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トキ鉄に学ぶ

直江津の公民館事業のシリーズ企画に参加している。

今回はその一環でえちごトキめき鉄道を見学した。

前半はD51レールパークの見学、後半は鳥塚社長のお話を聞いた。
乗り鉄の父親とは違い、元来、鉄道にさほど関心がない私であったが、
「直江津では鉄道が地域の資源である」という視点をもつに至る1日だった。

直江津D51レールパーク

直江津駅の変遷

実はうちの前の道路はかつて鉄道が敷設されていた直線だったと冒頭から説明を受け、ズドンと頭を叩かれたような形でこの時間が始まった。

137年前に開業した直江津駅は、現在の麓病院のあたりに平屋で存在していた。
レールパーク入口の道路から新光町のカメラのキタムラあたりまでの直線を経て長野に向かっていったということで、現在もその道路が直線である所以を今日知ることができた。
関川の向こうの春日神社付近にあった春日新田駅と直江津駅とを結ぶと、あまりにカーブが急ということで転車台が整備され、それが特徴的な駅であったということだった。

直江津駅はその後、現在の駅舎付近の位置に移転され(2代目・平家)、その後、馴染み深い三角屋根の3代目、そして2000年に現在の駅舎になった。

東海道線が開通する際に中山道経由でのルートが消失する可能性もあったようだが、地元名士の活躍や嘆願により、この鉄道が残存するに至ったということだった。
今も当時も、人は力で、声を出すことの意味を学んだ。

祖父が国鉄マンだったとしても孫は知らないことだらけ。

収まっている車両にはストーリーがある

レールパークの中に歩みを進める。
入り口から貨車と車掌室が一体になった「緩急車」、そして「機関車D51 827」、「おいらん車」、「国鉄時代の急行列車」、「ラッセル車」と次々に案内をしてもらう。
それぞれの車両について、関係者ならではの解説を添えてもらう。
鉄道好きな人には美味しい話なのだろうと聞く。
一貫しているのは、なぜトキてつがこの車両をここに置くことにしたかというストーリーが明確なこと。
それぞれの車両に物語があるのが素人耳にも入ってくる。
このストーリー、エピソードこそが、集客のキモなのだとわかる。

鳥塚社長

ひとしきり見学を終え、鳥塚社長のお話を聞く。
航空会社で長年勤め、千葉のいすみ鉄道で前職を勤め、現職に就いている。
とにかく、ビジョン、アイディア、仕組み化がすごい。
こんな近隣にこれだけの方がいるというのがワクワクする。

雪月花

数少ない新車の観光列車である雪月花。
多くは元あった車両を改造しているらしい。
他の新車が、乗車料として超高価格帯を設定している中で、雪月花はその1/10以下に価格を設定しているところが特徴的だという。
ホスピタリティに重きを置き、関わるスタッフはおもてなしで日本一という合言葉で業務に従事している。
提供する食事も地元飲食店のものをふんだんに使用し、減価率も高めでブランド化をしているよう。

観光急行

毎日の稼働は厳しいが、週末の数往復ならまだまだ現役、という車両をJRから譲り受け、週末に乗車料金+急行券料金だけで利用できるようにしたのが国鉄型観光急行。
車両はノスタルジックな雰囲気で、乗ることそれ自体を目的にしている。
「映える」写真が撮れるように風景と太陽の位置を勘案したダイヤ、
それを実現するために遠方から来た人が地元に宿泊飲食をする時間の設定、
在庫管理が不要で、乗客がお金を使いたくなる車内神社、
納涼列車やプリンアラモード列車などの特別な運行、
民間の「稼ぐ仕組みづくり」の一端を見て、持つペンが止まらなかった。

嘆いてばかりで何もしないのとは訳が違う、成果を上げ続ける仕組み、それを実現するための経営への執念を感じた。

3セク

とはいえ経営は易くない。
鉄道会社が3セクになるには
・JRが採算の取れない路線だと判断したこと
・並行在来線であること
のいずれかが前提になるということを学んだ。
つまり、はなから「黒字にならないからJRはやらない、県や市町村の補助を受けながらやる」ということ。
その状況に甘んじるのではなく、さまざまに仕掛けていくトキ鉄の姿勢は見事であるし、きっと働いている人たちはトキめいてやっているのだろうなと想像される。

なぜやるのか

そして、なぜそこまでして経営努力を重ねるのか、というハイライトで、鳥塚社長は高校生で満杯になったプラットフォームの写真を投影した。
これだけの高校生を輸送することができるのが鉄道の特徴。
学ぶ機能が高い学校には遠距離から通学をしてくる、意欲や力のある子どもがいる。
学びに対して期待がなければ、近くでいいやとなる、の裏返し。
そして、遠距離から通学をすることが可能であるかは鉄道の有無で決まる、という。
なんと、鉄道会社の経営の根幹も、地域の発展のために教育が欠かせないというところに収斂した。
首肯して首がもげそうだった。
トキ鉄はその高校生を大切にするために、テスト期間(高校生の帰宅時刻が重なりやすい)の車両を増やしたり、直江津駅の待合室を改造して学生用の自習スペースにするなどしている。

平日はこうした地域輸送をベースにし、地域輸送の機能が薄まる休日は観光に振るという戦略でやっている。

教育現場の大人として

さて、こうした教育現場でない組織や大人が、教育のことを自分ごとに惹きつけて考えている姿勢を見ると、一体教育の一丁目一番地はどこなのだろうと悶々としてしまう。
できることには限りがあることを前提として、子どもたちに限界を提示するのが仕事になってしまってやいないかと自戒する。
そんな姿を見ていたら子どもは地域や地域の大人に希望を見出すことが難しい。
でも、これだけ希望を見出して目を輝かせて語る大人がいることを知れば、そういう人との関わりを経れば、必ずや感じることがあるだろうとも思う。
積極的にローカルにとどまる意味は、案外近いところにある。
まずは自分がそれを体現できる「近くの大人」であらねばと感じた火曜。

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