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「日本酒で乾杯」をする前に

10月1日は日本酒の日です。日本酒造組合中央会が1978年に定めたそうです。僕が1歳の時からあったのかと驚かされますが、個人的に殊更に意識に上るようになったのは、10年くらい前からのような気がします。
少なくとも、僕が学生の頃、実家の酒販店で日本酒の日をPRしていた記憶は一切ありません・・!

前職の官公庁勤務時代には、来春の内定者の解禁日である10月1日が日本酒の日と重なっていたことと、所属がお酒を扱う部局だったこともあり、内定者の歓迎会と合わせて、この日は日本酒で乾杯しよう、と毎年音頭をとっていました。

ところが、何年か前から、10月1日にみんなで乾杯しよう、ということが少し苦手になりました。いろいろな場面で日本酒を盛り上げるのは大賛成なのですが、周囲から、この日は乾杯しましょう!という声が繰り返し耳に入ると、ちょっと義務的な感覚を覚えるようになって、二の足を踏むようになってしまいました。

好きなものは自然が良いなと思います。
日本酒は、僕たちの人生を豊かにする力を持っていると確信しています。僕自身、気の赴くままに、大切な人と、あるいは時には一人で日本酒と向き合うことが、何よりも心地よい時間です。

世の中に、「今夜は日本酒が飲みたいな」という自然に沸き起こる気持ちがもっと広がっていくと良いなぁ、そういう空気が生み出されるためにはどうしたら良いのかな、といつも考えています。

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日本酒の日が制定されてからの40年間で、日本酒の出荷数量は3分の1にまで減少しています。しかし、いわゆる経済酒が全盛だった40年前と比べると、「つくり手がどういう日本酒を造り、日本酒を通してお客様に何を提供するのか」という点にこれだけ高い意識が向いている時代は、日本酒造史上、かつてなかったことではないかと思っています。

1,000の酒蔵にはそれぞれのポリシーがあり、日本酒には、いろいろな飲み手のニーズを受け止める多様性があります。1年中いつでも良いので、それぞれの人にとっての日本酒の日が見つかれば良いなと願いながら、10月1日は日本酒のこれからを考えて過ごしたいと思います。

いずれにしても、10月1日は、多くの酒蔵にとっては新米が届き今期の酒造りに入る時期でもあり、また、昨冬に仕込んだお酒が良い熟成を経てまろやかな芳香を纏う時期でもあります。気候的にも次第に秋めいた日が増えてきて、日本酒にとっては実にシンボリックな一日だなぁとしみじみ感じます。

日本酒の日が、日本酒に関わるすべての人にとって豊かで快い一日になりますように!

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