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Webデザインに注力したブランディング|セルディビジョンさん インタビュー

あらゆるコミュニケーションがデジタルへシフトしている時代、デジタルコンテンツ制作を専門とする[セルインタラクティブ]と、ブランディングデザインを専門とする[セルワールディング]に分社化したセルディビジョングループ。セルワールディングで主にブランディングを手がける辻さん、ニパさん、セルインタラクティブでWebデザインを担当する松田さんに最新の仕事やデザインのトレンドについて伺いました。



(プロフィール)
辻 浩史
セルワールディング クリエイティブディレクター/ブランドクリエイター
静岡県富士市出身。デザイン事務所・化粧品会社・広告プロダクションを数社渡り、現在に至る


松田柊子
セルインタラクティブ アートディレクター/デザイナー
岩手県雫石町出身。桑沢デザイン研究所卒業


馮琬婷(フォンワンティン)
セルワールディング ブランドクリエイター
台湾台北出身。桑沢デザイン研究所卒業


八千代ポートリーのWebサイトのリニューアル

___最近手がけられたお仕事の中でも特に印象に残ったものがあれば教えてください。

松田:八千代ポートリーという卵の販売会社さんのWebサイトのリニューアルで、コピーとイラスト、写真以外はすべて自社内で完結させています。循環型農業が特徴で、鶏を飼育して出た鶏糞を肥料にして、その肥料を田んぼに使って飼料用の米、鶏の餌を栽培し、そのお米を鶏が食べる...というものです。横田農場というお米農家さんをセルディビジョンがブランディングしていて、その繋がりで八千代ポートリーからお問い合わせをいただきました。座談会を行ったり、採用ページもしっかり作り込んでいて盛り沢山なんですけど、こだわり切りたいという思いで取り組んだ案件です。

___何名のチームで取り組んだのでしょうか?

松田:私がディレクターで、デザイナーが1名、ディレクション兼コピーライターが1名、イラストレーター1名、カメラマン1名の計4名で、実装は今回外部のパートナーにお願いしました。10年前くらいに作ったWebサイトを使っていたようなのですが採用などの観点から新しくしたいと問い合わせがあり、新しい世界観や温かさ、親しみやすさを打ち出していきたいという話をいただいたので、リブランディングに近いような流れでした。この世界観をもとに他のツール、例えば紙のツールや営業の方が使用する袋のデザインなどもご依頼をいただき、広がりを見せています。
Webの制作はfigmaという無料から使えるアプリケーションですべて完結させています。ワイヤーフレームの作成、サイトマップの作成からすり合わせをして、どのページにどのような内容を載せるか、ページ数やページ構成、写真をどれくらい入れるかなどを決めて、これをもとにデザインを進めていきます。

___クライアントに対して何案くらい提案されましたか?

松田:普段は2案提案を行うことが通常ですが、今回はご予算の関係で1案で進めました。提案の時点で温かみがある親しみやすいイメージにすることがすり合わせできていたので、スムーズに進んだと思います。

___最初の段階からイメージを共有するのはなかなか難しいと思います。横田農場さんとの仕事があったことも影響しているのでしょうか。

松田:そうですね、今回初めてご一緒したのですが、弊社のことを知っていただいているお客さまだったので、任せていただけたかなと思います。

___グラフィック的には、どのエレメントも気持ちが良い丸みが施されていますね。

松田:丸の形にもこだわりました。卵は丸くてコロンとしてるから自然と丸いものが増えたのですが、この角丸もただの角丸じゃなくてクロソイド曲線というものです。ただの角丸だと結構角ばりますが、普通の丸よりもより丸く感じる丸、というのがクロソイド曲線なんです。


「味わい鍋」のリブランディング

辻:味わい鍋は、1985年に「美味しく作るために、最高の鍋を造る」という思いの元、当時はまだ珍しい「主婦モニター会議」を実施し、皆さまからお墨付きをもらい生まれた鍋でした。ですが、いずれも製造・販売元の事情により、これまで2度の生産終了の危機がありました。そんな中「残したい」「いい鍋だから、造り続けたい」という販売元さん・職人さん・愛用者さまの声に支えられながら色んな課題や想いを背負って、この度リブランディングを遂げて発売をする事となり、そのブランディングプロジェクトを弊社5名体制で依頼を受けスタートさせました。

