#18 もしもお金があったなら
ポケットの中から湧き出るくらい
無限にお金があればどうだろう
そうしたらもう
自分の意思とは反対に
無理矢理布団から出なくてもいいし
もちつきみたいな電車の中にいなくていいし
煙を吐くことが唯一の楽しみ、なんて
思わなくてもいいのかもしれない
明日は何を食べようか
週末は何を作ろうか
今月の食費が涙を流し訴える
それも気にしなくていいのかもしれない
お財布の中から温泉が湧くみたいに
お金が溢れてきたらどうだろう
奥さんと約束をしたお小遣いと
泣く泣くおさらばしたりとか
夢のマイホームに付き纏う
35年のローンだって
毎月の給与明細と睨めっこをしなくても
どうにでもなるのかもしれない
人の幸せはお金じゃないわ、と
世間は口を揃えて言うけれど
空っぽの財布をひっくり返すその度に
湧き上がるこの気持ちはなんだろう
家の床下からある日突然
お金が発見されたらどうだろう
生きるためにと働いて
わずかなお金を約めつつ
鰹節のように精神までも削らなくたって
社会の歯車から飛び出して
文字通り、生きるために生きることも
全部が叶うのかもしれない
人生、お金だけじゃないって
皆んな同じように呟くけれど
モノが溢れたこの時代に
果たしてそれは正義だろうか
膨らむ「もしも」の想像に、期待した右手が
ズボンのポケットを小粋に叩く
内腿に、手を打ちつけた音だけが響く