結婚相談所

短いスパンで付き合ったり別れたりを繰り返していた加藤さんという先輩と27歳の頃、キッパリはっきり別れた。
自由が丘のアパートに置いていた荷物が実家に送られてきてわかった。
休みの朝、ホットケーキを焼いてくれた加藤さんはもう二度とわたしを愛すことはないと結論づけたみたいだった。
加藤さんは情が深い男性だった。
わたしは何度も振られたが、しばらく連絡を絶ってからふいに連絡すると、必ず復縁できたのだ。
今回だってそうやって復縁できる可能性はゼロではないと思った。

でもわたしはどうしても結婚して子どもがほしかった。
「UMIちゃんはどうしてそんなに急ぐの。お互い30こえてからでもよくない。」
そんな言葉が思い出される。
加藤さんはわかってない。
若いうちに結婚して子どもを生んだ方がいい理由なんてわたしにはたくさんあるのだ。

それでネットで調べてよさそうな相談所に申し込みをした。
LiLiCoそっくりのはつらつとしたカウンセラーの面接を受けてお金を払った。

プロのカメラマンに写真を撮ってもらった。
完成した写真を見たら二の腕が細く加工されていた。
それから毎月2通の釣り書きが送られて来た。
写真やプロフィールを見てお見合いしたいと思ったら「はい」にマルを、お断りしたいと思ったら「いいえ」にマルして送り返す。
わたしはすべて「はい」にマルをして返した。

お見合いはとても面白かった。

落ち着きのない人。
落ち着きすぎてる人。
顔の長い人、短い人。
家柄の話をする人。
仕事の話をする人。

男性はほぼ加工はなく、カウンセリングをした事務所の廊下で撮ったような写真だったが、1人だけ服装や背景を含めてこだわりの写真を使っている人がいた。
会うとやはりこだわりが強いのか子どもを千代田区の小学校に入れたいと熱弁していた。

そして今の夫と出会った。
夫がしたのは猫の話だった。
小学生の頃、夫の家の近くで見かけない男の子が箱を抱えており、目が合うとその箱を渡してきたらしい。
中を覗き込むとフニャフニャした茶色い毛玉の中からピンクの鼻先が見え隠れしていたそうだ。
夫はそれを大切に抱えて家に帰り、20年以上彼女も作らず猫だけを愛したという話。

それで7ヶ月後わたしには猫好きの夫ができ、麻布でひっそり暮らすことになった。
夫はもう猫は飼わないそうだ。
一生で心から愛する猫は一匹でいいらしい。
#エッセイ
#婚活
#恋愛

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