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無題

満員電車でギスギスして靴の踵を踏まれたり、肘で鞄を押しやったり、そういうのが馬鹿らしい。夜の街を行き交う人々は、そういう冷たさがない。夏とはいえ、しっとりした少し冷たい空気の中で、踊る陽気な外国人、花火をする男女、散歩される白い犬、お酒の缶を持つ人達、煙草の煙、シャッターが降りた街、濡れた地面が色んなところに反射して鈍く光る。

ほんとうの暗闇、大自然のそれとは全く違う都会の暗さは、寂しげでもひとりぼっちでも、圧倒的に襲ってくるものでもない。高すぎず低すぎない温度でそっと寄り添って、自分の体温が高いとか低いとかを感じとらせるものだ。
服が濡れるとか、化粧が落ちるとか、髪がバサバサになるとかそうのうのも馬鹿らしい。白いスニーカーでも、土砂降りの中走ったり笑ったりしちゃう。そんな夜が明けると、全部が長い眠りだったような、漠然としたぬるい温度の気持ちの良さが迎えに来る。ほんの少しの寂しさと一緒に。

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