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無常 / 詩

部屋を見渡すと昔見た色が褪せていた。
擦り切れて減っていた。
存在を減らしていた。
枯れた箪笥が佇んで微笑むようだが、僕にはもうお前が何の木から切り出されたものか教えてやることが出来ない。
それを調査してやる時間も体力もすっかり老いの中で蒸発してしまったのだから。
そもそもお前は自分がどこから来たのかなんてことを考えるのか?
そんなことに意味なんてそもそも無いのだから、でっちあげてしまえば十分だろう。
きっと月が明るいうちに。
お前からよく着る物を出して貰った。
おいと呼んで。
おいだなんて。
僕はそんなにまで肥大していたのだ。
誰がそんなことを許したのだ。
切符だって見つからない。
きっとそんなことを許したのは僕自身なのだ。
だから僕は毎日の帳面に僕が僕を許し続けていたと書かなくてはならない。
今朝も書いた。
昨日も書いた。
でも昨日の文字は消えている。
その理屈でいけば、今日の文字は明日には消えるのだろう。
失われるのだ。
永遠に。

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