ニパ:私はWebサイトの制作を担当しました。ほぼ毎週こまめにクライアントと打ち合わせをして、他社の鍋との違いや、強みを聞き取り、さまざまなマーケティングもして、どのような世界感を作っていくかを話し合いました。

辻:「世に送り出したい」って聞こえは良いのですが、具体的にどういう人たちに届けていくかを明確にしないと意味がない。「誰に届けたいのか」を見つけていく作業をクライアントと一緒に探っていきました。

ニパ:「鍋はただの鍋ではなくて、暮らしの一部分ではないか」という話になりました。良いものを使うことが暮らしの一部になると考え、ブランディングを始めました。

辻:高級鍋は世の中にいろいろありますが、他と同じ状態に引き上げるとなると結構難しい。今ニパが話したのは、高級ブランド鍋は「憧れ」、いわゆるハレの日のようなイメージがすごく強いのですが、味わい鍋はハレの日と逆のケの日。日常にどう溶け込ませるかという方向で色々話し合いながら落とし込んでいきました。
ブランドロゴは〈A1ゴシック〉を元に作りました。クライアントも味わい鍋に対して思い入れや愛情が強い方々で、飾ったものや華美なものにはしたくない。とはいえ想いや背景を感じてもらえるものにしたい。そのような課題がある中で、〈A1ゴシック〉の書体の経緯を説明したときにすごく響いてくださったんです。

___書体の経緯が響いたのですか?

辻:〈A1明朝〉のコンセプトを引き継ぎゴシック体にしたのが〈A1ゴシック〉と言われています。、昔から親しまれている筆の墨溜まりやハネのイメージをゴシック体に継承したというものです。新しい書体だけど同時に古いものを継承している。その経緯が今回のブランディングにすごく合っていて、書体の雰囲気も気に入ってくださいました。最初はこの書体でそのまま行こうと話をしていたのですが、日本語の看板文字を手書きで書けるレタリングの職人さんである、サインズシュウさんと本プロジェクトの主となって動いていたスタッフが交友関係があり、彼を中心に〈A1ゴシック〉を書いてくださいと依頼することになったんです。かなりこだわって修正やパターン・調整をしたのですが、ぱっと見、普通の人にはわからないですけど。



コミュニケーションによって作り上げる

___クライアントがそこのこだわりを理解してくれるのもまた素敵ですね。

辻:密にコミュニケーションをとりました。クライアントが作りたいと言ったものに対して、「この鍋を世の中にどうにかもう一度引き上げたい」ということをどれくらい可視化していくか、具体的にしていくかがすごく大事になってくる。そういう意味で我々はたくさんの案を出すことはあまりしないのかもしれません。もう分かっているので。

___コミュニケーションで詰めていく過程を大事にしているからこそなのでしょうか?

辻:そうです。打ち合わせの時から明朝体はちょっと違うなという感じがあって、できれば生活に馴染むゴシック体のほうが良いなと。その中で文脈的に沿ったものやフォルムなど、必然的にある程度絞られてきます。

ニパ:ブランディングの顔として、Webサイトのトップページとブランドストーリーを更新し、撮影も行いました。スタジオ撮影だとキレイに撮れすぎて、生活感が薄いイメージになったので、実際に人が住んでいる家の台所を選びました。

辻:よく一緒にお仕事をさせてもらうカメラマンがフィルムカメラでも撮る方で、今回はフィルムで撮影してもらいました。現場ではカメラのところに一度スマホを置いて、プレビューを確認し、昔のポラロイドのようなことをやってましたね。

___料理はどうされたのですか?

ニパ:実際に料理しました。こまかく香盤表を作って、たとえばフタを開けるシーンや煮るシーン、ご飯を炊くシーン、料理ができる前後も大切なので、すべて時間を決めて撮影しました。

辻:調理器具はベネフィット訴求というか、機能を謳うことが多いですよね。これも機能はすごく高いのですがそれだけでは想いが伝わりません。ものに愛着を持ってもらったり、定量的な部分とあわせて定性的な部分をちゃんと訴求していかないとこの鍋の本質から逸れてしまうので、そこをちゃんと謳うというのが大事だと考えました。

