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呪術と合理性: テック化する藁人形

藁人形の呪い

藁人形とは、藁を束ね人間の形を模したもので、呪いの道具の一種としても知られています。以下は、藁人形を用いた呪いの簡単な説明です。

呪いに必要なもの

白装束
藁人形
五寸釘
金槌

これらの道具を用いて、丑の刻(午前1時〜午前3時ごろ)に藁人形を木(神社の御神木が良いとされている)に打ち付けると呪いが発生する。釘を打ちつけた部分が発病、怪我をする効果があるとされている。藁人形の中には、呪う相手の写真、髪の毛、爪、名前の書いた紙などを入れて打ち込みます。


人類学者のフレイザーは、呪術を「類感呪術」と「感染呪術」の二つに大別しました。類感呪術とは、「類似の原理(似たもの同士は互いに影響し合う)」に基づく呪術であり、感染呪術とは、「接触の原理(一度接触したもの同士は、離れた後も互いに作用し合う)」に基づく呪術です。

この二つの原理によって効力を発揮する一例が、「丑の刻参り」のわら人形です。呪いたい相手に似せてわら人形を作り(類感呪術)、その中に相手の髪の毛や爪などを入れて、五寸釘を打つ(感染呪術)。そうすることで、呪いを発動させようとするわけです。
(丑の刻参りのわら人形はなぜ呪いに「効く」のか
https://note.com/seijo_university/n/na04645c6df08 )


情動の表出先

 呪いの思考や実践は、個人レベルにおける情動が表出することで実践されると考えられる。藁人形の呪いにおいては、呪う側が自己完結する呪術である。(釘を打ちつけているのを、人に見られるとその呪いが自分に返ってくると考えられているため)藁人形を打ち付ける動機には、妬み嫉み恨みなどの感情が挙げられる。誰しもが、これらの感情を特定の個人に対し抱いたことがあるはずだ。生理現象として感情はいつの時代においても普遍的で変わらないものであろう。

現在の情動の表出先はどこだろう


 藁人形のような呪術的な実践は近年行われているのだろうか。インターネットの発展と共に、人々の感情やストレス発散の場として、SNSなどのソーシャルメディアが挙げられると思う。それらのメディアを通して匿名の元、人々から表出する情動たちは、とても直接的で分かりやすく暴力性をもっている。一方で、現在もAmazonやメルカリなどの通販では藁人形が販売されている。Amazonで販売されているものは、玩具や呪術廻戦関連、ジョーク用として販売されており、呪い用では無さそうだった。フリマアプリのメルカリでは、手作りの藁人形が販売されており、呪い用と玩具用が混在していた。現在の藁人形の特徴とはなんだろうか。

藁人形に埋め込まれるQRコード

 メルカリで販売されている藁人形の中には、出品者が藁人形の中にQRコードを埋め込むサービスを行っているものがあった。これは、依頼主の願いを二次元コード化に変換し、藁人形の中に入れることができるサービスということらしい、、


下記は、QRコード藁人形の商品説明です。

写真1

貴方の「願い」を藁人形に埋め込んでみませんか?

写真1枚目はサンプルです。ご購入後に購入者様から「願い」の文面を受け取り次第製作を開始します。
付属品として金槌、木板、3.8cmの釘5本、9cmの釘1本、そして購入者様がスマホをかざして確認できるように部位とコードの対応表を同梱いたします。
釘の増量をご希望の方は購入後のメッセージにて「釘増量希望」とご連絡ください。2倍に増量サービスいたします。

写真2
写真3


写真2・3枚目のように、このワラ人形は購入者様の「願い」を二次元コードに変換し、それを材料にして製作されます。
ご購入後のメッセージにて購入者様の「願い」の文面をご送信ください。(コード化の都合上1通あたり1,000字以内でお願いします)
送られて来た文面を順番通りにコード化し、その順番(番号)に対応する部位の材料にします。
特定の部位をスキップしたい場合は、文面を空白にせず適当に2文字程度入力してご送信ください。
逆に特定の部位のみを指定したい購入者様は、文面の文頭にその部位名をご記入ください。当方はそれ以外の文面部分には一切目を通しません。

写真4

写真4枚目はご購入後のメッセージ送信の例示です。最大で文面13通(1通1,000字以内=合計最大13,000字)をご送信いただけます。

写真5

写真5枚目は使用可能な文字の例示です。

【補足:ご送信文面の順番と該当部位】
1通目は頭部
2通目は胸部
3通目は腹部
4通目は右腕
5通目は右手
6通目は左腕
7通目は左手
8通目は右股関節
9通目は右脚
10通目は右足
11通目は左股関節
12通目は左脚
13通目は左足

QR藁人形概寸:縦30cm、横20cm、厚さ2.5cm
専用箱を使用し外から中身は全く見えません。稲わら製。品名は「植物性クラフト」で匿名配送いたします✈️

当方は送られて来た文面には(文頭に部位指定がある場合を除き)一切目を通しません。流れ作業のように機械的にコード化の処理を行いますので、購入者様の目的や事情には一切関知いたしません。使用方法にも一切関知いたしません。
また、本品は願掛けですので、神社で買う御守りと同様に効果が有るのかも知れないですし、無いのかも知れません。それは当方には全く分かりませんので、効果に関するご質問にはお答えできません。ただし、購入者様の「願い」が成就することを心よりお祈りしております。


情動と合理性、機能性

 先述したように、現在の情動の表出方法として、直接的で分かりやすく暴力性を持っているSNSをあげた。しかし、商品説明欄に

「本品は願掛けですので、神社で買う御守りと同様に効果が有るのかも知れないですし、無いのかも知れません。」

と書かれているように、効果の有無が不確かな呪術的な思想や実践は、現在も継続して行われていた。これは、身体的な実践であり、フィジカルなものである。インターネットのような二次元世界ではなく、日常の中におけるものである。素直な表現であり、とても人間らしいものだと思う。

 現在の藁人形の特徴を整理してみる。それは、分かりやすさ(心象ではなく視覚的なもの、抽象から具象へ)が変化した点ではないだろうか。藁人形は、爪や髪を入れ込むことで感染呪術の機能が付与されていた。しかし、それらの代替物としてQRコードを使用されるように変化していた。これは、日常の変化、合理的な分かりやすさの追求によるものだと考える。願主の願いがQRコード化されることで、願いなどの情動の部分が視覚的に現れる。これは、昨今のインターネットと同様で、個人の中にあったもの(情)が、テキストやイメージとして溢れ出ることで、消化されるものだ。


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