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女友達

わたしは、また固まっていた。必死に考えを巡らせていた。

大きなショッピングセンターの中の雑貨屋をでたところ。
いや、実際にはきっとどこも硬直してはいなかったけれど、一度時間がほしいと強く思った。


「じゃあ出たところにいるから。」
と、ナナちゃんに言ったのは、ほんの三秒前だった。


ナナちゃんがほしいものがあると言ったので、もう一人の友人と合流する前に立ち寄った雑貨屋。
ナナちゃんは文具コーナーで趣味の絵に使う紙を様々に比べながら慎重に選んだ。
わたしは絵画コーナーに並ぶ何ら違いの分からないそれぞれの紙を
できるだけ“ふだん見ない絵画用の紙にすごく興味を持っている”という顔をして、
手に取っては眺めていた。


ナナちゃんは絵がとても上手だ。
私にはとても描けない。

ナナちゃんの長いくせっ毛はいつもふわふわしていて、服装もいつもお洒落で似合っている。
「女の子の笑顔のためにカフェで500円も出そうとしない男なんて、ケチに決まってるんだから。
 はるかも、気を付けなよ?」
「いつも私は彼と割り勘にするんだけどな」
とは結局言えなかったことをふと思い出した。



「はるかは何か見たいものある?」
「んー。大丈夫。」
他に面白いものはたくさんありそうだけど、また今度ひとりでゆっくり来よう、と心の中で決めた。



レジまで黙っているものなんだか居心地が悪くて、
目に入った置物に
「あ、かわいい。」
なんて言ってみた。
「え?なに?」 
「いや・・・。さっきあった置物がかわいかった。」
「ああ。そうね。」

はあ・・・。


レジが見えた。レジの前には3,4人の列ができている。
わたしは、できるだけにこやかに
「じゃあ出たところにいるから。」と言って、
すっと店の外側にでた。
ふう。大きく息をする。

あ。
そして気づいた。
待てよ。こういう時、友達というのはレジまで一緒に行くのか。
じゃあ、私のあの言葉は「気まずいから早く離れたいの」と聞こえたんじゃないだろうか。

わたしは今日ナナちゃんと会ってからの行動を脳内で一気に逆再生した。
私は彼女に好意的な友人と映っているだろうか。
ここで何をしていたら、「早くひとりになりたかった」に見えないだろうか。
ここでどう彼女を待っていれば一番自然なのか。
分からずに一瞬身動きが取れなくなって、作戦を考える時間がほしかった。


結局私は急いで店の外の広告を“前からこれにとても興味があった”人として読み始めた。

ナナちゃんが会計を済ませて出てきた。
「何読んでるの~?」
「あ、ちょっと気になってたものがあって。」

実際そんなこと2%くらいしか思っていないのだ。

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