ニパ:お客さまが一番伝えたいこと、今回は特に思いが強くて、それをウェブサイトを見た人にどうやって伝えるかを意識してデザインしました。写真は全部素敵ですけど、写真のセレクトも大事ですし、情報の整理や見せ方も重要だと思いました。

___プロダクトによって視聴環境、スマホなのかiPadなのか、PCなのかで見せ方もあるかと思うのですが、このプロダクトはスマホが多いからスマホを中心に考えようとか、そのような優先順位はあるのでしょうか?

ニパ:味わい鍋はスマホから始めました。例えばインスタで広告をみてクリックする方が多いんじゃないかという要素があって、スマホ版もこだわっています。

___八千代ポートリーのケースはいかがですか?

松田:閲覧するユーザーが同業他社や取引先の会社、あとは就活中の学生とのことで、PCとスマホ半々くらいです。少しPCの比重が多めで、どちらも同じような体系になるように留意しました。PC版からデザインを進めたのですが、デザインの段階で、レスポンシブデザインを採用し、可変でデバイスの横幅の変化に応じて%で指定しました。この画面サイズに対してマージンはこれくらいとか、これよりも小さい画面幅になったら改行をこの後にするとか、画面を差し替えるとか。そのようにデバイスサイズに合わせて調整を細かくするように、エンジニアとコミュニケーションを密に取るのがすごく大事になってきます。

___実際に商品を見てから買うお客さんも多いと思うのですが、ショールーム的な場所もあるのでしょうか?

ニパ:お鍋の実物を見ることができるショールームがあります。

辻:最初の話し合いのときに、味わい鍋がどんなお店で販売されているか、ふさわしいか等について具体的な店名を出しながら設定立ても行いました。ブランドサイト内にて取扱い店舗が確認できますので、それらの店舗さんへ行っていただければ実物はご覧になれます。

___そこまでサポートされるのですね。その方が全体をブランディングしやすいのですか?

辻:最終的なアウトプットに近づき、すべてが理路整然とつながります。アウトプットはあくまで最終的な着地の部分なので一番目には触れるのですが、そのプロセスがどれくらい盤石かで決まってくるので、案をたくさん出さないのもそんな理由ですね。


デザインのインスピレーションとなるもの

___デザインのインスピレーションや、みなさんのアウトプットの元になってるものがあれば教えてください。

辻:僕はそこまで勉強しようとか、インプットしようというモチベーションはあんまり高くはないです。これ使えそうだなと思いながら細田高広さんの経営的なテーマのYouTube動画を見たり。ラジオが好きなのですが、「人気は高さじゃなくて長さだ」と放送作家の方がお話されているのを聞いて、「なるほど、これブランディングと一緒じゃん」と思って。その方はタレントに向けて話していたのですが、タレントは人気商売なので「人気の高さ」がすごく大事ですよね、でも結局高いことよりも長いことのほうがもっと大事で、「それを保つためにどうするかはブランディングやいろんなことに通じているな」なんて思いながら聞いています。

ニパ:私は中国語、日本語と英語は日常会話ができるレベルで、その言語の色々なサイトや文章、記事などを見て新しい情報を得るのが好きです。有益な情報で「ひょっとすると今後仕事でも使えるんじゃないかな」と思うことをどんどん保存して、あとで見返したり仕事に利用したりしています。特に最近はAIが流行っているのでAIの記事や、新しいデザイン情報のアカウントもフォローしたりしてさまざまな情報を常に探しています。

辻:ニパは新しい情報を見つけて共有してくれるので、とても助かっています。具体的には最近だとChromeに入れるソフトで、それを開いておくとWebサイトの概要を端的に説明してくれるものがあって。海外のあらゆるサイトの概要がわかるようになるもので、すごく便利です。

松田:私はWebや動画が業務の主軸なので、そのような関係の海外のサイトをよく見ます。awwwardsというサイトがあって、Web業界はギャラリーサイトがいっぱいあるんですけど、世界中の制作会社が自分たちの実績を投稿して、それを評価する人たちがいて、毎日「今日一番良かったサイト」を発表します。awwwardsに載ることがステータスになっているので、このサイトを見ると最近のトレンドがよくわかります。Webだけではなく普通にデザインもかっこよかったり、トレンドを反映したサイトが多かったりするので、こういうところからインスピレーションを受けたりします。あとは、pinterestやBehanceはしょっちゅう見ています。

