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甘い病

以前は毎日起きればテレビを点けていて、出かけて家に帰れば真っ先にテレビを点けていたのが習慣だった。ただ流しているだけで、見てはなくても話し声がするし、なんとなく誰かがいるような気になっていたのかもしれない。ただそれたけで安心できた、というか、そういうこともあったのだ。そしてテレビから常に流れている情報に耳を傾けていなくても脳に入ってくるものもあった。それは繰り返されるものや他のことに集中できていないとき、そしてテレビを見ているときだ。

今は一切見なくなったのでなにもないが、その頃は耳から入ってくる言葉に違和感を感じて画面を見たりすることがあった。それはちょっとした言葉の間違いや意味不明の言動、そしてそれらの語り口などだ。言葉の間違いはよく誤用されるようなものだったりするが、実際は自分にその誤用しないという規律が根付いているとも思えない。誤用が今はもうポピュラーになっている言葉もあり、目くじらを立てるものでもないのかもしれない。気になるのは私の性質なのだろう。

一時期は午前中にずっと家にいてテレビを点けて、全国ネットのワイドショーなどの後に地域の情報番組などを流れるまま流していた。都市のグルメや地域の観光地、イベントなどを発信するどこにでもあるような情報番組だ。それを毎日流していて、繰り返し耳にしていて気づいたことがある。そこで定期的に繰り返されていたもので、タレントやレポーターというふんわりした職業の人が地域の話題の飲食店や食材の店、旬の生産者、漁業者や養殖業者などへ出向き、食べたり体験したものを伝えたりする。いわゆるグルメ情報で、その語り口が甘く飾られている事実だ。

思い返せばグルメ番組は全国ネットでもよくあるコンテンツで、そこでも同じようなことが繰り返されていたのかもしれない。それは細かく違いを認識してはいなくて、誰が誰とは分からずに、ただ点けているだけのテレビから発せられているだけの音だから仕方ない。しかしそれはスクロースへの依存のように言葉に依存しているようで、麻痺をしているようで、冷たいクレバスに足をすくわれ落ちているような状況ではないのかと、気づいてしまった。なぜその例えかは別として、それは、いつからか何を食べても"うわ〜甘い、とか、甘みがありますね"みたいなコメントをする人が耳についたのだ。

これは番組を凝視せずとも感じたもので、そのタレントという華々しい能力を持っている人や、人前に出るリポーターの人たちは私たちに、いや失礼、私たちにではない、ただ彼らは私にはない特別な感受性でそう感じるのだろうが、和菓子や洋菓子を含む菓子や、果物やその加工品、そういうもではなく野菜などにも、いやそれどころか肉や魚にまで同様の表現で伝える。野菜などにも甘みは感じるだろうし、肉や魚の脂身に甘みを感じる場合もあるだろう。そして多分菓子類にはそういう表現は使わないとも思うと考えれば、あ、そういうことかと思った。

その人たちは単なる絵面というか、その延長上に映る自分を意識しているのだ。どうコメントすればいいか、どうすればいいレポーターか、どうすれば輝いて見えるか、そこを意識しているのだろう。プロということだろう。だが歪んでる。うんざりだった。なにが甘いだよ、と思っていた。分かってる、おかしいのはこっちの方だ、それは知っているから。自分以外からはそんな話は聞かないしね。いちいち目くじら立てるなよ、なんていつも言われそうな天の声。いいのさ。いい。そういうことを最近強烈に思い出した。ハッとね。本題がここから始まるなんてね。

本題

なぜそんなことを思い出したか、それが本題だ。それはCRCK/LCKSというバンドのGoodbye Girlを聞いていてハッと歌詞に着目したからだ。曲のことを細かく書きたいが、書くと長くなってしまうし、曲は曲で描きたいので割愛するが、その曲の歌詞の中にこういうフレーズがある、

スイートじゃないバジル スイートじゃないぼくら スイッチもないのに始まっちゃったんだ

ここでちょっと考えた、スイートバジルを育てているが、確かにスイートではない。ではなぜスイートなのだろうか。結論をいうとそれは香りがスイートということらしい。甘い香りがするハーブの中の王様、それがスイートバジルだ。バジルというのは種の名前でいわばくくり、スイートバジルだけではなく聞いたことあるものでも、レモンバジルやシナモンバジル、タイバジル、他にもいろいろある。だからほかのバジルのことを歌ってるのかもしれないが、一番ポピュラーなスイートバジルの香りがスイートかといわれるとどうだろう。甘い香りがしなくもないが、やっぱりスイートバジルの独特の香りだとしか言えないね。

スイートバジルはハーブだから雑草のようなもので、育てるのも難しくはない。ただ多年草の側面があるとしても、北半球の多くの場所では冬が来てしまうのでやっぱり一年草という感覚だろう。一度部屋に入れて越冬したこともあるが、やっぱりどこか弱ったような気がした。種は簡単に収穫できるし、選定しないと余ってしまうくらいだ。だけどスイートバジルも私からしたら歌詞のようにスイートじゃないバジルである。だけど名前はスイートバジルでいいんだけどね。

Goodbye Girl - CRCK/LCKS




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