の「描きやすさ」を封印することで、勢いを生みたかったのです。
ーー実際、ふるやまさんから上がってきた絵をご覧になられてどう思いましたか?
くすのき:さすがだなと思いました。作家の中ではふるやまさんの実力を一番知っていると思いますので、ですから上がってきたのは、もう間違いないなと。
ふるやま:最高の褒め言葉です(笑)
(インタビューの後編はこちらから)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?