___pinterestにはたくさんの画像がありますが、どんどん学習して自分が好きなものが表示されるようになりますよね。自分のアンテナ通りに編集されたサイトを見るのでしょうか?

松田:「おすすめ」を見ることはあまりなくて、こういう系統のデザインの参考にしたいというときにpinterestやBehanceで検索して使います。デザインの雰囲気のキーワードを入れてどんどん絞っていって、そこから投稿主や投稿元のクリエーター軸で深掘りしていくことが多いです。そうすると、欲しかった情報以外の質の高いビジュアルが見つかったり、刺激を受けることがありますね。

最新のデザイントレンドと今後挑戦したいこと

___今のデザインのトレンドはどういったものでしょうか?

ニパ:感覚的にはグラデーションのデザインが増えてきた気がします。効果をかけた背景のグラデーションとか。

辻:リソグラフ的なグラデーションとかね。

松田:あとフォントが最近特徴的だと感じます。いじってビットマップ系にしたり。オリジナルのフォントというよりは、細めのセリフ体みたいな、ヒューマニストサンセリフという、セリフがひとクセあるようなフォントを最近よく見ます。あとはバリアブルフォントも最近よく聞きます。太さや幅を自分で調整できるフォントですね。東京ドームが最近リブランディングしていて、まさにそういったフォントをグラフィックに使っていますね。

___今後チャレンジしてみたい仕事はありますか?

松田:個人的にはBtoCの案件、女性向けのデザインにもチャレンジしてみたいと思います。トレンドがすごく好きなので、トレンドが求められるデザインにチャレンジしていけたら嬉しいです。

ニパ:新しいもので遊びたいです。BtoBはよりはBtoCのほうが新しいことにチャレンジできる可能性が高いのかなと思います。あとは、最近ペットを飼ってる人が多いので、ペット業界のブランディングもやってみたいです。

辻:僕は特にないんですよね。普段の仕事の6、7割はBtoBですが、BtoCも多い方ですね。人と仕事をしている感覚が強いので、こういう業態をやりたいというよりは、その人のためになることをしたい、という方が強いです。
こういう方が困っているのを解決する、みたいなモチベーションが最後は強い気がします。

デザイナーを目指す若い世代へ

___最後に、デザイナーを目指している若い世代の方にメッセージがあればお聞かせください。

松田:やりたいことを諦めないでということと…学生の間は自分のやりたい表現や、自分が何を強みとするか、そういったことを見極めるのにすごく適した期間だと思います。今の時代は私が学生だった時代より、ソフトもたくさん出ているし、色々な情報で溢れていますよね。例えばBlender等で3DCGに無料でチャレンジできる環境がたくさんあると思うので、沢山トライをしていくと、たぶん現役デザイナーができないことができる人間になれるのではないかと思います。とにかくスキルセットをいっぱい磨く。それだけじゃなくて表現も磨いて、自分の好きなものや強みを見つけられる機会にしてほしいと思います。

ニパ:私自身も学生時代に「どんなことやりたいか」と聞かれても、どう答えればいいのかわからなかったです。自分でできることを見つけてそれを得意なものにしていくことで、「もっとやりたい」というモチベーションに繋がるので、まずは今自分ができるものを見つけて、それを深めて、自分の得意なことになってから、やりたいことをどんどん増やしていってほしいと思います。

辻:デザイナーに限らずですが、社会に出ると打ちひしがれることばかりだと思います。特にデザイナーは憧れを持って入る方が多いので、色々なことで夢破れたり、「こんなはずじゃなかった」ということもいっぱいある。だからこそ楽しめたり、夢中になれる時間をなるべく作る努力をした方がいいかなと思います。
楽しまないと、いくらでも落ちていく仕事だと思うんですよね。企画が思い浮かばない、デザインが出てこない、期限が迫っているみたいな。追いつめられてにっちもさっちもいかなくなる。だからこそ、どれだけ楽しめるかが大事になってくると思います。

___貴重なお話をありがとうございました。


(取材協力:セルディビジョン


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